お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

私の分まで




 「りょうちゃん、ちゃんと日付け変わるまでには帰ってくるんだよ。わかった?」
 「うん。わかってるよ。なるべく遅くならないようにするね」

 帰りが遅くならないように念押しするまゆに僕が答えるとまゆと春香はじゃあ、また後でね。と言いホールを出た。
 火曜日、部活が終わった後、僕はゆいちゃん、さきちゃん、陽菜と4人でご飯を食べに行く約束をしていた。さきちゃんと陽菜が仲良くなっていて、ゆいちゃんも陽菜と仲良くなりたい!と言いだして今回の食事会をすることになったのだが…女の子3人とご飯に行ってもいいか、春香とまゆに尋ねるのがめちゃくちゃ怖かった。
 まゆに出された条件として、昨日の夜中まで春香とまゆを相手にいちゃいちゃしていたため、寝不足だし…僕のテンションがちょっと低いのは許して欲しい……



 「そういえばさ、さきがね。最近気になってる人いるんだって」

 大学近くのラーメン屋さんでラーメンを注文して、料理を待っている間にゆいちゃんが言うとさきちゃんは顔を真っ赤にしてゆいちゃんをぽかぽかと叩く。反応かわいいなぁ…
 「へー、どんな人なの?」
 「気になる」

 興味本位で僕が尋ねると陽菜も同調して、さきちゃんに視線が集まった。さきちゃんは内緒…内緒…恥ずかしいもん…と小声で呟いている。かわいい…けど、ちょっと罪悪感を感じるからこれ以上言及はしないでおこう。

 「ほらほら、みんな知りたがってるし言っちゃいなよ」

 ゆいちゃんはニヤニヤしながらさきちゃんに言うとさきちゃんは頬を膨らませてゆいちゃんをぽかぽか叩く。その様子を僕と陽菜はかわいいなぁ。と思いながら見ていた。

 「えっとね…ファゴットの一柳 紅君…」
 「「おー」」

 もじもじしながらさきちゃんは気になっている人の名前を呟いた。こう君とは何度か話したことがある。僕たちと同い年で大人しくて優しくて爽やかなタイプの男の子で、さきちゃんとどことなく雰囲気が似ている気がする。 

 「アタックしないの?」
 「う…恥ずかしくて…できないよぅ……」

 陽菜が尋ねるとさきちゃんはもじもじしながら答える。かわいいかよ。大丈夫、その可愛さがあれば男の1人や2人簡単に落とせるから……

 「帰りとか、同じ電車に乗っているから話しかけてみろ。って言ってるのにもじもじして中々話しかけられないんだよね」

 ゆいちゃんが笑いながら言うとさきちゃんは少ししょんぼりしてしまう。

 「さきみたいないい子に好きになってもらえたら嬉しいと思うよ。だから、思い切ってアプローチしてみなよ」
 「う…でも……」

 さきちゃんは顔を真っ赤にしながら、でも…だって…無理…を繰り返す。かわいいですなぁ。

 「りょうくんはどう思う?さきに好き。って言われたら嬉しい?」
 「そりゃ、誰かに好き。って思ってもらえたら当然嬉しいよ。さきちゃんみたいなかわいい子ならなおさら嬉しいと思う」
 「ほら、りょうくんもこう言ってるしアプローチしてみたら?」
 「でも、りょうちゃんは昔から女の子なら誰にでもデレデレするからあてにならないと思うよ」

 ゆいちゃんがさきちゃんに言うのを聞いて陽菜が笑いながら言うとゆいちゃんはたしかに。と同意する。ちょっと待って、たしかに。って何?え?ちょっと君たち失礼すぎないか???

 「りょうくん昔から誰にでもデレデレしてるの?」
 「うん。同じクラスで仲のいい女の子相手にしょっちゅうデレデレしてて春香ちゃんがめちゃくちゃ嫉妬してて怖かったりしたこともあって…」
 「ちょっと、陽菜、それ以上は…」

 お願いだからそれ以上何も言わないで…僕が同級生の女の子にデレデレしてて拗ねた春香が何で拗ねたのかわからずにめちゃくちゃ春香を怒らせた記憶が蘇るからそれ以上は言わないで……

 「話逸れちゃったけどさ、それなら今度、陽菜と一緒に帰るときは一緒にこう君に話しかけようよ。陽菜が一緒なら少しはハードル下がるでしょう?」
 「え、本当?」
 「うん」
 「………お願いします」

 さきちゃんは恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうに陽菜に頭を下げた。

 「よかったじゃん。さき、頑張りなよ」
 「うん。私、頑張る」

 そんなやり取りをしていると注文した料理が届いたので、食べながら別の話題を話し始める。

 「そういえば陽菜ちゃんってコンクール出ないって本当なの?」
 「あー、うん。ちょっと、持病があってさ、もし、コンクール前に悪化とかしたら申し訳ないからさ、コンクールは先輩とか団長と話して辞退させてもらうことにしたんだ」

 うちの部活は人数は50人より少ない。そのため、全員がコンクールに出ることが出来るし…全員で出ないと厳しい部分があるのだが…陽菜は出ない道を選んだみたいだ。

 「そうなんだ…せっかく同じ部活なのに一緒に吹けないの残念…」
 「そうだね。でも、演奏会とかさ、学祭とか定期演奏会は出させてもらうからさ…コンクール終わったらちゃんと合奏参加できるよ。それまでは基礎やったり…合奏のサポートしたりかな…一部員として、コンクール応援してるし一緒に頑張るからさ、陽菜の分までコンクール楽しんでよ」

 陽菜は少しだけ寂しそうに言う。本当は…コンクールに出たいのだろう。コンクールに出て、楽しみたいのだろう。合奏を…本番を……吹奏楽をやっている人なら……誰だって、あの、本番の特別な景色を忘れられないはずだ。
 眩しくて、暑さすら感じる照明を浴びて、大勢の観客がいる前で自分たちだけが演奏する。自分たちだけが、主役になれる十数分の本番の景色を……





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