お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

夜の告白





 「思い出せなくてごめん…」
 「気にしないで、入試会場で一度だけ偶然会った子を覚えてるって中々難しいことだと思うから…連絡先交換してたりしたら別だけどさ、助けてもらってちょっとお喋りしただけだもん。思い出せなくても仕方ないさ」
 ゆいちゃんは笑顔で僕に言うがきっと辛いだろう…申し訳ない。と思う。一度思い出したら、あの時のことを鮮明に思い浮かべることができる。あの時と少し見た目が変わったが、ゆいちゃんがあの子であることははっきりとわかった。何故、ゆいちゃんと再開した時に思い出せなかったのだろう。と不思議に思うほどに僕はあの時の記憶を取り戻していた。
 「ちょっとだけ、お喋りしていい?」
 「うん。いいよ」
 ゆいちゃんにそう答え、僕はゆいちゃんの横のブランコに腰をかける。
 「正直言ってね。ちょっとショックだった。吹奏楽部の体験に行った時にチラッとりょうくんの顔が見えて、嬉しかったんだ。りょうくんも合格してたんだ。しかも、私と同じ吹奏楽部に入るんだ。やっと再開できたんだ。って…でも、すれ違った時にりょうくん何も言ってくれなくて…気づいてくれなくて…仕方ない。って思っていてもやっぱりショックだった。その後にりょうくんの噂を聞いた時も勝手にショックを受けていたんだ…そして、先輩たちと楽しそうにしているりょうくんを見て、あぁ…私はりょうくんの特別にはなれないんだな。って悟って一人で勝手に泣いてたの…」
 「ごめん…」
 「謝らないで…仕方ないことだし、私が勝手に悲しんでるだけだからさ…」
 「でも…」
 「りょうくん、私、りょうくんのことが好き。大好き。お願いします。私と付き合ってください」
 罪悪感を感じていた僕にゆいちゃんが意を決した表情で言う。瞳に涙を浮かばせているが、こぼれないように必死に堪えている。
 「ごめんなさい…ゆいちゃんの気持ちに応えることはできない……」
 「そう……だよね。うん。わかってた…ごめんね。変なこと言って…」
 ゆいちゃんは涙を必死に堪えて笑顔を作ったが、すぐにその笑顔は崩れてしまった。ゆいちゃんの悲しそうな表情を見て僕は罪悪感を感じる。
 「ごめんね。ゆいちゃんの気持ちは本当に嬉しいよ。僕なんかのことを好きになってくれてありがとう。でも、僕には好きな人がいるからそんな状態でゆいちゃんと付き合うなんてことはできない。本当にごめんなさい」
 「うん。わかってる。りょうくんが春香先輩とまゆ先輩を本気で愛していて2人から本気で愛されてることも…でも、私、我慢できなかった。半年間…本当にりょうくんのことばかり考えていたからさ…だから、辛いよ。でも、そんな辛さをかき消せるくらいりょうくんと再開できたのが本当に嬉しい。だから…その…あの時の約束守ってくれる…かな?」
 -再開したら仲良くなってくれる?-脳内にあの時の言葉が浮かんできた。そんなこと確認するまでもないのに…
 「うん。これから4年間、仲良くしよう。僕、県外から来てるから春香やまゆ先輩、りっちゃんさん以外に仲良い人いないんだ。同級生の友達が本当に欲しかったからさ、こちらこそ仲良くしてほしい」
 「ありがとう。りょうくんと再開できて本当によかった。これからよろしくね」
 「うん」
 それから、あの時の話を少しだけした。懐かしいような懐かしくないような、半年間という微妙な時間を振り返るように話した。そして、お互い、半年間の思い出をいろいろ話していた。
 「あ、部屋の鍵開けっぱなしなんだよね…そろそろ帰らないと…」
 「あ、そうだった。ごめん」
 「いやいや、急に飛び出した私が悪いから謝らないで…探しに来てくれてありがとう」
 「そりゃ…心配だったからさ…」
 僕はそう言いながらブランコから降りて立ち上がる。僕が立った直後にゆいちゃんも立ち上がり僕の後に続いて歩き出した。
 「そっか…ありがとう。やっぱり、りょうくんは優しいね」
 そう言いながらゆいちゃんは後ろから僕を抱きしめてきた。
 「ゆいちゃん…」
 「ごめん。今は振り向かないで…ちょっと顔見られたくない…それから…わがままだとは思うけどあともう少しだけこのままでいて…」
 「わかった」
 きっと…ゆいちゃんの表情は涙でぐちゃぐちゃになっているだろう。ゆいちゃんの震える声でそれは察することができた。抱きついているのが、春香やまゆ先輩だったら僕はそっと頭を撫でて抱きしめ返しただろう。だが、ゆいちゃんにそれはできなかった。ゆいちゃんのことを本気で愛せない僕にそんな資格はない。と思ったからだ。ゆいちゃんが僕に抱きつきながら泣くのを僕は黙って見つめていた。振り向かないで…と言われたので振り向かずに前だけを見つめて…
 「ありがとう…」
 「うん。もう大丈夫?」
 「うん。帰ろう」
 僕が振り返るとゆいちゃんは僕を抱きしめていた腕を離して笑顔で歩き出した。
 そんなゆいちゃんの表情を見て、僕は罪悪感を感じながらゆいちゃんと歩いてゆいちゃんの部屋に戻るのだった。







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