お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

お姉ちゃん





 「ねぇ、春ちゃんはさ、まゆのこと…嫌いなのかな?」
 「え…」
 お風呂で春ちゃんと一緒に湯船に浸かりながら尋ねるとまゆと向かい合うようにしてお湯に入っていた春ちゃんは驚きを隠せずにいた。
 「ごめんね。お姉ちゃんとりょうちゃんの関係にまゆが入っていること…気に食わないんだよね…」
 「そ…そんなこと……まゆお姉ちゃん、急にどうしたの?」
 春ちゃんは必死で誤魔化そうとするが…まゆにはバレバレだよ。だって……
 「春ちゃん、本当にりょうちゃんに似てるね。顔とかだけじゃなくて、仕草とかもすごく似てる。だからね。わかるよ。春ちゃんがまゆをりょうちゃんと春香ちゃんから遠ざけようとしてること、春ちゃんがまゆのことあまり良く思ってないこと、りょうちゃんのこと大好きなまゆは全部わかるからね」
 「………春香ちゃんと同じこと言いますね」
 「うん。だってまゆは…りょうちゃんの彼女だから」
 「まゆさんは……春香ちゃんがどれだけ長い間お兄ちゃんのこと想っていたか知ってますか?私がどれだけ春香ちゃんを慕ってどれだけ春香ちゃんを応援していたか知ってますか?」
 「春香ちゃんがどれだけりょうちゃんのことを想っていたかは知ってる。春香ちゃんから聞いてるから…それに、春香ちゃんとりょうちゃんと一緒にいてわかったよ。りょうちゃんと春香ちゃんがどれだけ昔からお互いに愛し合っていたのか……」
 「だったら……」
 春ちゃんは泣いていた。まるで、自分のことのように儚げな表情で泣きながらまゆを見つめた。
 「だったら…なんで……なんで……まゆさんなんかが春香ちゃんとお兄ちゃんと一緒にいられるんですか?お兄ちゃんと出会ってまだ少ししか経ってないのに……なんで……春香ちゃんがずっと…憧れていた立場にいられるんですか……なんで、まゆさんなんかが、春香ちゃんと対等なんですか……そんなの……」

 おかしいです。間違ってます。納得できないです。認められないです。その言葉を春ちゃんは泣きながら何度も何度も繰り返した。

 「春ちゃん…」
 まゆはそっと春ちゃんを抱きしめてあげるが、春ちゃんが泣き止むはずがない。
 「たしかに、まゆは春香ちゃんみたいに長い間りょうちゃんと一緒にいた訳じゃないよ。まゆは昔のりょうちゃんのこと全然知らない。春香ちゃんみたいに長い間りょうちゃんと一緒にいて…ずっとずっと側でりょうちゃんを支えてきたわけじゃない……でもね……」
 まゆは春ちゃんを真っ直ぐ見つめる。
 「まゆは…春香ちゃんに負けてない。想いの強さでは絶対に春香ちゃんに負けてない。りょうちゃんのこと…真剣に愛してる」
 「そんなの…口でならなんとでも言えます」
 「まゆね。昨日、家出したんだ」
 「え……」
 春ちゃんは驚いた表情をする。まあ、そう言う表情になるよね。
 「お父さんにね…この関係否定されたんだ。だから、家出したの。この関係を崩したくないから…りょうちゃんと春香ちゃんと一緒にいたかったから……最初はね。りょうちゃんと春香ちゃんに迷惑かけたくなかったから、まゆは春香ちゃんにまゆの分も託そうとした。でもね…りょうちゃんと春香ちゃんはまゆを受け入れてくれた。だから…まゆはもう…りょうちゃんと春香ちゃんとの関係を絶対に崩したくない……だから……」
 
 まゆのこと認めて…この関係を崩そうとしないで……

 「そんなの…春香ちゃんが……」
 まゆの言葉を遮って春ちゃんは言う。そうだよね。まゆのこと認めて、この関係を崩そうとしないで…なんて、言うべきじゃない。だって、この子は、今のまゆとりょうちゃんと春香ちゃんを知らないのだから…知ってもらえばいい。知ってもらってそれでも、まゆを認めてくれなくて、この関係を崩そうとするなら……この言葉を使うべきだろう。今はまだ使わない。認めてと崩させないで。はまだ言うべきではない。
 「春ちゃん、春ちゃんの言う通り、まゆは昔のりょうちゃんを知らない。春香ちゃんから教えてもらったりもしてるけどそれでも全然知らない…だからさ、まゆにりょうちゃんのこと教えてよ。まゆ、りょうちゃんのこともっともっと知りたい。それと、春ちゃんには今のまゆとりょうちゃんと春香ちゃんのことを知って欲しい。わがままだけどさ、お姉ちゃんの頼み、聞いてくれないかな?」
 まゆは春ちゃんを真剣に見つめて言う。まゆの想いが伝わったかはわからない。でも、春ちゃんは流していた涙を拭いまゆを見つめる。

 「お姉ちゃんとか…言わないでください。私はまだ、まゆさんのことお姉ちゃんとは認められないです。だから…私に教えてください。今の3人を…お兄ちゃんと春香ちゃん、まゆさんが幸せだと言うことを…そして……また、まゆお姉ちゃんって呼ばせてください」
 「うん。春ちゃんが納得したら、また、まゆお姉ちゃんって呼んでね」
 まゆがそう言うと春ちゃんは分かりました。と言い、何も知ろうとしないで勝手なことしてすみませんでした。と謝ってくれる。りょうちゃんに似てすごくいい子だ。
 
 こんな素敵な妹が欲しいな……
 この子にお姉ちゃんって…認められたいなぁ……









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