お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

嫌な感じ





 「りょうちゃん、どう?似合う?」
 「めっっっっっちゃかわいい。やばい。かわいすぎる。やばい」
 
 試着室で普段は着ないような感じのゴスロリっぽい服を着て恥ずかしそうな表情をしているまゆを僕は絶賛する。そしてすぐに店員さんを呼んでお会計を済ませる。問答無用で買いだよ。費用は当然、僕が払う。こんなにかわいいまゆを見られるなら安いものだ。

 「ちょ…りょうちゃん…まだ、買うって決めたわけじゃ…」
 「買って!そして着て!めっちゃかわいいから。ていうか僕がプレゼントするから着てください」

 そう言って強引にお会計を済ませてまゆに服を買ってあげる。僕に服代を出させてちょっと不機嫌になったまゆは、今度は僕の服を選びに行こう。と提案する。本音としてはもっとまゆのいろいろな服装を見たいが…まゆの要望には答えないといけないので、今度は僕の服を選び始める。

 「りょうちゃん、めっっっっっちゃかっこいい」

 普段、見た目よりも着やすさを大事にする僕が絶対に着ないようなお洒落な服を半ば無理矢理僕に着させて、着替えた僕を見てまゆが悶え始める。

 「店員さん!これ、お会計お願いします」

 ………さっきと立場が逆転しただけで先程と同じことが起こった。何これ、もう完全なバカップルのやり取りじゃん。

 「まゆに財布出させるの申し訳ないし自分で払うよ」
 「だーめ。まゆが買ってあげたいの。まゆがプレゼントしてあげたら、りょうちゃんは大切に着てくれるでしょう?」
 「う、うん。そうだけど…」

 自分でお会計した場合、着るのがめんどくさくていつも着てるようなパーカーばかり着る日々が続きそうだけど、まゆからのプレゼントとなれば頻繁に着る気がする。

 「こ、今度さ、お互いにプレゼントしあった服を着てさ、2人でデートしようよ!2人でさ、ちょっとだけ遠くに行ってさ…いっぱい楽しい思い出作ろうよ」

 2人で……か……まゆも……そう、思い始めてしまったのだろうか……ちょっと前のゆいちゃんとのやり取りを思い出して何とも言えない気持ちになってしまう。

 「りょうちゃん、大好きだよ」
 「僕もまゆのこと大好きだよ」

 そう言ってまゆと手を繋いで歩く。まゆと手を繋いで、買い物を楽しんで、おやつにクレープ屋さんでクレープを買って、まゆにかわいらしいアクセサリーを買ってあげて、車に戻ってまゆの実家に帰る。

 まゆの実家に着いて、買い物の荷物を整理した後は、まゆと一緒に夜ご飯を作る。まゆは僕の大好物ばかり作ってくれた。

 「頑張って作るからまゆの料理が世界一美味しいって言ってね」

 夜ご飯を作りながら笑顔で言うまゆに僕は苦笑いで応えることしかできなかった。僕の大好物は…春香の得意料理だから…まゆも当然、そのことは知っている。それなのに、まゆの料理を一番と言って。と言うことは…まるで、春香に対抗しようと…春香より自分の方が上だと言って。と言われているような気がした。

 「ま、まゆの作ってくれるものはなんでも美味しいからすごく楽しみだよ」
 「春香ちゃんとゆいちゃんが作った料理よりも美味しいって思う?」
 「うーん。春香とゆいちゃんも料理めちゃくちゃ上手だからなぁ…料理が上手な彼女を持てて僕はすごく幸せだなぁ」

 明らかに春香とゆいちゃんに対抗意識を持っていたまゆの問いかけに対して僕は誤魔化すように曖昧に答える。

 「まゆの料理が一番って言わせるから楽しみにしててね」

 僕の返事を聞いたまゆは笑顔で僕にそう言って料理を再開する。なんだろう。すごく、嬉しいことのはずなのに…素直に喜べない。

 なんか、大切なものに少しずつヒビが入ってしまったような感覚がする。ちょっとだけ、嫌な感じだ……






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