お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

好きと言う感情







 「幸せになりたいよ……私も…りょうちゃんと………」
 無理だとはわかっている。りょうちゃんがもうまゆちゃんを選んだのなら私はこれ以上りょうちゃんを求めてはいけない。これからはりょうちゃんとまゆちゃんの幸せを願うべきだ…
 「それでも…私も…幸せになりたい…」
 止まらない涙を拭いながら私は呟いた。幸せになりたいと何度も…自分勝手な願望を何度も何度も繰り返し口にした。
 「春香…やっと見つけた…大丈夫?」
 体育座りで頭を脚に押し付けるようにして蹲っていた私が頭を上げるとそこにはりょうちゃんがいた。私を心配して追いかけてきてくれたのだろう。りょうちゃんは本当に優しい…
 りょうちゃんが私を心配して追いかけてきてくれたことに私は幸せを感じるのだった。
 「大丈夫?どうしたの?もし、何かあったなら僕にできることなら何でもするよ。悩んでたりするならできたら相談してほしいな」
 りょうちゃんは私にそう言いながらポケットからハンカチを取り出して私の顔の涙を拭きとってくれた。そして私の手を握って私を引っ張り私を立たせてくれた。
 「とりあえず、ここじゃ人目につくかもしれないからさ、さっきの部屋に戻ろう…歩ける?」
 「泣きすぎてふらふらして歩きにくい…りょうちゃん、肩貸して」
 「うん。わかった」
 りょうちゃんは嫌な顔一つせずに私の腕を自身の肩に引っ掛けて私の体重を受け止めながらピアノ練習室まで私を連れて行ってくれた。そんな状況でも私は幸せを感じていた。
 
 「で、何があったの?話せる?」
 りょうちゃんは私をピアノ練習室の椅子に座らせてから尋ねる。
 「大丈夫だよ。本当に何もないから…」
 私の言葉を聞いてりょうちゃんは困ったような表情をする。だって、私の言葉が嘘だということは私の瞳から流れ続けている涙が証明してしまっているのだから…
 「そっか…じゃあ、深くは聞かないよ。でも、いつか話せるようになったら話してくれると嬉しいな。相談に乗るくらいなら全然するし、できることがあれば力貸すから悩みとかあったら言ってよ。春香が泣いてるところなんて見たくないからさ」
 りょうちゃんは私にそう言い聞かせて私の涙を拭ってくれた。その優しさが私から流れる涙を更に増やすとも知らずに…
 「りょうちゃん…私と一緒に暮らすの迷惑じゃない?」
 私の涙を拭いながら私の頭をそっと撫でてくれていたりょうちゃんに私は尋ねる。もし、りょうちゃんとまゆちゃんが付き合ったのなら私と一緒に暮らすことは2人にとってあまり良くないのではないか…などと考えてしまい。気づいたら口にしてしまっていた。
 「全然嫌じゃないし迷惑どころかすごく助かってるよ」
 りょうちゃんは即答してくれた。迷うことなく、自然と、当たり前のように、私に言ってくれた。それが私にはすごく嬉しかった。
 「それにさ、春香と一緒に暮らせて毎日幸せなんだ。大好きな春香と一緒に暮らせてさ…もしかして僕と暮らすの辛かった?」
 りょうちゃんは申し訳なさそうに私に尋ねた。りょうちゃんと一緒に暮らすのが辛いわけないのに…むしろいっぱい幸せにしてもらえて本当に感謝しているのに…
 「そんなわけないじゃん。りょうちゃんと一緒に2人きりで暮らすのは私が小さい頃からの願望なんだから…私はりょうちゃんと一緒に暮らせて幸せだよ。私もね。りょうちゃんのこと大好きなんだ。大好きって言うのは幼馴染みとしてじゃなくて恋愛対象としてね。likeじゃなくてloveって意味だよ。ずっとずっと、小さい頃からりょうちゃんのことが好きだった。りょうちゃんとの関係が壊れちゃうかもしれないから怖くてずっと言えなかったけど、りょうちゃんのことが本当に好き。大好き。大好き…だったんだよぅ………」
 私は涙腺が崩壊したと本気で思ってしまうくらい号泣しながらりょうちゃんに好き。と…自分がずっと言えなかった言葉を口にした。こんなこと言われても迷惑だとは思うけど気づいたら口にしてしまっていたのだ。もう、抑えきれなかった。りょうちゃんのことが好きって感情を私の中に押し留めることができないのだ。私は何度も何度も大好きを繰り返しながら泣いた。
 「春香…僕も春香のことが大好きだよ」
 りょうちゃんは私にそう言って私をそっと抱きしめてくれた。そしてもう一度私の耳元で春香のことが大好き。と言ってくれた。
 「僕もずっとずっと言えなかったけど春香のことが好き。likeじゃなくてloveって意味でね」
 「じゃあ、なんで朝、まゆちゃんとハグしてたの?」
 「………実はさ、僕、まゆ先輩のことも好きになっちゃったんだ…でも、春香のことが好きって気持ちもあったからどうしたらいいかわからなくて……春香のことは大好きだけどまゆ先輩のことも大好きなんだ…最低なこと言ってるってことはわかってるけど僕は2人とも大好きなんだ…ごめん…ごめんなさい……」
 りょうちゃんは泣きながら私に言った。それほどに罪悪感を抱いているのだろう。でも、好きになってしまったのなら仕方ない。好きって一度気づいたらもう止まらないものだから…それが好きと言う感情だと言うことを私は知っている。だから、りょうちゃんを責める気は全くない。
 「謝らないで…私のこと好きって言ってくれてありがとう。それだけで私は幸せだよ。大好きな人に好きって言ってもらえただけで私は幸せだからさ…私とまゆちゃん、どっちを選ぶかはりょうちゃん次第だよ。悩んでいい。それくらいのことで私はりょうちゃんを嫌いになったりしない。たぶんまゆちゃんもそう言うよ。だから、ゆっくり、りょうちゃんが幸せになれる方を選んで…」
 私の言葉を聞いて今度はりょうちゃんが泣いた。私はりょうちゃんを優しく抱きしめてりょうちゃんの涙を拭った。そして、ごめんなさい。を繰り返すりょうちゃんにありがとう。と何度も返事をするのだった。
 私を好きになってくれてありがとう。と…












「お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く