お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

決着








 「春香、会いたかったぜ。わざわざ迎えに来てくれるなんてやっぱりお前も俺のこと想ってくれてるのか?」
 「勘違いしないで…私はりょうちゃんとまゆちゃんを迎えに来ただけ…あなたはさっさと帰って…」
 春香は冷たい声で淡々と自身に近づいてくる男に告げた。男が冷たいこと言うなよ。と春香に手を伸ばすと春香は自身の手で迫りくる手を払って僕とまゆ先輩に一直線に向かってきた。
 「りょうちゃん、まゆちゃん、ごめんね。私のせいでこんな目に合わせちゃって…」
 春香はそう言いながら立ち上がろうとしていたまゆ先輩に手を貸してまゆ先輩を立たせる。見た感じ、先程の擦り傷以外は大丈夫そうなので安心した。僕も何度か殴られたり蹴られたりしたが、怪我はしていないはずだ。
 「りょうちゃんとまゆちゃんをこんな目に合わせて本当に申し訳ないしもう許せない。私が苦しい思いをするだけならいいけどりょうちゃんとまゆちゃんを傷つけられたら私も黙ってないから…」
 春香はそう言いながら男を睨みつける。普段、怒ったりしない春香が怒るとちょっと怖いどころではない。声だけで僕とまゆ先輩は春香が怒っていることがわかりちょっとだけ震えた。
 「これ以上、私やりょうちゃん、まゆちゃんに何かしたらもう許さないから…大事にしたくなかったから何もしないで我慢してきたけど、これ以上、私たちに何かするなら大学や警察に相談させてもらいます。さっき、あなたがりょうちゃんを殴ったりしているところはアパートの入り口にある監視カメラに映っているはずですからそれを証拠に被害届を出します。それが嫌ならさっさと帰ってもう二度と私たちに関わらないでください。あと、私はあなたのことが大っ嫌いだからあなたと付き合ったりすることは絶対に有り得ません。さようなら。さ、りょうちゃん、まゆちゃん、部屋に戻ろう」
 淡々と述べた春香は僕とまゆ先輩の手を引いて慌ててアパート内に入りさっさと部屋に逃げ込みしっかりと鍵を閉める。先程は、オートロックのアパートのセキュリティを掻い潜っていきなり部屋の前までやって来たみたいなのだが、次に同じことをされたらさっさと警察に通報しよう。と春香は僕に提案した。
 春香にボロクソ言われて現実を受け入れたか、それ以降、拓磨が部屋のインターホンを鳴らしたりすることはなかった。

 「りょうちゃん、まゆちゃん、私のせいで本当にごめんなさい。怪我とかしてない?大丈夫?」
 「うん。僕は大丈夫だよ。まゆは、少し擦り剥いちゃってるね…それ以外は大丈夫?」
 「うーん。少し痛いくらいかな…りょうちゃんがまゆの頭撫でてくれたら治まるかも…」
 まゆ先輩がチラチラと視線を送ってくるので、はいはい。と返事しながらまゆ先輩の頭を撫でてあげる。すると春香がまゆ先輩の横に座ってきたので春香の頭も撫でてあげるとめちゃくちゃ満足そうな顔をしてくれた。2人の幸せそうな顔を見て僕も癒された…先程、あんなことがあったのにこんなことしてていいのだろうか…とは思うが重々しい雰囲気になるよりはマシかな…
 「春香、さっきはありがとうね。助かったよ」
 「助けられたのは私の方だよ。本当にありがとう…」
 春香はそう言いながら泣き出してしまった。やっぱり怖かったんだろうな…僕は春香をそっと抱きしめて大丈夫だよ。と何度も言う。そして、その様子を見ていたまゆ先輩がわざとらしく咳払いをして僕の身体をツンツンと突く。かわいいな。と思いながらまゆ先輩も抱きしめる。春香とまゆ先輩、こんなにかわいい2人を抱きしめていられるのは本当に幸せだと思う。でも、この幸せはいつか崩れてしまうものなのかな…などと考えてしまった。僕がどちらかを選んでしまったらこんなことはもうできないだろうから…
 それから数分間、春香が泣き止むまでずっと春香とまゆ先輩を抱きしめていた。春香が泣き止み、お腹空いたし夜ご飯を食べよう。とガスコンロに火をつけて冷めていた鍋を温める。
 まゆ先輩が作ってくれたキムチ鍋はちょっと辛めだったが、味噌で味付けされていてマイルドな感じがした。普通にめちゃくちゃ美味しかった。シメで雑炊も楽しんでお腹いっぱいだ。
 食事中、いつもより暗かったが、ちょくちょく2人があーんを要求してきて大変だった。
 食器の片付けなどをした後、僕と春香とまゆ先輩はリビングのソファーに座って割と真剣な話をすることにする。
 話のテーマは当然、今日起こった出来事について、だ。
 今日起こった出来事…まず、まゆ先輩と春香からの告白、そして、春香へのストーカー騒動、春香へのストーカー騒動に対しては即座に対応しなければならないだろうし、まゆ先輩と春香からの告白についても僕は覚悟を決めないといけないだろう。春香もまゆ先輩もどちらも好きだからどちらも幸せにしたい。なんて考え、許されるわけがないのだから…
 3人で並んで座り、話し合いは始まるのだった。






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