お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

幕間-合宿終わり





 かなり…空気が重い感じがした。
 合宿が終わり、楽器をホールに運搬し、解散となり、僕と春香とまゆはまゆの車でアパートに帰る。

 車の中の空気が重い……僕もまゆも、様子を伺っていたのだと思う。春香が今、何を思い何を考えているのか…僕とまゆにはわからないから。

 僕もまゆも、これまで春香がどれだけ努力してきたかを知っている。何て…声をかけてあげれば……

 「……なんか、ごめんね。りょうちゃんもまゆちゃんも気を遣ってくれてるよね……ごめん……」

 空気が重いことを感じたのか、1番最初に口を開いたのは春香だった。春香は全然笑えていない笑顔で、先程のことは気にしてないよ。と言うような様子で春香は僕たちに言った。

 辛いはずなのに…悔しいはずなのに…僕たちに心配させないように笑顔で言う春香が……すごく愛おしく感じてしまう。いつもなら、僕は助手席に座っているが、車に乗る前に、まゆが春香の隣にいてあげて、と言ってくれたので、僕は今、春香の隣にいる。だから…僕は迷わず、春香を抱きしめてしまった。

 「りょう……ちゃん?」
 「無理に笑わなくていいんだよ。悔しくて辛いなら、悲しそうな顔してもいい。泣いてもいい。絶対、僕が慰めてあげる。悲しそうな表情してるからって、春香のことめんどくさいな。って思ったり、嫌いになったりは絶対にしない。だから、安心して泣いていいんだよ。少なくとも、無理して笑って欲しくない」

 僕は優しく…だけど、力強く、春香の耳元で囁く。ふと目を開くとバックミラー越しにまゆの表情が見えた。まゆの顔は真っ赤に染まっていて片手で口を押さえている。春香に向けて言ったのになぁ…笑。まあ、まゆが今回の春香と同じ状態になってたら同じことを言っていたと思うけど…

 僕は僕に抱きしめられ、僕の胸に顔を当てて泣いている春香の背中を優しく撫でる。僕が優しく撫でてあげると、春香は今まで我慢していたことを解放するように思いっきり泣いて僕を思いっきり抱きしめた。

 結局、アパートに着くまで春香は泣いていて、春香が泣き止んでくれないから車から降りられない状況になっている。運転が終わり、車のエンジンを止めたまゆは運転席の扉を開けてテクテクと後部座席の扉まで移動して、後部座席の扉を開ける。

 ちょっと狭いなぁ。と言いながら僕の隣に座って、僕を抱きしめる。かわいい。

 「そのままでいいよ。今は春香ちゃん優先してあげて」
 「ありがとう。まゆ」

 僕が春香を抱きしめていた手を片方まゆに伸ばそうとするとまゆがそう言ってくれたので、僕は安心して両手で春香を抱きしめてあげられた。

 「春香、また、一緒に練習しようね」

 誤算があった。あの時、5月くらいの合奏ならば、今日の春香の音量で、十分だ。だが、他のパートも当然上手くなっているし、何より、バリサクが追加されたのがかなりでかい。しかも2本も…片方は化け物級に上手いし、今の春香では勢いが持ってかれていた。

 「りょう…ちゃん……おねが……い…が……ある……の…」

 泣きながら強引に出したような声で春香が僕に言う。力のこもっていない泣き声での最愛の人からのお願い。当然、聞いてあげたいし、叶えてあげたい。でも…

 「僕が一緒に吹くのは最終手段だからね。最終手段使うには早いし、そこは甘やかさないよ」
 「……じゃあ、いい」
 「大丈夫。春香なら絶対できる」
 「ありがと……」

 まだ、僕が出るには早い。だって、僕が知っている春香なら…乗り越えられる壁だから。でも、今、甘やかさない。と言ったのを、将来後悔するかもしれない。今、甘やかさないことで、春香がまた、遠くへ…僕では手の届かない領域にまた一歩、春香が踏み込んでしまうかもしれないから……上手くなりたい。春香を抱きしめながら僕はそう思っていた。






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