お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

幸せな顔と辛い顔








 「りょうちゃん、お待たせ」
 まゆ先輩が部屋から出て行って20分くらい経過した頃にまゆ先輩は部屋に戻ってきた。
 まゆ先輩はテーブルの上に2つのマグカップを置いた。マグカップの中にはとても美味しそうなプリンが入っていた。
 まゆ先輩が食べよ。と言ってくれた。その時にまゆ先輩と目が合った。まゆ先輩の眼元は赤く腫れていて頬には涙が溢れた道筋が残っていた。
 「え…りょうちゃん…急に何……」
 気づいたら僕はまゆ先輩を抱きしめていた。本当は辛いよね。ごめんなさい。と何度も言いながらまゆ先輩を強く抱きしめた。
 「いいんだよ。まゆが勝手に好きになっただけなんだから…辛い道だっていう覚悟はしてる。たしかに好きって気持ちが実らないのは残念で辛いけど、それでもまゆは幸せなの。今だって…まゆが産まれてから一番の幸せを味わってるんだよ。好きな人に抱きしめられてまゆ、本当に幸せ。だから気にしないで…辛い道だけどさ、まゆは大丈夫。だってまゆが泣いたり落ち込んだりした時はその分りょうちゃんが幸せにしてくれるんだもん」
 まゆ先輩は僕を抱きしめて本当に幸せそうな表情で言うのだった。まゆ先輩が幸せそうにしている表情は本当に好きだ。
 「さ、プリン食べよ。まゆが食べさせてあげるから元気出して、その代わり、りょうちゃんもまゆに食べさせてね。そうしてくれたらまゆは十分幸せになれるから」
 その後、お互い交互に一口ずつプリンを相手に食べさせた。まゆ先輩の手づくりプリンは柔らかくて甘く、しっとりしていて本当に美味しかった。プリンをお互いに食べさせあっている際、まゆ先輩は本当に幸せそうな表情で、その顔を僕は愛おしいと思ってしまった。



 「りょうちゃん本当にあり得ないよね!」
 私はテーブルを叩きつけながら嘆くように叫んだ。ドンという大きな音と私の荒れ様を見て目の前にいたりっちゃんが引きつった笑みを浮かべながら私を宥める。
 「普通、出会って数日の女の子の家で2人だけでお泊まりとかする?しかも、家にいる私を放置して…だよ」
 「まあ、少し落ち着きなよ。話なら後でいくらでも聞いてあげるからさ、とりあえず食べない?せっかく美味しいんだから冷めちゃったらもったいないよ」
 りっちゃんは私にそう言いながらカレーうどんを口に運ぶ。昨日、余ったカレーを薄めてカレーうどんにして食べる予定だったのだが、りょうちゃんがまゆちゃんの家に行ったせいでだいぶ余ってしまうと思ったのでりっちゃんを呼んだのだ。ついでにいろいろ愚痴を聞いてほしいと言ったらすんなりといいよ。と言ってくれて今日、りっちゃんはうちでお泊まりすることになっていたのだった。
 りっちゃんに言われた通り、話し出したらキリがなさそうなのでまずは食べることに専念する。りょうちゃんの文句を言うのはそれからだ。


 思っていたより荒れてるなぁ…それが、春香ちゃんの様子を見た私の感想だった。春香ちゃんが机叩くのなんて初めて見たし、あまり人のことを悪く言うような子じゃないのに、りょうちゃんに関しての最初の一言が信じられない!と中々に否定的だった。私はてっきり、春香ちゃんに弱々しい声でどうしよう。まゆちゃんにりょうちゃん取られちゃう。などと泣きながら相談されると思っていたので、かなり驚いていた。
 とりあえずカレーうどんを食べ終えて、春香ちゃんと一緒に食器の後片付けをする。それが終わり、私は春香ちゃんの話を聞くことにする。春香ちゃんが私に何か話したい時、春香ちゃんは絶対に体育座りのような格好で私の横に座り私に横からもたれかかりながら話をする。今日もソファーで座らせてもらってた私の横に座り、ソファーの上で体育座りのような格好をして私にもたれかかってくる。毎回思うがかわいい…一瞬、こんなかわいい子放ったらかしにして他の女の子の家にお泊まりに行くとかあり得んわ…と思ってしまうが、まゆちゃんも春香ちゃんと同じくらいかわいいから仕方ないか…と私は思う。
 春香ちゃんは私の袖を軽く引っ張った。いつも、春香ちゃんが私にする確認だ。私は春香ちゃんにいいよ。と言うと春香ちゃんは私に抱きついてきた。
 「私じゃダメなのかな…私はりょうちゃんにとって特別になれないのかな…私は、まゆちゃんに勝てないのかな…」
 春香ちゃんは抱きつきながら泣き、私に尋ねる。春香ちゃんの瞳からは涙が流れていて、せっかくのかわいい顔が台無しと思うくらい辛そうな表情だった。
 「うーん。春香ちゃんがまゆちゃんに勝てるかとかはよくわからないけどさ、りょうちゃんにとって春香ちゃんは必要な存在だと思うよ。私、まだりょうちゃんと春香ちゃんが一緒にいるところあまり見てないけどさ、それでもりょうちゃんが春香ちゃんのこと大切にしてることは伝わってくるよ。少なくとも私は、りょうちゃんにとって春香ちゃんはなくてはならない存在だと思う」
 私は泣き噦る春香ちゃんの頭をゆっくりと撫でながら言う。
 「少なくとも、りょうちゃんは春香ちゃんを見捨てたりはしないと思うよ。あとね、まゆちゃんに勝てるかじゃない。りょうちゃんの特別になれるかじゃない。りょうちゃんにとっての特別に絶対なってやる。って思わないと…ちゃんとはっきり好きって言わないとちゃんと伝わらないよ」
 りょうちゃんが春香ちゃんのことを好きだということは私の口からは言わない。それは、りょうちゃんから春香ちゃんに伝えないといけないことだと思うし、何よりまゆちゃんに申し訳ないからだ。私は春香ちゃんとまゆちゃん、どっちも応援している。だから、春香ちゃんにりょうちゃんが春香ちゃんのことが好きだと伝えるのはフェアじゃない。
 私の言葉を聞いた春香ちゃんは私を抱きしめる力を少しだけ強くした。やはり、春香ちゃんはりょうちゃんが許せなかったのではない。りょうちゃんを責めたかったわけではない。いつまでもりょうちゃんに想いを伝えられずにまゆちゃんとりょうちゃんの仲が進展していくのを黙って見ていることしかできない自分が嫌だったのだろう。
 私は春香ちゃんが泣き止むまで春香ちゃんの頭を撫で続けるのだった。






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