お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

低音セクション





 「みーちゃん、落ち着こうか……」

 低音セクションが始まりしばらくするとりっちゃんさんが呟いた。

 「暴走しないで…って言いたいけど…うん。みーちゃんの言いたいこともすごーくわかるよ。うん」

 りっちゃんさんに落ち着くように言われて不満そうな表情をしたみはね先輩に事前に釘を指すようにりっちゃんさんが言うとみはね先輩はむすっとした表情をする。

 「まず、ファゴットとバリサク…あー、陽菜ちゃん、少し遅れてるから気をつけて」

 パッと指摘してりっちゃんさんはどうするか。と悩むような仕草をして少しすると口を開いた。

 「まあね。今、私たちはメトロノームのテンポ通りやってるわけよ。まあ、たしかに、メトロノームのテンポ通りやれば曲は安定するし、ある程度のところまでは行ける。でも、それだと機械的でつまらないし、上のコンクールまでは行けない。って、言いたいんだよね?」

 りっちゃんさんがみはね先輩を見ながら尋ねると、みはね先輩はうん。うん。と頷く。まあ、たしかに、みはね先輩が言いたいことはわかる。

 「で、結果どうなってる?みーちゃんが暴走して終わり。それが今の現状ね。わかるよ。みーちゃんは上手い。もっと合奏引っ張りたいのもわかるけど、コンクールは個人戦じゃなくて団体戦だよ。足並みはある程度揃えないと」
 「りっちゃん、つまらなくなったね」
 「は?」

 みはね先輩を説得するようにりっちゃんさんが言うが、みはね先輩はりっちゃんさんの言葉を容赦なく断ち切った。

 「つまらなくなったって?」
 「うん。前のりっちゃんなら今の私みたいにもっと早く曲進めるぞ!みたいな感じで煽りまくっていた気がする」
 「そりゃ、そうかも知れないけど…」
 「私はね。みんなならできるって思ってるよ。この合宿で、それぞれ頑張ってる姿見たからね。大丈夫。低音パートならできる。失敗を恐れて前に進まないでいるのなら、この練習に意味はない」

 みはね先輩はできる。と断言した上でそう語った。寸分の迷いも不安もないような表情で力強く言う。

 「せっかくの練習なんだからさ、挑戦しないと。上を目指さない者に成長はできない。とは言え、私がしよう。って言っているのは、応用。基礎ができてないと応用はできない」
 「ごめんなさい」
 「すみません」

 陽菜とこう君が頭を下げた。

 「責めてない。謝るな。今、出来ないことは別にいい。次、出来るようになりな。次で無理ならその次、それで無理ならまたその次、次出来るようになる。今、出来ないのならその気持ちで次から練習に臨みなさい」

 みはね先輩の、厳しいようで優しい言葉を聞いて、陽菜とこう君の表情は変わった気がする。

 「さて、練習止めてごめんね。りっちゃん、私が出来るかな。と思って勝手したのは謝る。まずは、全員が基礎できるようになってからだわ。でも、私はいずれ、できると思うからね。このメンバーなら」

 その言葉を聞いて、全員の表情がいい意味で変わった気がする。この人はいつもそうだ。ふざけているようで、周りをよく見ている。そして、周りを引っ張る力がある。

 「あ、このメンバーならって言ったけど及川さんもいたわ。まーでも、及川さんなら大丈夫か。うん。問題ない!大丈夫だ。低音パートでなら出来る!」

 と、シリアスな雰囲気を最後に必ず打ち壊して笑いを取る辺り、みはね先輩っぽい気がする。

 「もう、みーちゃんが低音セクション指揮ってよ…」
 「えー、無理無理、私そんな器じゃないし笑みんなりっちゃんの方がいいって言うよ。ね?」

 みはね先輩が同意を求めるようにみんなに問いかけるとみんな、クスリと笑い始める。たしかに、みはね先輩は前に立つキャラではない気がする。

 「はぁ…じゃあ、仕方ないからこのまま私がやりまーす。というわけで、まずはみんなで足並み揃えようか、今、出来ていた人たちは次も出来るようにする。じゃなくて、次はもっとこうする。という目標を持つように。みーちゃん、頼むから一旦暴走はストップね」
 「はーい」

 と、そんなやり取りをして、2回目、何故だろう。みんな、先程よりいきいきと吹けている気がする。特に、先程指摘された陽菜とこう君、先程は遅れない。ついて行く。それで精一杯で遅れている気がしたが、今はすごく楽しそうに余裕を持ってリズムに乗れている。低音パート全員が、足並みを揃えて進めている感覚だ。

 「みーちゃん!暴走禁止って言ったでしょ!!!」

 2回目が終わり、りっちゃんさんがみはね先輩に笑いながら言う。

 「だって…いい感じにまとまった感あったし、今ならいけるかなぁ…って……」
 「はぁ…みーちゃんにセクション練習任せなくてよかったわ…」

 みはね先輩の言葉を聞いてりっちゃんさんは頭を抱える。りっちゃんさんの言葉を聞いて笑いが起こるがりっちゃんさんは再びため息を……

 2回目、全員の音がまとまった感覚があり、その後少しするとみはね先輩が暴走を始めた。
 すると、意外なことに…みんなノリノリでみはね先輩に引っ張られるように暴走した。結果、みんな暴走してまとまった。

 「まあ、でも、できたじゃん。楽しかったよ。じゃあ、次、楽譜通りでこれが出来るようになろー!」
 「あんたが仕切るな」

 と、みはね先輩とりっちゃんさんは楽しそうに言い合いをする。ふざけているように見えて、みんな真面目に楽しみながら上手くなっていけている。りっちゃんさんとみはね先輩、この2人が指導する低音セクションはすごく順調に進んでいた。






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