お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

合宿、合奏前





 「こんなところにいた」
 「………いいの?また、春香先輩とまゆ先輩に怒られちゃうよ」
 「春香とまゆが行ってこい。って言いだしたんだよね」

 夕食が終わり、夕食後の合奏まで20分間休憩や準備の時間が設けられていた。その時間、合奏が行われる講堂からだいぶ離れた場所にあるソファーに1人で座っていたゆいちゃんに僕は声をかけた。

 「大丈夫?」
 「大丈夫って…何が?笑」
 「音が荒れてたからってゆき先輩が心配してたよ。高音セクションの時から変だったって…」
 「あはは…気にしすぎだよ」

 笑いながら言うが、本心では笑っていないように見えた。ゆいちゃんに隣に座っていいか確認を取ってから僕はゆいちゃんの隣に座る。

 「優しくしないでよ…」
 「優しくなんてないよ」
 「なんかさ、わがままなのはわかってるけどちょっと辛いよね」

 ゆいちゃんは僕にもたれかかりながら言う。

 「さきがさ、こう君と付き合えたことは本当に嬉しいんだよ。でも、昨日、私のこと好きって言ってくれたこう君がさ、さきと付き合ってあんなに幸せそうにしているのを見ると、昨日、私を好き。って言ってくれたこう君は何だったんだろう。って思っちゃうんだ……わがままだよね。私…」
 「うん。すっごくわがままだと思うよ」
 「ひどっ…」

 酷いと言いながらゆいちゃんは僕にぴたりとひっついてくる。困るんだけどなぁ……

 「私は……こう君みたいになれないと思う」
 「ん?」
 「こう君みたいに、振られても切り替えることができないと思う…いや、できなかった」
 「そうだね。知ってるよ」
 「りょうくんはさ、もし、私が…りょうくんに振られた後、あっさりりょうくんを諦めて他の人と付き合っていたりしたらどう思う?」
 「僕は……ゆいちゃんがそれで幸せになれるなら全然いいと思うよ」

 僕が返事をするとゆいちゃんは僕を見つめる。

 「そうやって言ってくれるのに私のこと幸せにしてくれないんだね」
 「ごめん」
 「謝らないでよ。冗談だから」

 ゆいちゃんは笑いながら言うが、半分は本気で言っていた気がする。

 「なんとかなりそう?」
 「なんとか…しないと。だね。なんとかするよ。りょうくん、応援して…」
 「うん。応援するよ」

 何を…応援するのか、お互い言わなかった。

 「私、りょうくんのために、りょうくんのことを想って吹く。ちゃんと聞いていてね。いつか必ず……」

 いつか必ず…あの時、ゴールデンウィークの前に行われた合奏を思い出す。あの時のゆいちゃんの音を…ゆいちゃんの宣言を…あの時の、春香とまゆに向けた戦線布告はまだ生きているよ。と言うようにゆいちゃんは僕の顔を見て微笑む。

 「合奏、期待してるね」
 「うん!もう、セクション練習の時みたいなヘマはしないよ!期待してて!」
 「ゆき先輩に謝っておきなよ。心配してたからさ、あと、春香とまゆもゆき先輩から聞いて割と心配してたからね」
 「あはは…ゆき先輩にはちゃんと謝るとして…春香先輩とまゆ先輩には合奏で伝えるよ」

 ゆいちゃんは笑顔で僕にそう言って、そろそろ合奏の時間だから戻ろう!と、僕の手を引いて歩き出す。



 「お疲れ様、ゆいちゃんは大丈夫そうだった?」
 「うん。もう大丈夫だと思うよ。ありがとうね。まゆ」
 「いいよ。合奏まで一緒にいてくれなかった分、明日合宿終わってからいっぱいいちゃいちゃしてもらうから」
 「あはは、疲れて帰ったら3人ですぐ寝ちゃいそうだよね」
 「そう簡単には寝かせないから覚悟しといてね」

 と、講堂に戻ってまゆとそんなやり取りをして笑っていると、僕の隣にいた春香がツンツン。と僕の腕を突く。僕が春香の方を振り向くと、ちょっとお怒りのご様子だった。

 「りょうちゃん、まゆちゃん、お願いだから…他に人がいるところであまりそういうやり取りしないように…恥ずかしいから…」
 「「ごめんなさい」」

 春香に割と真顔で言われ、僕とまゆは少しだけぞっとしながら春香に謝る。

 「りょうちゃん、明日は徹夜でお説教だからね」
 「え……」
 「とか言って春香ちゃんが一番最初に寝ちゃうんでしょう」
 「そ、そんなことないもん!明日はりょうちゃんを徹夜でお説教するの!」
 「春香ちゃんが寝ちゃったらまゆが1人でりょうちゃんにお説教しよっ」
 「絶対起きてるもん」

 お説教って…明日は合宿終わってからゆっくりできると思っていたのに。ま、まあ…春香とまゆといちゃいちゃできるならいいか……

 「「りょうちゃん、ニヤニヤしすぎ!」」

 春香とまゆに同時に怒られた。そんなにニヤニヤしていたのかな……

 「はいはい。そこのバカップル、合奏始まるよ。ほら、まゆちゃん、席に戻って」

 りっちゃんさんにそう言われて、今までの会話が周囲に筒抜けだったと知り、僕たちは恥ずかしさを感じた。周囲の人がニヤニヤしながらこちらを見てくるのが本当に恥ずかしい。

 まゆは逃げるように自分の席について何ごともなかったように楽器を構える。僕と春香も恥ずかしかを感じながら楽器に息を通して合奏に備えた。






 

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