お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

普通と基準と仲直り





 「りょう君、春香ちゃんが来る前に少し話していい?」
 「はい」

 まゆが春香を呼びに行って少しするとみのり先輩が僕に言う。僕が頷きながら答えるとみのり先輩はありがとう。と言う。

 「どうして、春香ちゃんだけを選んでくれなかったの?……あ、責めてるわけじゃなくて、気になって聞いてるだけだからね」

 みのり先輩は慌てて僕に言葉を付け加える。どうして。かぁ…どうして、僕は春香とまゆを選んだのか…最初は選べなかった。2人から告白されて、僕はどっちも好きになって、気づいたら、僕がどちらかを選ぶまでどちらも大切にする。って約束していて、そして、時間の流れと共に…この幸せを永遠のものにしたい。と思えた。そう考えると…

 「みのり先輩、ごめんなさい」
 「え?」

 いきなり謝られてみのり先輩は困惑する。

 「僕、みのり先輩に僕たちの関係を否定されて、どうして理解してもらえないんだろう…って思ってました。今、みのり先輩に聞かれて、どうして2人と付き合ったのかを思い出したら、僕も最初は両方と付き合うつもりはなかったな。って思って…最初は、いっぱい悩んだんですよ。春香とまゆから好き。って言ってもらえて、どちらも僕にはもったいないくらい素晴らしい女性で、選べなかったです。選ぶまで、どちらも大切にして、いつの間にか春香とまゆを大切にすることが日常になって、ようやく春香とまゆ、両方を選ぶ選択肢を決めたんです。やっぱり、1人と付き合うのが当たり前の社会で暮らしていたら、僕たちは異常ですよね。理解して欲しい。って思う方が、おかしいですよね。でも、気づいたら春香とまゆを大切にすることが僕にとっての当たり前になっていた。だから、僕は春香とまゆを選びました」
 「そっか…」

 私とは違う世界で生きてるんだね。と言うような表情で僕を見つめたみのり先輩を見て、僕は何とも言えない気持ちになる。僕とみのり先輩がそんなやり取りをしているとまゆが春香を連れてきてくれた。

 「まゆ、ありがとう」
 「貸しだからね。今度、まゆに何かしてよ」
 「わかった。ありがとうね」

 小声でまゆとそんなやり取りをしてから向かい合っている春香とみのり先輩に声をかける。

 「春香、みのり先輩、僕とまゆは家に入ってましょうか?」
 「りょうちゃん、まゆちゃん、側にいて…いいよね?」
 「うん…」

 みのり先輩が頷いたのを見て僕とまゆはその場にいる選択をした。

 「みのちゃん、その…ごめんなさい。私、ムキになって酷いこと言ったり、酷い態度取ったりした…」
 「春香ちゃん、謝らないで…大切な人を悪く言われたら怒るのは当然だよ。私だって、誰かが春香ちゃんのこと悪く言ったりしたら怒るもん。私の方こそごめんね。普通に考えたら私が正しいって思ってた。でも、春香ちゃんたちは3人でいることが当たり前なんだよね。ムキになって、理解しようとしなくてごめんなさい」
 「いやいや、悪いのは私だから…」
 「いやいや、私が悪いから…」

 気づいたら2人はお互いに謝りあっていた。キリがない。と思うくらい、お互いに謝り続けてしばらくすると春香が僕の横にやってきて僕とまゆと手を繋ぐ。

 「みのちゃん、私ね。りょうちゃんとまゆちゃんと一緒に幸せな日常を過ごしてるよ」
 「そっか…これからもお幸せにね……」
 「うん!みのちゃん、こんな私だけどさ、これからも仲良くしてくれる?」
 「うん。春香ちゃん、これからも私と仲良くしてね」

 春香とみのり先輩は仲直りを果たして、僕とまゆはほっとする。

 自分にとっての当たり前とは何か、自分の当たり前を他人に当てはめることは正しいのか、それは誰にもわからない。明確な基準があるわけではない。基準があったとしてもその基準は少し視点を変えただけで制限や束縛に変わったりする。基準は必要だ。基準がないとこの世は成り立たない。だが、基準とは何かを考えさせられる一件だった気がする。





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