お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

私の分まで…






 「まゆちゃん、りょうちゃんと何かあったの?」
 朝食を食べ終えて旅館の部屋を出る準備をしている時、まゆちゃんがペットボトルのゴミを捨てるために廊下に出たタイミングを見計らい私はまゆちゃんに声をかけた。昨日の夜、りょうちゃんとまゆちゃんが2人きりで話してから何かおかしい気がした。
 何かあったのかな、と思っていたが、昨日の夜、寝るときはいつものようにりょうちゃんに抱きついていたりしていたので気にしすぎかと思っていた。だが、やはり今朝、朝風呂から出てからりょうちゃんの様子はおかしい。りょうちゃんの様子がおかしいと思いながらりょうちゃんを観察しているとチラチラとまゆちゃんに視線を送っていたので昨日の夜、まゆちゃんと何かあったのかな。という疑問が再発した。
 
 「春香ちゃんには言っておかないとね…」
 まゆちゃんは真剣な表情で私と向かい合う。やはり、昨日あの時、何かあったみたいだ。
 「まゆね。この旅行が終わったらりょうちゃんと別れる」
 「え……」
 どうして…え…聞き間違い…じゃないよね……
 たしかにまゆちゃんは今、りょうちゃんと別れる。と言った。どうして?まゆちゃん…あんなにりょうちゃんのこと好きって……
 「どうして…」
 「春香ちゃん」
 どうして…と言う疑問をまゆちゃんは遮る。そして、私に笑顔を向けた。
 「まゆの分まで、幸せになって…まゆの分までりょうちゃんを幸せにしてあげて…りょうちゃんのこと…よろしくね。春香ちゃんにしか頼めないし、頼みたくないからさ…りょうちゃんのこと…頼んだよ」
 表情を崩さずにまゆちゃんは私に言う。やめて…そんな笑顔で…そんなお願いしないでよ……
 「春香ちゃん、今日で最後だからさ…これ、春香ちゃんが持ってて。まゆの分までりょうちゃんと幸せになるって意味も込めて春香ちゃんに持ってて欲しい」
 まゆちゃんはそう言いながら、指から指輪を外す。りょうちゃんとまゆちゃんと私が3人で付けていたお揃いの指輪だ。そして、外した大切な指輪を…私にとっては命より大切な指輪をまゆちゃんは私の掌の上に置いた。
 嫌だ…受け取りたくないよ……だってこれは……私たち3人の……大切な……
 「これからはさ、2人でちゃんと幸せにね。好きだよ。春香ちゃん。最後の思い出…楽しもう」
 まゆちゃんは私を思いっきり抱きしめて言う。まゆちゃんの体は温かかった。まゆちゃんの優しい温もりを感じた。まゆちゃんが本気で言っていることが伝わってきた…それを感じ取った私はまゆちゃんが離れた瞬間、その場に膝をついて下を向いた。
 「い、いや…」
 私が顔を上げるとそこにまゆちゃんはいなかった。まゆちゃん…どうして…どうして…あんなことを言ったの?
 「夢…錯覚かな…私…疲れてるのかな……」
 きっとそうだ。今のは夢か錯覚、幻だ。りょうちゃんの様子が変で心配しすぎて私、疲れてたんだ。
 そう思い込もうとしたが、できなかった。
 私の手には…3人のお揃いの指輪があった。私の左手の薬指には指輪はついている。つまりこれは……私の指輪ではない。

 

 「ねえねえ、りょうちゃん、この景色すごく綺麗だね」
 まゆちゃんは笑顔でりょうちゃんの腕を掴んで景色を高台から景色を眺める。ここら辺ですごく景色がいいことで有名な場所だ。午前中はみんなでお土産を買ったりしていて、お昼はここでみんなでお昼ごはんを食べる。
 りょうちゃんは…知っているのだろうか……まゆちゃんがあんなことを言う理由を……
 「春香ちゃん、どうしたの?」
 「ん、あぁ…何でもないよ」
 りっちゃんに声をかけられて私は笑顔でりっちゃんに答える。こんなこと、楽しい旅行の最中に他の人に言ったりできないよ……
 「りょうちゃん、まゆが食べさせてあげる。はい、あーんして」
 ベンチに座ってまゆちゃんはりょうちゃんの口にお昼ごはんのカツサンドを口に運ぶ。ここら辺では有名なカツサンドで秘伝のソースがかけられているカツはとても美味しい。
 どうして…そんな風に笑っていられるの?
 まゆちゃんを見て私はそう思った。りょうちゃんも戸惑っている。きっと、りょうちゃんも私と同じことをまゆちゃんに言われたのだろう。
 「春香先輩、りょうくんの様子変ですけど、大丈夫ですか?」
 あの場にいるのが辛くて私は近くのお手洗いに逃げ込んだ。お手洗いを済ませて手を洗っているとゆいちゃんが私に声をかけてきた。
 「りょうくんだけじゃなくて…春香先輩も変です。大丈夫ですか?私がこんなこと聞くのお節介かもしれないですけど……」
 「大丈夫だよ。え、なんか、ごめんね。心配かけちゃって…別に何もないよ」
 「そうですか…言いたくないなら言わなくていいです。でも、昨日の夜、りょうくんと春香先輩が部屋を出た後、まゆ先輩も部屋を出て春香先輩しか戻って来なかった。その後、まゆ先輩が戻って来て少ししてりょうくんが戻ってきた。その時からりょうくん、変でした。今朝、まゆ先輩と春香先輩が部屋を出て戻ってから春香先輩変でした。何かあったなら…私に力になれることがあったら教えてください。お節介ですけど…春香先輩とまゆ先輩、りょうくんには感謝してるんです。だから…何かあったら私に言ってくださいね。私、3人のお力になりたいです」
 ゆいちゃんは笑顔で私に言ってみんなの元に戻っていく。ありがとう。でも…言えないよ。こんなこと……言いたくないよ………











「お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く