お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

ボランティアの時間





 朝、目を覚ますと、りっちゃんさんはいなかった。僕の横では春香が可愛らしい表情で眠っている。春香の寝顔は本当にかわいいので春香の頭を春香を起こさないように注意しながら撫でてあげる。
 「起きて早々春香ちゃんに手出すんだぁ」
 すでに起きて朝食の準備を済ませてくれていたりっちゃんさんがソファーに座りながらニヤニヤと僕を見つめていた。
 「誤解を招くような言い方しないでくださいよ」
 「あはは、ごめんごめん。まあ、でも、間違ってはいないでしょ」
 「そうですけど…」
 「ごめんね。あ、そうそう。りょうちゃんと春香ちゃん今日2限からだよね?私、1限の時間予定あるから先大学行くね。また後で部活で会おう。私が居なくなっても春香ちゃんに変なことしちゃダメだよ」
 「そうなんですね。了解です」
 りっちゃんさんは僕にそう言って荷物を持って大学に向かう。春香はまだ寝ている。2限の時間までまだ時間があるのでもう少し寝させてあげようと思い春香を起こさないで春香が眠っているのをずっと見ていた。そろそろ起こさないといけない時間になって春香を起こすと、春香がりっちゃんは?と聞いてきたので先に大学に向かったことを伝えると一緒に大学行きたかったのに。何で起こしてくれなかったの?と怒られた。春香が不機嫌になってしまったので、僕は朝食を食べさせてあげたり、甘やかしたりして通学の時間までひたすらご機嫌取りをしていた。

 「あれ、りっちゃん先輩?おはようございます」
 私が教室に入るとゆいちゃんに声をかけられた。ゆいちゃんの隣にいたさきちゃんにも小声で挨拶をされたので挨拶を返すと学部違うのにどうしてこの教室にいるのかを尋ねられた。
 「大学の公認ボランティアでね。聴覚障害の学生の授業サポートをしてるの。先生が話した内容をノートにメモしてそれを聴覚障害の学生さんにモニターで見てもらうの」
 「へー。そんなボランティアがあるんですね。すごいです」
 「今、絶賛人手不足だから、興味あったら是非大学の学生ボランティア課に来てみてよ」
 この大学は障害学生のサポートにかなり力を入れているが、学生のボランティア協力が必須になり、大学側もボランティア学生にはそれなりの配慮をしてくれている。本来、他学部のボランティアをやることなんてないのだが、今、本当に人手不足で急遽私がこの授業でボランティアすることになったのだ。1年生の授業なので、1年生がボランティアに登録してくれないと人が埋まらない状況だ。
 「え、ちょっと興味あります」
 「私も…少し…」
 ゆいちゃんが食い付いた反応を示し、さきちゃんも小声で興味を示してくれた。
 「よかったら見学してく?私の隣の席で授業受ければどんなふうにボランティアするかわかると思うからさ」
 「是非見学させていただきたいです」
 「私も……」
 ゆいちゃんとさきちゃんが見学してくれることになり私は心の中でガッツポーズをする。ゆいちゃんとさきちゃんを連れてかなり広い教室のかなり前の席に座り、モニターが設置されている後ろの席に座っている学生さんに声をかけてモニターに私の手元にある授業のプリントが映るようにして、実際に文字を書いて問題がないかを試して授業が始まるのを待つ。授業が始まってからはかなり怒涛の勢いで書き込みをする。授業の要点などを簡潔にまとめてプリントに書き込む作業は中々に疲れる。授業を聞いていれば書き込まなくていい内容でも、聞こえていない学生さんに授業内容を伝えるために書き込んだり、今授業でここについて話しているとプリントを示したりとやることがとにかく多い。本来なら何分かおきに交代して2人で回すのだが、人手不足で私1人で1時間頑張らないといけないためかなりしんどい……
 授業が終わり疲れ果てていた私はゆいちゃんとさきちゃんに感想を尋ねるとかなり興味を示してくれた。2限の時間は空いているみたいなので、学生ボランティア課に行ってみる?と尋ねると2人とも頷いてくれた。
 私はゆいちゃんとさきちゃんを連れて学生ボランティア課がある建物に入る。そこそこ広い学生ボランティア課専用の建物だ。この建物から障害学生のボランティアにかなり力を入れていることがよくわかる。
 学生ボランティア課の職員さんにゆいちゃんとさきちゃんを紹介して2人は職員さんから説明を聞き始める。私は2限の授業があったため、2人にまた後でね。と言い学生ボランティア課を出て教室に向かった。
 「っ……」
 学生ボランティア課を出るとすぐ近くで会いたくなかった男とすれ違い、憂鬱な気分になる。向こうが私に気付いているかはわからないが、私は完全にシカトだ。話したくもない。
 だが、私はここで男をシカトしたことを後悔することになる。私とすれ違った男は学生ボランティア課に入って行くことに私は気がつくことができなかったのだ。







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