お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

優しくしないで。






 どうしてあげればよかったのだろう……
 ゆいちゃんの部屋を出てからずっと、そればかり考えていた。今、こんな状態で春香とまゆに会うことなんてできないので、僕はゆいちゃんの部屋の近くにある公園に向かった。

 ブランコに座り、ボーっと空を眺めてずっと、同じことを考える。答えなんて出ない自分の問いに対する回答を必死に探し続けていた。

 それと同時に、すごく、心配だった。ゆいちゃんに優しくしていたつもりが、かえってゆいちゃんを苦しめていた。ゆいちゃんがどれほど苦しんでいたかは計り知れない。それなのに、僕はゆいちゃんをおいてきてしまった。もう、僕にはゆいちゃんと友達でいたい。と言う資格すらないだろう。

 僕はさきちゃんに連絡をする。ゆいちゃんをお願い。と…僕は、本当にどうしようもないくらい最低な人間だ。ゆいちゃんを傷つけるだけ傷つけて、後処理は他人に丸投げ…

 「本当に、クズだな……」

 そう呟いた時、スマホが震えた。確認してみると、ゆいちゃんからのメッセージだった。

 「いっぱい迷惑かけてごめんなさい。さっきは、酷いこと言ったけど、優しくしてくれてありがとう。嬉しかった。幸せだった。だから、自分を責めたりしないでね。りょうくんは何も悪くない。私を慰めてくれてありがとう。わざわざ来てくれてありがとう。私のわがままでりょうくんを傷つけていたらごめんなさい」

 気づいたら泣いていた。1番辛いのはゆいちゃんのはずなのに…僕のことを心配して、こんな優しい言葉をくれるゆいちゃんの優しさを受けて、罪悪感を感じてしまう。

 「なんで…僕なんかに優しくしてくれるの……」

 泣きながら、そう呟く。恨まれるならまだしも、こんな優しい言葉…投げかけないでよ……

 苦しみや後悔、いろいろなマイナスの感情がドッと押し寄せてくる。胸が焼けそうになるくらい辛くて苦しかった。

 「だーれだ」

 突然、視界が暗くなって僕の周りが温かさで包まれたような気がした。

 「春香…どうしてここに?」
 「買い物終わったから、まゆちゃんとドライブしてたら、りょうちゃんの姿が見えたからさ。りょうちゃんが悲しんでる時に慰めてあげるのは私とまゆちゃんの役目だから来ちゃった。まゆちゃんも車停めたら来るよ」

 春香は僕にそう言って、僕の視界を塞いでいた手を離す。僕が、春香の方へ振り向くと春香は笑顔で僕を抱きしめてくれる。

 「ごめんね。ゆいちゃんからのLINE、見えちゃった。詳しくはわからないけどさ…りょうちゃんも辛かったでしょう。今日はさ、帰っていっぱいご飯食べよ。まゆちゃんと2人でいっぱいりょうちゃんの好きなもの作ってあげる。話を聞いて欲しいなら聞くし、頭撫でたり抱きしめて欲しかったらいくらでもしてあげる。りょうちゃんのお願いならなんでも聞いてあげる。だから、帰ろう。こんなところでメソメソしてないで、帰ろう。辛かったよね。大変だったよね。りょうちゃんはよく頑張ったと思うよ。今日はいっぱい甘やかしてあげる。だから、帰ろう」

 たぶん、ゆいちゃんからのメッセージを見て、春香はだいたいの状況を悟ったのだろう。僕が苦しんでいることもお見通しで、だから、こうして優しくしてくれるのだろう。このまま、春香を抱きしめてしまいたかったけど、それはできなかった。ゆいちゃんを傷つけた僕だけが、幸せになっていいのか、と思ってしまったから……

 「ほら、早く帰ろ。まゆちゃんも迎えに来てくれたからさ」

 気づいたら春香の隣にまゆがいた。僕は春香とまゆに手を引かれて歩き始めた。まゆの車に乗ってから、春香もまゆもゆいちゃんの話題には触れない。その優しさが、ありがたくて…辛かった…僕は、誰かに優しくして欲しいんじゃなくて…誰かに責めて欲しかった。悪いのは自分だと、誰かに認めてもらいたかった。

 アパートに帰ってから、春香とまゆは僕の好きなものをいっぱい作ってくれて、いっぱい甘やかしてくれた。すごく、幸せだったけど…純粋に幸せを味わうことはできなかった。春香とまゆは、そのことを察してくれたみたいで、春香とまゆが2人でお風呂に入って、少しだけ1人にしてくれた。

 その際にさきちゃんからメッセージが届いていたことに気づいた。

 「ゆいは大丈夫だから心配しないで。私にゆいのこと教えてくれてありがとう。今は少し落ち着いてるから安心してね。ゆいのことは一旦忘れて、りょうちゃんは自分の心を癒してね」

 さきちゃんから送られてきていた優しいメッセージを見て、1人で泣いた。なんで、こんな僕にみんな優しくしてくれるのだろう……






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