お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

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 もし…立場が違っていたら……もし………もし………私が………あなただったら………幸せだったのだろうか……

 「りっちゃん?どうしたの?」
 「あ、ううん。なんでもないよ。じゃあ、私教室あっちだから…」
 「うん。また後でね」
 「うん」
 私は春香ちゃんにそう言って、1限の授業が行われる教室に向かう。私と別れた春香ちゃんはこっちに向かって歩いてきていたまゆちゃんと合流して2人で教室に入って行った……もし……私が……あなただったら………
 もし……春香ちゃんとりょうちゃんと結ばれるのが私だったら……羨ましい……もし……私とあなたの立場が入れ替わっていた分岐点があったのなら……いや、どれだけありもしない「もし」を考えても現実は変わらない。
 わかっている。当たり前のことだ。過去を幾ら悔やんでも今は変わらない。変えられない。変えることができるのはこれからの未来だけだ。だが…これからの未来のことなんて誰にもわからない……だから「もし」という妄想に縋り付く。それが楽だから……ありもしない幸せを考えて自分を騙して………
 もし…私があなただったら……何度もそう思ってたよ。ごめんなさい。



 2限の授業が終わり、私は教室を出てまゆちゃんと合流した。お昼の時間と3限の時間、私はまゆちゃんとお話しする約束をしていた。今頃、春香ちゃんとりょうちゃんは一緒にお昼を食べているだろう。3限の時間、春香ちゃんはりょうちゃんと一緒にりょうちゃんが受けている授業を受けるらしい。楽しそうだな。
 「呼び出しちゃってごめんね」
 「全然大丈夫だよ。まゆ、お腹空いたからさ、とりあえずご飯食べない?」
 「うん」
 私はまゆちゃんと食堂に向かって、昼食を食べる。昼食を食べ終えた後、私とまゆちゃんはピアノ練習室に向かう。2人用のピアノ練習室に入って私とまゆちゃんは向き合って座った。
 「りっちゃん、話はだいたいりょうちゃんから聞いたよ…」
 「そっか…ごめんね。まゆちゃんを裏切るようなことをしちゃって……本当にごめんなさい。もし、まゆちゃんがもう私と関わりたくないと言うなら私はもう、まゆちゃんとは関わらないようにします」
 私はまゆちゃんに頭を下げて誠心誠意謝罪をする。私が悪かった。その事実は揺るがない。もう…今は確定しているのだから……順番が違えば……などと言い訳をするつもりはない。私がしたことは最低なことだ。責められても絶交されても私は文句を言えない。
 「正直言って…りょうちゃんから話を聞いた時はちょっとびっくりしたよ。それにちょっと悲しかった……でもね、りょうちゃんからりっちゃんがすごく気に病んでたことを聞いてさ…私考えちゃったんだ。もし…だよ。もしかしたら、まゆとりっちゃんの立場が逆になっていた可能性もある。りょうちゃんはそれはないと思うって言ってくれたけど……それは今だから言えること……もし、歯車が少しずれていろいろな順番が変わって…まゆがりっちゃんの立場になってたら、まゆはきっとりっちゃんと同じことをしたと思う。だから、まゆはりっちゃんを責められないよ。りっちゃんが、まゆや春香ちゃんとさようならしようとしてるってりょうちゃんに聞いてそれは嫌って思ったの。だからさ、これからもまゆと仲良くしてよ」
 まゆちゃんは笑顔で私に言う。まゆちゃんの笑顔はとても眩しかった。優しいなぁ……思いっきり責めて欲しかった……だって……私は……こうやって、まゆちゃんに謝っている時も……私があなただったら……って……ずっと、考えてしまっているのだから……だから、私は……まゆちゃんに責めて欲しかった……こんな私を……許して欲しくなかった。
 
 もし……私とまゆちゃんの立場が逆だったら………
 私は、りょうちゃんと春香ちゃんと幸せになれたのだろうか…友達としてではなく、恋愛対象として大好きな春香ちゃんとりょうちゃん、2人と結ばれれば私はきっと幸せになれただろう。
 きっと、毎日が楽しいんだろうな…3人でデートしたり、一緒にお泊まりしたり、いろいろして楽しくて幸せになれたんだろうな……まゆちゃんが羨ましい……あなたが本当に羨ましい……私があなただったら……もし……ありえないけど……私が、あなただったら……私は幸せだっただろう。

 もし…様々なもし…が脳内を何度も駆け巡る。そんな私を私は大嫌いだ。ありえもしない空想ばかり考え、親友を羨み、少し妬んでしまっている。もし…なんてあり得ない。あり得ない可能性にずっと縛られて…そんな状況で私はあなたに謝っている。ごめんなさい。こんな状況で謝ってしまって。まだ…私の心の中にはもし…がずっと残って消えないんだよ。だから、私はあなたに責めて欲しかった。叱って欲しかった。もし…なんて存在しない可能性だと、私にわからせて欲しかった。
 わがままだね……ごめんなさい。
 いい加減…現実を受け入れよう。

 「もし」なんて存在しないのだ。と……

 もう、存在しない可能性に縛られるのはやめよう。難しいかもしれないが……やめなければならない。だから、私がこの縛りから完全に解放された時、もう一度、ちゃんと謝らせてください。そして……もう一度、私と親友になってください。

 そろそろ目を覚まそう。「もし」という空想……私がずっと抱いていた。夢から…もう、私が勝手に抱き続けた海のように広大な夢から…この景色から私は解放されよう。おはよう。もう。夢を見るのは……終わりにしよう。







 






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