お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

なんでもわかるよ





 「陽菜ちゃんとは話せた?」

 5限の授業が終わり、4限5限の時間はアパートで家事をしてくれていたまゆが迎えに来てくれたので、まゆの車に乗ってバイトに向かう途中、まゆは僕に尋ねた。僕がうん。と答えるとまゆはそれ以上何も聞かなかった。
 
 「春香には言わないで欲しい。陽菜の口から言わせるから…」
 「わかった」
 
 まゆは、なんというか、安心したような表情をしていた。わかった。と言った後はそっと僕の片手を握ってありがとう。と言ってくれる。僕は当然のことをしただけだよ。
 まゆはその話についてはそれ以上は触れなかった。気を遣ってくれているのだろう。ありがたい。まゆがいなかったら…春香がいなかったら……僕は陽菜のことを諦めていたかもしれない。仕方のないことだと諦めていたかもしれない。そちらの方がよかったのだろうか…僕がしようとしていることはただのお節介だろうか…陽菜をより追い詰めてしまうのではないだろうか…
 だめだ。決めたのに…揺らいでしまう。重すぎる。今の僕には重すぎる話だろう…でも…

 「りょうちゃん、揺らいじゃだめだよ。まゆは諦めてかっこ悪いりょうちゃんを見たくないからね…ここで折れるのはりょうちゃんらしくないよ」
 
 僕の心を読みとってくれたようにまゆは僕に言う。前を見て運転しているはずなのに、まゆは僕を見つめて言ってくれている気がした。
 情けないな…揺らいで…彼女にこんなこと言わせてしまって……
 
 「まゆも出来ることがあれば協力するよ。出来ることは少ないと思う。でもね、先輩として、大切な後輩には生きて欲しい。後輩とさ、いっぱい仲良くしたいじゃん。だから、まゆも…陽菜ちゃんに諦めて欲しくない。って思ってるよ。無責任で余計なお世話だろうけどね…」
 「ありがとう。まゆ…」
 「いいよ。まゆはりょうちゃんを支えてあげるって決めてるし…陽菜ちゃんとも仲良くなりたいからさ…」

 そんなやり取りをしていたらバイト先に到着する。今は、とりあえずバイトに集中しよう。ゴールデンウィークが終わり、お客様の流れは落ち着いているはずだから…今日はいっぱい新しいことを教えてもらって、早くまゆみたいに一人前に仕事できるようにならないと…


 「あ、りょうくん、本当にここでバイトしてるんだね〜バイト着かっこいいね」
 
 僕がまゆの指示に従いながら商品出しをしているとゆいちゃんとさきちゃんが本屋さんに来てくれた。

 「ゆいちゃん、さきちゃん、来てくれたんだ。ありがとう」
 「いえいえ、授業の資料本買いに来たんだけど案内してもらっていいですか?」
 「わかりました。ご案内いたします」
 
 幸い、お客様はあまりいないので慌てて対応する必要はない。僕はゆいちゃんとさきちゃんが探している本がある場所をレジカウンター横のパソコンで検索して、ゆいちゃんとさきちゃんを案内する。

 「りょうくんがちゃんと仕事してる…」
 「その言い方酷くない?」
 「ごめんごめん」
 「それとさ、まゆ先輩のバイト着めちゃくちゃかっこいいよね。めっちゃ似合ってる」
 「私もそう思った」

 僕を揶揄った後、ゆいちゃんはまゆのバイト着について語る。先程、レジカウンターの横で本の検索をしていた時にレジで作業していたまゆを見たのだろう。たしかに、まゆのバイト着姿はめちゃくちゃかっこいいし、めちゃくちゃ似合っている。彼氏としてすごく鼻が高い…

 「なんで、まゆ先輩みたいなめっちゃかわいい人がりょうくんなんかを選んだんだろうね…りょうくんのどこがそんなにいいんだか…」
 「ゆいがそれ言う?」

 ゆいちゃんの言葉を聞いたさきちゃんは笑いながらゆいちゃんに言う。そんなやり取りをしていると目的地に到着して、ゆいちゃんとさきちゃんは目当ての本を手に持ってレジに向かう。

 「ゆいちゃん、さきちゃん、お疲れ様、来てくれてありがとうね」
 「まゆ先輩…お疲れ様です…その、授業の本を買いに…」

 まゆ先輩の担当するレジでさきちゃんはまゆ先輩に対応してもらう。先輩にレジをしてもらうことにさきちゃんは緊張してしまっているみたいだった。緊張して、震えて縮こまっているさきちゃんかわいい。
 僕はゆいちゃんの対応をする。知り合いのレジ対応をするのは結構緊張するものだ。まゆみたいに小銭吹き飛ばしたりお札を間違えたりしないように気をつけないとな…
 などと考えていたら横にいるまゆに睨まれた気がした。ごめんなさい……
 レジを終えるとゆいちゃんとさきちゃんは帰っていった。若干、まゆの機嫌が悪くなっている気がする。僕、口に出してないよね?なんで少し考えただけでまゆのこと少しばかにしたことバレてるの?嬉しいけどさ…なんでもお見通しすぎてちょっと怖いんですけど……

 「りょうちゃんの考えてることくらいわかるからね」

 まゆは一言僕に言う。いやいや、嬉しいけど怖いよ。とりあえず機嫌直そう?謝るから、ね?と心の中でまゆに言い続けた。

 その後は、まゆのご機嫌に気を配りながら商品出しをまゆと頑張った。バイトが終わる頃にはまゆの機嫌も直っていて、安心した。機嫌の悪いまゆと車で2人きりは…ちょっとだけ…怖い……
 僕はまゆの機嫌を損ねないように手を繋いで駐車場まで歩く。手を繋いで歩いている途中、まゆは僕から手を離して、腕を組む。僕に抱きついている。と言っていいほどまゆは僕に密着していて、少し歩きづらいと感じたが、幸せだしいいか…バイト終わりの疲れも吹き飛ぶくらい幸せだ。






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