お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活
さようなら。
 「まゆは…りっちゃんを責めるつもりはないよ…りっちゃんがさ、いつからりょうちゃんのことを好きだったかはわからないけど…もしかしたら…別の世界線でまゆとりっちゃんの立場が逆転していた可能性だってあるし…まゆも…春香ちゃんに悪いって思いながらりょうちゃんを奪おうとしたのだから…まゆにりっちゃんを責める資格はないよ」
 まゆ先輩は少しだけ儚い表情で呟くように僕の問いへの答えを述べた。別の世界線で…もしかしたら…か…それはない…だろう。と、言うのは簡単だ。今はまゆ先輩と春香がいてくれるから…でも、もしまゆ先輩と春香がいない状態だったら僕はどうしていたのだろう……
 「まゆ、りっちゃんさんから来たLINEにさ…私はもうまゆと春香と一緒にいる資格がない。だから、もう仲良くできない。って感じの言葉があったんだよね…僕さ、りっちゃんさんと春香、まゆには仲良しでいて欲しい。少なくとも…春香はりっちゃんさんと離れるのは絶対嫌って言うと思う…」
 「まゆもだよ。まゆも、りっちゃんと仲良しでいたい。りょうちゃん、話してくれてありがとう」
 まゆ先輩は僕にそう言ってすぐにスマホを手に取ってりっちゃんさんに電話をかけ始めた。現在の時間は0時を過ぎていてもうりっちゃんさんは寝ているかもしれない……何回か電話をかけるが、りっちゃんさんは電話に出てくれなかった。
 「りょうちゃん…まゆちゃん…春香ちゃん……」
 私は何度も何度も3人の名前を呟いていた。私が大好きな3人の名前を…ずっと……もう、私は……一緒にいる資格がない。でも……やっぱり一緒にいたい……だから……私はずっとずっと……泣き続けていた……未練がましく……大好きな3人の名前を……何度も呼び続けていた……助けを求めるように……
 そんな時に、インターホンが鳴る音がした。今の時間は0時前。こんな夜遅くに誰だろう……りょうちゃん……ではないよね……私は涙を拭ってから、インターホンに出る。
 「りっちゃん…今日さ…りょうちゃんがいなくて寂しいからさ…お泊まりしていい?」
 私がインターホンの電源を入れると、春香ちゃんの声が聞こえた。先程…りょうちゃんに送ったLINEのことを聞いたのだろうか……どっちでもいいか……どうせ話さないといけないことだ。春香ちゃんにこの話をして、ちゃんと謝って…さようならしよう。
 私は部屋の扉を開けて春香ちゃんと目を合わせる。そして、今、部屋散らかってるから私が春香ちゃんの部屋行っていい?と聞くと春香ちゃんはいいよ。と言ってくれた。もちろん、私にお泊まりするつもりはない。春香ちゃんを私の部屋にあげたら…さようならできないから…春香ちゃんのアパートに向かう途中にちゃんと話して…ちゃんとさようならをしよう。
 私は荷物用意するからちょっと待ってて、と言い部屋の扉を閉める。用意する荷物はない。ただ、適当な鞄を持って、私は玄関に向かい、春香ちゃんに責められる覚悟と…春香ちゃんにさようならをする覚悟をほとんど何も入っていない鞄に詰め込んで部屋の扉を開けた。
 「お待たせ、行こう」
 「うん」
 私が春香ちゃんと並んで歩き始めると春香ちゃんはそっと私の手を握ってくれる。いつものこと…だが…今日はいつもよりも強く握られていて…なんとなく、いつもより温かい感じがした……
 「りっちゃん、何かあったの?悩んでるなら話聞くよ」
 私はまだ何も言っていない。顔にも出していないはずだ。何で…気づいたのだろう……
 「春香ちゃん…私ね。りょうちゃんのこと好きなの…」
 「え…」
 春香ちゃんは驚いた表情をする。当然だよね。ごめんなさい。驚かせて…ごめんなさい。春香ちゃんとまゆちゃんの大切な人を好きになってしまって……
 「この前…りょうちゃんに告白した。好きって伝えたの。もちろん…断られたよ。ごめんなさい。春香ちゃんの大切な人にちょっかい出して…本当にごめんなさい。こんな、私に…春香ちゃんと一緒にいる資格はないよ。だから…ごめんなさい。さようなら。私の分まで…りょうちゃんを幸せにしてあげてよ。3人で幸せになって……」
 私は春香ちゃんにそう言い、春香ちゃんと繋いでいた手を払った。私はズルい……私が悪いのに……涙が止まらない……離れたくない……でも……私はもう。この子と一緒にいてはいけない。
 「だめ…」
 私が春香ちゃんから手を離すと春香ちゃんはそう呟いて私を思いっきり抱きしめた。
 「逃がさないから…りっちゃんと離れたくないから…」
 春香ちゃんにそう言われて私は涙が止まらなくなる。なんで…そんなことを言ってくれるの?だめだよ…こんな私なんかと一緒にいたら……私は……春香ちゃんの側にいてはいけないんだよ……だからさ、離してよ……お願いだから……離して……私を解放して……そう、口に出して言えなかった。私は……春香ちゃんを抱きしめ返していた。そして、子どものように泣いた。春香ちゃんは私に泣かないで……と言いながら私を優しく包んでくれた。
 「私には…りっちゃんが必要なんだよ。私の人生にりっちゃんは絶対に必要なの……短い付き合いだけどさ…りっちゃんはもう、私にはなくてはならない存在なの……お願いだから離れるなんて…さようならなんて言わないで…」
 春香ちゃんは泣きながら私に言った。なんで…泣いてくれるの?なんで…私を必要って言ってくれるの?なんで…私とさようならしたくない。なんて言ってくれるの?
 「だめ…りょうちゃんに手を出した私が春香ちゃんの側にいるなんて許されない…だから、せめてもの罪滅ぼしで…私は3人の幸せを祈るよ。邪魔者は消える…」
 「せめてもの罪滅ぼしね…私は望んでない…そんなことしなくていい……そんなの罪滅ぼしでもなんでもない。逃げてるだけ……逃げたら……許さないから……罪滅ぼしがしたいなら……これからも一緒にいて……お願いだからこれからも私の親友でいてよ……」
 逃げてるだけ…そう…だね。でも……私には……言い返そうとした。恨まれてもいいから…離れようと決意した……
 「ありがとう」
 決意したはずなのに…離れるって……私は泣きながら……ありがとう。と言い、春香ちゃんを思いっきり抱きしめていた。離れるはずだったのに…離れようって決めていたのに……私の行動は私の心を否定していた。
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