お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

午後の過ごし方






 「ねー、りょうちゃん、この後はどうする?」
 「うーん。まゆが必要なものとかあったら買いに行く?」
 まゆがおすすめしてくれた喫茶店でランチのパスタを食べた後、食後のコーヒーをゆっくり飲みながらこの後どうするかをまゆが尋ねてきたので僕が返事をするとまゆは何か必要なものあったかな…と考え始めた。まあ、春香がいるから春香のものを借りれば不自由はしないのか……
 「あー、ちょっとだけ欲しいものあるけど明日のバイトの前にささっと買えばいいしなぁ…」
 「うーん、じゃあ、家で何かする?それかどこかに軽く遊びに行くか…でも、ゴールデンウィークだし、めっちゃ混んでそうだよね…」
 「あー、たしかに……」
 ゴールデンウィークも今日で折り返し、僕とまゆは明日から3日連続でバイトに入るので、実質今日がゴールデンウィーク最終日だ。まゆ曰く、ゴールデンウィークのバイトは鬼のような忙しさらしい。どこのショッピングセンターもゴールデンウィークなどの長期休暇にはセールなどイベントを入れまくるため、本屋さんのお客さんも増える。ぶっちゃけ、本屋さんはポイント増加やしおりの配布くらいしかやれることがないのだが、他のお店に集まったお客さんが本屋さんに流れてくるらしい。この3日間は本当に疲れるから覚悟しておいてね。とまゆには言われていた。
 「明日からバイト3連勤だし人混みで疲れるのは嫌だなぁ…どうせ明日から3日間ずっと人混みの中にいないといけないし…」
 まゆは本当に嫌そうな顔で言う。普段はバイト楽しい。と言っているまゆがこのような表情をするということはよほど大変なのだろう。
 「じゃあ、家で何かする?」
 「うーん、お菓子作りとかやる?あー、でもなぁ…今はお菓子って気分じゃ……」
 まゆは目の前に置かれている食後のデザートで注文したチーズケーキと自分のお腹を交互に見つめる。体重とか気にしなくてもまゆは大丈夫だと思うけどなぁ…それに、どうせ明日からのバイト3連勤で痩せる気がする。本屋さんのバイトは楽だと思う人もいるだろうが、実はめちゃくちゃ大変だ。まず、僕とまゆがバイトしているようなそこそこ広い本屋さんだと移動が結構大変だ。品出ししてる際にレジの呼び出しかかったりといろいろ移動していると意外と疲れる。あと、意外と力仕事もある。本って一冊一冊は軽いけどダンボールに入っていたりするとめっちゃ重いからね……ゴールデンウィークは品出しとレジをひたすら往復するから…とまゆに言われているので、めちゃくちゃ疲れるのが目に見えている。絶対数キロは痩せる……
 「あ!ホール行きたい。楽器吹こう」
 「え、まゆが行きたいならいいけど…」
 せっかくのゴールデンウィークなのに行き先大学でいいのかな…と思っているとまゆはすごく嬉しそうにやった。と言うので不満はない。僕も練習したかったし…


 「あれ、りょうちゃんにまゆちゃん。お疲れ様」
 「春香、お疲れ様」
 「春香ちゃん、お疲れ様。ホールの鍵借りれるかな?」
 「うん。ちょっと待ってて」
 春香はホールの鍵を鍵が管理されている棚から取り出してまゆに鍵を渡す。その後、まゆがホールの鍵の貸出履歴を残すための用紙に必要事項を書き込む。
 「今から練習するの?」
 「うん」
 「えー、じゃあ、5時までいてよ。一緒に帰りたい」
 「まゆは大丈夫だよ。りょうちゃんも大丈夫?」
 「もちろんだよ」
 「やった。じゃあ、一緒に帰ろうね」
 「うん。バイトがんばってね」
 休日のため、大学の受付には春香と職員のおじさんとおばさんが1人ずついるだけだったが、書類の整理をしたりと割と大変そうだったので、長居するのは申し訳ないと思い僕とまゆはすぐに受付を出てホールに向かった。
 休日はホールが5時までしか使えないため、鍵を返しに行くときに春香と合流すればいいか、とまゆと話してから部活のグループにホールを開けたことを伝える連絡をしてまゆはホールを開ける。
 
 ホールを開けてから僕とまゆは楽器を取り出してまずは個人で基礎練習をすることにした。今の時間は2時過ぎなので、あと2時間少ししか練習ができない。3時から一緒に練習する約束をして個人練習に移る。
 個人練習ではしっかりと基礎練習をする。この時、僕は頭の中で目標の音…春香の音をいつもイメージして吹いている。このことを春香に知られると絶対恥ずかしいからやめて。と言われるから春香には内緒だ。
 個人で基礎練習をしているが、ホールの中には僕とまゆしかいない。距離を開けて吹いているが、やはりまゆの音は聴こえてくる。まゆのすごく心地の良いテナーサックスの音色が……本当に美しい音色だと思う。芯が通っている真っ直ぐブレない音色、理想的な音色だ。
 まゆのソロ、聴きたいなぁ…まゆの音に早く合わせて吹きたいなぁ……
 基礎練習や個人練習は好きだ。一人で地道にレベルアップするのは好きだ。だが、やはり吹奏楽は…楽器は…他の奏者と…他の楽器と…音を重ねる時が一番楽しい。
 1人で吹くよりも2人、3人とより多くの人、多くの楽器と音を重ねる。それが吹奏楽の魅力だと僕は思う。その土台の役割を担うチューバは、やっぱり好きだ。
 昔、春香が言っていた言葉だ。その通りだと思う。早くまゆと合わせたいな。早く次の合奏日来ないかな。その日のために、こうやって一人で練習をする。
 その日に後悔なく、自分の全てを出し切るために。

 「りょうちゃん、合わせよう」
 「うん」
 さあ、今日も…
 自分の全てを出し切ろう。









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