お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活
崖っぷちの2択
 「ゆいちゃん、危ないよ…」
 アパートを出てからずっと走り続けたゆいちゃんを追いかけていると海沿いの堤防に到着した。ゆいちゃんは堤防の端に立っていて、あと数歩進んだら海に落ちてしまいそうだ。見ていて怖い。
 「ほら、ゆいちゃん、帰ろう」
 僕はゆいちゃんと手を繋ぐためにゆいちゃんの手に向けて手を伸ばす。ゆいちゃんはそれを拒むようにして自分の手と手を組み合わせて離さない。
 「もう、あそこには帰らない…帰りたくない…帰れない…」
 「ゆいちゃん……」
 「私、わがままだからさ、このままいると全員不幸になっちゃうよ。りょうくんには幸せで居てほしい。りょうくんが幸せになって…その隣に誰がいるか…それは、りょうくんが選んでよ…」
 春香とまゆの2人かゆいちゃん、どちらかを選べと迫られているように感じる。選べない。選べるわけない。僕は春香もまゆもゆいちゃんもみんな大好きでみんな幸せにしたくて、4人で幸せになりたいのだから……
 「りょうくん、私と一緒に私のアパートの部屋で暮らそうよ…もう、4人ではいれないだろうからさ…選んでよ。私と幸せを目指すか、春香先輩とまゆ先輩と前みたいに3人で幸せになるか…」
 泣きながら、ゆいちゃんは僕の方を振り向いて僕に問いかけ、選択を迫る。春香とまゆを、春香ちゃん、まゆちゃんと呼んでくれないことがすごく悲しく感じて、4人で一緒になる前のように、春香先輩、まゆ先輩と呼んだことはゆいちゃんが本気で言っていることを表しているように感じた。
 「選べな……」
 「選べない。とか3人で今まで通り居たい。って言うなら私は消えるよ。そのためにここで聞いたからさ…」
 「ずるいよ…」
 「ごめん…」
 そんなことさせない為に、僕がゆいちゃんに1歩近づくとゆいちゃんは僕から逃げるように1歩下がる。そこまで高くない堤防、落ちても怪我すらしない可能性の方が高いだろう。でも、今のゆいちゃんが落ちたら…もう、戻ってきてくれない気がした。
 「僕は…4人で幸せになりたい。4人で幸せになるって決めたじゃん。3人を必ず幸せにする。って誓ったから…」
 「これ、返す……」
 ゆいちゃんは自分の左手の薬指から指輪を外して、ポケットに入っていたスマホを取り出して手帳型のケースのカード入れ用の隙間に指輪を大切そうに挟んでからスマホからケースを外して指輪が挟まっているスマホケースを僕に投げた。
 「私を選んでくれるなら。私と幸せになる。って誓いなおしてから私に指輪を付けて…無理なら…帰って……」
 ゆいちゃんのスマホケースを上手にキャッチして、僕はゆいちゃんの指輪をスマホケースから取り出した。
 「ゆいちゃん、好きだよ」
 「私も、りょうくんのこと大好きだよ。世界で一番、りょうくんのことがすごーく大好き」
 
 1歩、ゆいちゃんに近づく。
 「私を…選んでくれるの?」
 「ゆいちゃんも、選ぶ。絶対、幸せにする」
 「ごめんね」
 一言、そう言ってゆいちゃんは1歩下がった。僕がまた1歩近づくとゆいちゃんはまた1歩下がる。
 「ゆいちゃん、安心して落ちていいよ。絶対、助けるから…絶対、ゆいちゃんの手を掴むから、絶対、ゆいちゃんの手にまた、指輪を付けるから…」
 そう言って僕はドンドンゆいちゃんに近づいた。ゆいちゃんは少しずつ、僕から逃げるように後ろに下り、遂に…足場がなくなり海に落ちた。
 ゆいちゃんが落ちる少し前に、僕は全力で走ってゆいちゃんに触れる。空中で一瞬の時間に、僕はゆいちゃんを抱きしめて、ゆいちゃんと一緒に海に落ちた。
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