お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

3人の女性とピアノの約束






 「でも、意外ですね。りっちゃんさんが単位落としてるって…この授業難しいんですか?」
 空いていた席にりっちゃんさんと並んで座ってから僕はりっちゃんさんに尋ねる。
 するとりっちゃんさんはそんなことないよーと笑いながら答えてくれた。実際に2年生でこの授業を受けなければならない人は数人しかいないらしい。
 「実はね…テスト前日に推しのライブがあって…全力ではしゃいで帰ったの夜遅くで1限のテスト寝坊しちゃったんだ…」
 めちゃくちゃ意外な理由だった。りっちゃんさんは中々のドルオタらしい…推しに会えて推しのライブに貢献できたのだから後悔はしてない。とりっちゃんさんは言い切った。なんか、かっこいい…
 そんなことを話していると授業が始まった。初回の授業だったので、ガイダンス的なことをして割と早めの時間に終わった。
 「りょうちゃん、2限授業ないよね?」
 「あ、はい。空いてます」
 机の上に出していた筆記用具を片付けながら僕はりっちゃんさんの問いに答えた。
 「じゃあさ、行きたいところがあるんだけどちょっと付き合ってくれない?」
 「はい。いいですよ。どこに行くんですか?」
 「ピアノ弾きに行くの」
 りっちゃんさんは笑顔で答えた。りっちゃんさんは荷物を持って立ち上がりついてきてと僕に言う。
 りっちゃんさんに続いて大学の敷地内を歩く。少し歩くと割と小さ目な建物があり、その建物の中に入る。建物の中にはいくつか小さ目の部屋があり、その部屋の中にはピアノが置かれていた。りっちゃんさんはピアノが2台置かれている割と広めの部屋に入る。部屋に置いてある机に荷物を置いてりっちゃんさんはさっそくピアノ椅子に座りピアノを弾き始めた。

 「すごい…」
 りっちゃんさんは指を踊らせるようにして難易度の高そうな曲を簡単に弾いて見せる。りっちゃんさんが弾いているのを見ると簡単そうに見えるが素人ではとても真似できない。ピアノをさも簡単そうに弾けることがりっちゃんさんのピアノの実力を証明していた。
 「りっちゃんさん、すごいピアノ上手ですね」
 「うーん。まあ、昔から習ってたしね。今年、授業で使うから最近また練習し始めたんだよ。ていうか、りょうちゃんも来年授業で使うはずだよ」
 りっちゃんさんと僕は学部が同じで学校教育系の学部のだ。当然、音楽関連の授業があるためピアノをある程度は弾けるようにならないといけないらしい。春香とまゆ先輩は教育系の学部だが、保育系の専修だ。保育系の専修は1年生の頃から授業でピアノを習うらしい。ちなみに、春香はピアノがめちゃくちゃ上手い。りっちゃんさんといい勝負だ。りっちゃんさん曰く、まゆ先輩もピアノがめちゃくちゃ上手いらしい…みんなすごぉい…
 「りょうちゃんはピアノ弾けるの?」
 「………全然です(笑)」
 「りょうちゃん、割と笑いごとじゃないよ(笑)」
 「ですよねー(笑)」
 笑えないし、笑っている場合ではないけど笑うしかできなかった…
 僕は昔からピアノが苦手だ。ピアノを普通に弾いている春香を見て教えて。と頼んだことがあるが、全然出来なかった…なんで右手の指と左手の指の動きが違うんだよ…などと思った。当時は、もう無理。チューバ練習する。と言って逃げたが、来年、授業で使うという事実を突きつけられピアノから逃げれないと悟った。
 「りっちゃんさん、お願いです。ピアノ教えてください」
 僕は泣き縋るようにりっちゃんさんに頼み込む。すると、りっちゃんさんは笑いながらいいよ。と快諾してくれた。
 「毎週、この時間ここでピアノ練習しようか」
 「本当ですか!?お願いします!」
 「うん。いいよ」
 この時、りっちゃんさんの表情がめちゃくちゃニヤニヤとしていることに僕は気づかなかった。

 「そろそろお昼だね。昼になったら春香ちゃんとまゆちゃんが来るから4人で一緒に食堂行こう」
 「はい!」
 ピアノの基礎をりっちゃんさんに少し教えてもらっていた僕はりっちゃんさんに応える。
 「ところでさ、りょうちゃんはまゆちゃんのことどう思ってるのかな?」
 「え…」
 「いや〜まゆちゃんがめちゃくちゃ露骨に好きアピールしてるからさ、これは素直に申し訳ないと思ってるんだけど、昨日の夜のやり取りも一部始終聞いちゃってたからさ」
 りっちゃんさんは本当に申し訳なさそうに言っていた。昨日の夜、まゆ先輩に好きと言われた時のことだろう。
 「まゆ先輩はめちゃくちゃ良い人だと思います。優しくて、ちょっと天然で、可愛くて、まゆ先輩みたいな素敵な女性に好き。って言ってもらえたのは嬉しかったです。でも、僕は昔から春香のことが大好きなんです。でも、まゆ先輩に好きって言ってもらえて…あんなに好きってアピールされて僕が応えると幸せそうに笑ってくれるまゆ先輩を見るとまゆ先輩を振るなんてことできないです…」
 「そっか…悩んでるんだね」
 「はい」
 「思いっきり悩めばいいと思うよ。悩んだくらいでまゆちゃんはりょうちゃんを責めたりしないし、たぶん、りょうちゃんに好きって言ってもらえるかりょうちゃんが他の誰かと結ばれて幸せになるまでりょうちゃんを諦めないと思うからさ…」
 「ありがとうございます」
 僕にいろいろ言ってくれたりっちゃんさんの声はとても深く感じた。まるで、自分の経験談のように説得力のある雰囲気でりっちゃんさんは僕に言ってくれたのだった。

 「りょうちゃん、りっちゃん、お待たせ」
 少し経つと春香とまゆ先輩が僕とりっちゃんさんがいた部屋にやってきた。僕とりっちゃんさんは荷物を持って春香とまゆ先輩と共に食堂に向かった。

 昼時の食堂はめちゃくちゃ混んでいたがなんとか4人用のテーブル席を確保する。そして、椅子に荷物を置いて僕たちは注文カウンターに並んだ。注文カウンターでそれぞれ食べたい物を注文し、お金を支払ってその後、料理を受け取る。
 僕とまゆ先輩はハンバーグランチで、春香がきつねうどん、りっちゃんさんがカレーライスを持って先程確保した席に戻る。
 僕の横にまゆ先輩が座り、正面に春香が座る。春香の横にりっちゃんさんが座りその後、4人で雑談をしながら食事を楽しんでいた。
 「そういえば、私、月曜日の2限の時間りょうちゃんにピアノ教えることになったんだ。りょうちゃん、来年授業でピアノ使うから少しは弾けた方が楽に授業受けれるなぁと思って」
 りっちゃんさんがニヤニヤしながらそう告げると横にいたまゆ先輩と正面にいた春香がピクリと反応する。
 「なんだーまゆに言ってくれればいつでも教えてあげるのにー、りょうちゃん、授業ない時間教えて」
 とまゆ先輩が空き時間に教える前提で空き時間を聞いてきた。
 「まゆちゃん、大丈夫だよ。りょうちゃんには私が責任持って教えるから…りっちゃんも迷惑だったら私がりょうちゃんに教えるから大丈夫だよ」
 春香がまゆ先輩を威嚇するように告げた。
 その後のやり取りで、月曜日の2限の時間にりっちゃんさん、火曜日の4限の時間にまゆ先輩、水曜日の1限に春香という形でピアノを教えてもらうことになった。週に3回、90分(大学の授業は1時間90分)ピアノの練習をすることになり、来年のピアノを使う授業への不安感は薄れた。ちなみに、このやり取りをしている間、りっちゃんさんは常にニヤニヤしていた。僕にピアノを教えてあげようか?と言った時にニヤニヤしていたのはこの状況を作る気満々だったからだろう…
 でも、まゆ先輩が僕にピアノを教えてあげる。と言うまでの流れは理解できるが、そのあとに何故、春香が僕にピアノを教えてあげる。と言い出したのか僕にはわからなかった。









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