お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活
信じること
 「まゆちゃん、夜ご飯作ってもらったから後片付けは私がするよ…」
 「大丈夫。春香ちゃんは休んでなよ。りょうちゃん、春香ちゃんの側にいてあげてね。とりあえずお風呂とか入れてくるから春香ちゃんのこと、任せるよ」
 「うん。まゆ、ありがとう」
 僕はまゆに夕食の後片付けをしてくれるまゆにお礼を言いながら、いろいろと家事をしようとする春香の腕を掴んで僕の隣に座らせる。
 「………あまり、いちゃいちゃはしないようにね」
 「はーい」
 僕に釘をさしてまゆはお風呂場に向かって行く。ついでに洗濯もするみたいで洗濯物を持って廊下に出た。
 「さぁて、じゃあ。何があったか話してもらおうかなぁ」
 まゆが廊下に出て行き、春香と2人きりになった僕は春香の顔を見て春香に何があったかを尋ねる。
 「ちょっと体調悪いだけだよ。大丈夫。心配かけてごめんね」
 こういう時、自分の中で大切な何かが崩れたり、すごく大きな問題を抱えた時、春香は僕と同じような行動をする。
 大好きな人に余計な心配をかけたくない。その気持ちは本当によくわかる。いつも、僕が感じていたことだから…僕の時は、春香とまゆは…優しくしてくれた。支えてくれた。限界になったら頼ることを条件に信じてくれた。ならば僕も…
 「信じるよ。春香。春香の中で何かあったのか、わかってあげられなくてごめんね。春香に何かあったのかわからない。だから、信じるよ。春香が僕にしてくれたみたいに、信じて、春香がいつも通り笑ってくれるのを待つよ。だけど、本当に限界だったら、相談して欲しいな」
 今日、僕とまゆがバイトから帰ってから、春香は本気で笑っていない。愛想笑いのような笑みを浮かべたりはしているたが……本気では笑ってくれていない。そんな気がしていた。
 「ありがとう……」
 「泣かないの。春香の泣き顔、僕は見たくないなぁ」
 「私の泣き顔、不細工?」
 「そ、そんなことはないよ。泣いてても春香はかわいいよ」
 「じゃあ、いいじゃん」
 「泣き顔より笑顔の方がかわいいの。だから笑え〜」
 僕は泣き顔の春香の頬を軽く摘んでほっぺたを伸ばす。
 「ほら、笑ってる方がかわいい」
 「これはぁ、笑ってるってぇ、いわ、ない」
 ほっぺたを摘まれているので、喋りづらそうに春香が言う。たしかに、笑ってるとは言わないか。
 「でも、ほら、笑ってくれた。かわいいよ。春香」
 僕が春香のほっぺたから手を離すと春香は笑っていた。かわいい。
 「ありがと。べ、別に何もなかったけど…その、もし…耐えきれなくなったら…頼るから……」
 「うん。頼って」
 僕の返事を聞いた春香は僕に抱きついてくる。かわいい。僕は春香を抱きしめ返す柔らかい春香の身体をぎゅっと抱きしめて春香の温もりを感じる。同じシャンプーを使ってるはずなのに、春香の髪はすごくいい匂いがする。
 昔、春香が泣いた時はいつもこうやって慰めていたなぁ。ほっぺた引っ張って笑わせて、泣きついてくる春香を抱きしめて……懐かしい。あの頃と、全然変わってないね。
 「ごめんね。心配かけて」
 「大丈夫だよ。いつもは僕が心配かけてるから、たまには心配かけられないとさ」
 「たしかに。これを機にいつも、私やまゆちゃんがどれだけりょうちゃんを心配して、りょうちゃんのこと考えてるかよーく実感するといいよ」
 「あれぇ。何もなかったんじゃないの?何もないのに僕、心配しないといけないの?」
 僕が悪戯っ子のような表情で春香に言うと春香はバカ。と言いそっぽ向いてしまった。ごめんて……
 「りょうちゃん、大好き」
 「僕もだよ。大好き」
 「もっと言って」
 「好き。大好き。めっちゃ好き」
 「もっと!」
 「えぇ…」
 これ以上は照れ臭いし、これ以上なんて言えばいいの?世界で一番好き。とか、春香に言ったらまゆが怒るだろうし……言葉では表せないや……
 「これ以上何て言えばいいかわからないから行動で示すね」
 「んん……」
 僕は春香に深くキスをして、好き。を表現する。春香の顔は一瞬で真っ赤になって、幸せそうな表情をする。
 「わ、私も…りょうちゃんのこと好き。大好き。めっちゃ好き」
 お返し、と言うように春香は僕にキスをした。お互い、幸せそうな表情で向かい合い、2人でタイミングを合わせて3度目のキスをする。
 「春香、信じてるからね」
 「うん。信じて」
 春香の言葉を聞いて、今はこれ以上は何も言わない。信じるって決めたから。
 「3回ねぇ。ずるいなぁ」
 部屋の隅で僕と春香のやり取りを見ていたまゆが頬を膨らませて不満そうにしている。僕が手招きすると、嬉しそうな表情で僕の隣に座るので、春香にしてあげたように、まゆにキスをして、キスをしてもらい、キスを交わした。
 「さすがりょうちゃんだね。春香ちゃん、さっきとは表情が違うよ」
 3回目のキスをした後、まゆは小声で僕に言う。僕が、春香に何かをしてあげられたのならよかった。
 今は、信じて待とう。いつも、春香とまゆが僕を信じてくれるみたいに……信じて待つ。そう、決めた。
 
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