お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

信じる選択






 「落ち着いた?」

 りょうちゃんがゆいちゃんを追いかけて出て行ってからしばらくの間、まゆを責めたりしないで黙って優しく抱きしめていてくれた春香ちゃんがまゆに尋ねる。まゆが黙って頷くと春香ちゃんはよかった。とだけ言ってまゆを抱きしめるのをやめてまゆの隣に座ってまゆと手を繋いでくれる。

 春香ちゃんの手は、すごく温かくて、優しい。まるで…りょうちゃんみたいな手で、触れているだけで安心できる。

 「まゆ、言いすぎたよね……」
 「うーん。どうだろう…まゆちゃんが言ってなかったらもしかしたら私が言ってたかもしれなかった」

 春香ちゃんは笑いながら言う。それが、まゆに気遣っての冗談なのか、本気なのか、春香ちゃんはまゆに読み取らせてくれなかった。

 「春香ちゃんはさ…どう思ってたの?」

 気になった。まゆと同じ境遇にいた女の子が、あの時、何を思っていたのか、何を考えていたのか…

 「まゆちゃんと同じだと思うよ。私は、ゆいちゃんのことすごーく大好き。まゆちゃんのことも、りょうちゃんのこともすごーく大好き。でも、やっぱり…一緒にいた時間が長い分、私にとってりょうちゃんとまゆちゃんは特別なの…まゆちゃんも、わかるでしょう?」

 うん。とまゆは頷いた。まゆも、りょうちゃんと春香ちゃん、ゆいちゃん、みんなすごく大好きだけど、その中でもりょうちゃんと春香ちゃんは特別だった。

 「ゆいちゃんにとって…特別なのはりょうちゃんだけだったんだよ。私とまゆちゃんのことを好き。って思ってくれてもそこに特別な感情はなかった。ゆいちゃんにとって特別は1人だったから、1人を求め続けちゃったんだよね。もっと早く…気づいてあげたかったな。たぶん、今回の件は私が悪いや…ゆいちゃんがりょうちゃんに甘えた時、私が譲ったりしないで…私がりょうちゃんの代わりにゆいちゃんに愛情を注いであげるべきだったのかなぁ…って…」

 まゆと、りょうちゃんと春香ちゃん、3人の幸せと、りょうちゃんとゆいちゃん、2人の幸せ、それが合わさっていたのが、今までの4人の幸せだった。

 それではいけなかった。本当の意味で…4人で幸せになれていなかった。

 「どう、なっちゃうのかな……」
 「わからない」

 まゆの問いに春香ちゃんは即答した。わからない。と…まるで、他人事のように……

 「とりあえずは、りょうちゃん待ちかな…私は信じてるから…りょうちゃんの4人で幸せになる。って言葉を…3人全員幸せにする。って言葉を…そのために、りょうちゃんは今、頑張ってると思う。だから、りょうちゃんが帰ってきたら精一杯労ってあげて、話を聞いて、4人で幸せになる道を探して、出来ることは精一杯協力する…」
 「りょうちゃん任せすぎない?」
 「3人全員を幸せにする。半端な覚悟でりょうちゃんは言わないよ。だから、これくらい…りょうちゃんならなんとかするって信じてるだけ。なんとかできないようなら…前みたいに3人に戻るだけ……」

 淡々と、春香ちゃんは口にした。まゆよりも長く、りょうちゃんと一緒にいて、りょうちゃんのことをきっと、世界で一番知り尽くしている春香ちゃんの信じてる。という一言にはすごく、説得力があった。

 3人に戻るだけ…と言う春香ちゃんの最後の言葉に一瞬びっくりしたが、春香ちゃんの表情を見ると、そんなことはあり得ないだろうけどね。と言うような表情をしていた。この、春香ちゃんの重すぎる信頼に応えなければならないりょうちゃんは大変だなぁ。

 「落ち着いた?」
 「うん。おかげさまで…」
 「りょうちゃんとゆいちゃん探しに行く?」
 「やめとく。まゆも、りょうちゃんを信じて待ってみる」

 まゆの答えを聞いた春香ちゃんは笑いながら、それがいいと思うよ。と言っていた。

 まゆも、りょうちゃんを信じるよ。あの時、4人で幸せになる。と言った言葉を…3人全員幸せにする。と言った言葉を……最初は、誰だって失敗しちゃうよ。でも、やり直せばいい。まゆは、りょうちゃんが望むならいくらでも付き合うし、いくらでも力を貸す。

 りょうちゃんが望んだ4人の幸せ。りょうちゃんが宣言した3人の幸せ。大丈夫。りょうちゃんなら…うまくやってくれる。大好きなりょうちゃんを信じるよ。頑張って頑張って、失敗したら、まゆが慰めてあげよ。まゆが側にいて支えてあげよ。

 3人を幸せにする。と言うのはすごく、大変なことだろう。いっぱい失敗して、すれ違って、傷つくかもしれない。どれだけ、りょうちゃんが失敗しても、まゆも春香ちゃんもゆいちゃんも、りょうちゃんのことを嫌いになることはあり得ないだろう。だから、いっぱい間違えればいい。りょうちゃんにはまゆと春香ちゃんとゆいちゃんがいる。きっと、それだけでりょうちゃんは精一杯頑張ってくれる。難しい道だけど、その分、上手くいく道を見つけられたら…本当の意味で4人で幸せになれたら……きっと、すごく幸せだろうな。







コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品