お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

ここにいる理由





 「陽菜ちゃん、3年生の松下先輩とはもう会ってるよね?」
 「え、あ、はい。お世話になってますけど…」

 松下先輩はサックスパートの3年生でアルトサックスを担当している男性の先輩だ。みーちゃんが休部していた理由を聞いて、松下先輩の名前が出てきて陽菜ちゃんは驚いた表情をした。

 「去年ね。ちょっといろいろあったんだ。まあ、隠しててもアレだし言っちゃうけどさ、私、去年の初め…入部したての頃松下先輩のこと好きだったの」
 「え?ん?え、ええ?」

 意外。と言う感情を隠そうともせずに陽菜ちゃんは驚いていた。まあ、驚くよね。

 「まあ、松下先輩には何も伝えなかったんだけどね。去年の冬くらいかな…松下先輩、私のこと好きになってくれたみたいで……」
 「へー……ん?え?んん?」

 陽菜ちゃんの頭がショートしそうになっている。まあ、ここまでの話聞いてたらなんでみーちゃんが休部したのかますますわからなくなるよね。

 「私ね。松下先輩が私のこと好きになる頃には彼氏がいたの。吹奏楽部の人じゃないからまゆちゃんとか、春香ちゃん、りっちゃん、ゆきちゃんとか仲のいい同級生しか知らなかったんだけどね。松下先輩は…私に彼氏がいるって知らなかったんだよね。あと、私が以前、松下先輩のこと好きだったってことも知らなかったみたいだから、なんか、いろいろタイミング悪かったんだよね」

 陽菜ちゃんが松下先輩、残念な人だなぁ。と言いたそうな表情をする。気持ちはわかるよ。でもね、まだ続きがあるから。この程度じゃみーちゃんが休部するようなことにはならないから…

 「その…ね…私のこと、好きになってくれた松下先輩のアプローチの仕方がちょっと…やばかった…の……」
 
 本当にやばかった…うん。普段はめちゃくちゃいい人なのにさ…恋は盲目と言うけど…うん。その通りだ。って思わせるような行動を何度もしていた。

 上げ出したらキリがない。
 例えば、去年のみーちゃんの誕生日…部活後に、みーちゃんは彼氏とデートの約束があった為、松下先輩からみーちゃんの誕生日会やろう!みたいなお誘いを丁重にお断りした。そして、誕生日当日…練習中は。何もなかった。問題は練習後…

 「ねえ、まゆちゃん、どうしよう…」

 とみーちゃんからLINEが送られてきた。彼氏とのデートを終えて帰宅したみーちゃんが、大学用のバッグの整理をすると……そこそこお高げなアクセサリーメーカーのラッピングがされた箱が入っていたそうで……

 部活が始まる前は、入っていなかったみたい。みーちゃんは部活中、バッグをホールのサックスパートが練習している部屋に置いていた。その日、サックスパートはまゆとみーちゃん、松下先輩の3人だけで…消去法で犯人は割り出された。

 「明日、大学の受付に落とし物として預けな。ほら、明日春香ちゃん受付のバイトって言ってたし、春香ちゃんに渡して処理してもらおう」

 と、まゆが真面目に言ってしまうほど、割とヤバめなアピールを何回かしていた。結果、みーちゃんは…ちょっと、いや、結構病んだ……それで、休部することになり、休部して間もなく、みーちゃんは彼氏と別れたりもした。バイトも少し長期休みもらったり、と…割と精神的にやばかった…

 「みはね先輩…よく、戻ってくる気になりましたね…」

 みーちゃんからみーちゃんと松下先輩の間にあった真面目な話を聞かされて陽菜ちゃんは引きつった笑みを浮かべていた。まあ、そうなるよね。一時期、吹部2年生(現在の)全員が松下先輩アンチになっていたから。よくもかわいいみーちゃんをみたいな感じで一致団結していた。今でも、松下先輩苦手な2年生はまゆを含めて割といる。普通に関わる分にはいい人なんだよ。

 「まゆちゃんにさ、バイト中何回か吹部の様子聞いたりしてたんだ。今年に入ってさ、りょう君がバイトの後輩として入ってくれて、りょう君みたいないい後輩がたくさんいるんだろうな。って…また、楽器吹きたいな。って、また、コンクールに出ないな。って、また、みんなで吹きたいな。合奏したいな。って思ってたらさ、まゆちゃんに、合宿、みーちゃん参加にしておくね。って言われてさ、強引だよね」

 みーちゃんは笑いながら言う。たしかに、強引だけどさ、すごーく楽器吹きたそうな、合奏したさそうな表情をバイトの度に見せられたら強引に引っ張ってあげたくなるよ。

 「陽菜ちゃん紹介しないとだし、せっかくだから後輩と吹いてあげてよって言われたんだ。まゆちゃん、裏でいろいろ根回ししてくれてたんだよ。2年生全員に私が戻りたい。って思ってること伝えて、2年生みんながまた一緒に吹こうって言ってくれて、本当に嬉しかった。松下先輩にも、まゆちゃん、割とブチ切れたみたいで、合宿前に一回、サックスパート2年生、3年生、4年生で話し合う機会つくってくれて……松下先輩と話して、私をまた、この場に立たせてくれている。この、部に、連れ戻してくれた。こんないい仲間がいたから、私はここにいる」

 なんか、照れ臭いな。まあ、でも、まゆはみーちゃんのこと、少しは助けてあげられたのかな、仲間として…

 「こんなにいい仲間がたくさんいるのがこの部活だよ。それでも、まだ、迷惑かけるかもしれないことが怖い?」

 休部していた理由と、ここにいる理由を話し終えたみーちゃんは、今度は陽菜ちゃんが答える番と言うように陽菜ちゃんに問いかけた。





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