お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

彼女のお母さんとの初対面





 「ただいま!」
 まゆ先輩は家の玄関に入り、靴を脱いで廊下に上がる。僕も靴を脱いでお邪魔します。と言いながらまゆ先輩に続いて廊下を歩いた。
 廊下を歩いてリビングに入るとまゆ先輩のお母さんが出迎えてくれた。まゆ先輩にかなり似ていて、年齢の割に若々しく感じた。
 「ママ、この子がまゆの彼氏のりょうちゃん」
 「は、はじめまして…まゆさんとお付き合いさせていただいてましゅ…あ…」
 「りょうちゃん、緊張しすぎだよ…」
 緊張しすぎてまともに話せていない僕にまゆ先輩が笑いながら言うとまゆ先輩のお母さんも笑いながら、お腹空いたでしょう。夜ご飯準備してあるから食べて。と言われたのでリビングのテーブルの椅子に腰掛ける。僕の横の椅子にまゆ先輩が座り、テーブルを挟んで向かい合う場所にある椅子にまゆ先輩のお母さんが座った。
 「今日は急に来てもらってごめんね。まゆがすごく嬉しそうに彼氏が出来た。って報告してきたからどんな子か気になってね。あ、夜ご飯食べてね」
 僕とまゆ先輩が座った椅子の前には夕食のハンバーグとご飯、味噌汁が並べられていた。以前、まゆ先輩の家でまゆ先輩が作ってくれた料理を思い出す。僕とまゆ先輩はいただきます。と言い夕食を食べ始めた。
 「どう?美味しいかな?」
 夕食を食べ始めてから少しして、まゆ先輩のお母さんが僕に尋ねる。
 「はい。美味しいです。以前、まゆさんにハンバーグ作ってもらったこととか、いろいろ料理作ってもらったことがあるのですが、まゆさんの料理上手はお母さんに似たのですね」
 「あら、まゆ、ちゃんと彼氏さんに料理作ってあげてるのね。最近、お泊まりに出かけることが多くて、春香ちゃんの家にお泊まりしてるのかなと思ってたけど彼氏さんの家にお泊まりしてたのかしら?」
 まゆ先輩のお母さんはニヤニヤとまゆ先輩に問いかける。それを聞いて、僕とまゆ先輩はどきっとした。何て言えばいいのだろう…反応に困る問いかけだった。
 「ママ…あのね……」
 まゆ先輩がお母さんに春香のことを話そうとしたのを僕は止めた。これは僕から言わないといけないことだと思ったから……
 「お母さん、すみません。お母さんに一つ謝らないといけないことがあって…その、僕、まゆさんともう一人お付き合いしている人がいて、そのもう一人が春香なんです。僕と春香は幼馴染みで、お互いの両親の勧めもあって、僕と春香は今、同居してます。なので、まゆさんがお泊まりに来る日は僕と春香とまゆさんの三人でお泊まりしていることになります。春香と付き合うことと、まゆさんと付き合うことを春香とまゆさんは同意してくれています。ですが、普通なら許されることではないこともわかっています。僕が、二股をしていると責められても文句は言えません。僕は人として最低なことをしているかもしれません。ですが、僕は春香もまゆさんも本気で幸せにしたいって思ってます」
 「ん…え……ん???」
 まゆ先輩のお母さんは何を言っているのかわからないと言うような表情で僕とまゆ先輩を交互に見つめる。
 「ママ、このことはまゆも納得しているし、今、まゆも春香ちゃんもりょうちゃんのおかげで本当に幸せなの。だから…まゆたちの恋愛を否定することだけはやめてほしい……」
 「えっと…ちょっと話を整理させてね。りょうくんはまゆと付き合ってるのよね?」
 「はい」
 「えっと…それで、春香ちゃんとも付き合っている…と?」
 「はい」
 僕の返事を聞いてまゆ先輩のお母さんは困惑した表情をする。当然の反応だろう。仮に僕に娘がいて娘の彼氏が僕に僕と同じようなことを言ってきたら僕もまゆ先輩のお母さんと同じような反応をしてしまうだろう。
 「まゆ……」
 少し考えた後、まゆ先輩のお母さんはまゆ先輩の名前を呼んだ。この後、何を言われるか、僕とまゆ先輩はまゆ先輩のお母さんの言葉を待った。何を言われても受け入れる覚悟はあるが、まゆ先輩のお母さんが次の言葉を発するまでの数秒が数時間のように長く感じた。
 「りょうくんのこと好きなのよね?」
 「うん」
 まゆ先輩は即答した。迷うこともなく、まゆ先輩のお母さんの問いかけに反射的に答えた。
 「りょうくんと付き合えて本当に幸せなのよね?」
 「うん」
 この質問にもまゆ先輩は即答した。迷いなんて一切ないと思わせるくらいの返事だった。
 「そう…なら、私は何も言わないわ…りょうくん、娘をよろしくお願いします。出来の悪い娘で手を焼くと思いますが幸せにしてあげてください」
 「え、ママ…いいの?」
 「ダメって言っても別れたりしないでしょ…ちょっと驚いたけど、りょうくんとまゆがお互いに愛し合ってることくらい見ればわかるわ」
 「ママ…」
 「ありがとうございます。必ずまゆさんを幸せにします」
 僕はまゆ先輩のお母さんに頭を下げる。まゆ先輩はお母さんに認めてもらえて嬉しそうに微笑んでいた。
 「ほら、夜ご飯早く食べちゃいなさい。もう夜遅いのだから…悪いけど、私はもうしばらくしたら夜勤に行かないといけないから…片付けはまゆにお願いするわね」
 「うん。わかった」
 「りょうくん、まゆのことよろしくお願いします。まゆと春香ちゃん、二人をちゃんと幸せにしてあげてね。今度、春香ちゃんも連れてお泊まりに来てよ。あ、お父さんがいない日にしてね。お父さん、まゆに彼氏が出来たって知ったらショックで寝込むかもしれないから」
 まゆ先輩のお母さんは笑いながらそう言って夜勤の準備があるから…とリビングを出て行った。
 「とりあえず認めてもらえたね…」
 「うん。めっちゃ怖かったけど一安心だよ…」
 「りょうちゃん、かっこよかったよ」
 「そう?めっちゃ必死で余裕なかったけど…」
 「かっこよかったよ。惚れなおしちゃった」
 まゆ先輩はそう言って僕に抱きつく。僕がまゆ先輩を受け止めると、まゆ先輩は僕の唇を奪った。
 「頑張ってくれたからご褒美…さ、夜ご飯食べちゃおう」
 「うん。ありがとう…」
 まゆ先輩にされたキスの余韻を味わいながら僕は夕食をいただいた。夕食を食べ終えた後、二人で後片付けをしているとまゆ先輩のお母さんが行ってきます。と夜勤に出かけた。こうしてまゆ先輩のお母さんとの顔合わせは終わったのだった。





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