お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

好きな人の涙





 「ただいま」
 僕は玄関で靴を脱ぎながら春香に聞こえるようにただいまと言う。そして、自分の部屋に今日買ったものや荷物を置いてすぐにリビングに向かった。
 「ただい…春香?どうしたの?何かあったの?」
 リビングの扉を開けて春香と目が合った直後、僕は慌てて春香のすぐ側に近寄る。春香は慌てて笑顔を作りなんでもないよ。と言うがなんでもないわけがなかった。だって春香の瞳には大粒の涙が溜まっていたのだから…
 「心配かけちゃってごめんね。でも本当に大丈夫だからさ、りょうちゃんが側にいてくれれば本当に大丈夫だから」
 春香はそういいながら僕の体を引っ張り自分体と引っ付けて優しく僕を抱きしめた。柔らかい春香の肌の感触、春香の体の温かさがよく伝わってきたが、温かさの中に少しの冷たさがあるように僕は感じた。
 春香に何があったのかは僕にはわからない。だけど僕は春香を優しく抱きしめてそっと頭を撫でる。春香が少しでも落ち着けるように、優しく、丁寧に、春香の頭を撫でた後、春香の瞳から流れていた涙を指で優しく拭き取る。
 「大丈夫だよ。春香に何があったかはわからないけど、春香が困ってたら絶対に助けるから、春香が悩んでるなら相談に乗るし悲しいことがあったら側にいるから、春香には僕が付いてるから」
 僕の言葉を聞いた春香は僕を強く抱きしめてありがとう。と何度も言う。そんな春香を僕は優しく受け止めた。何があったのかは聞かなかった。今はただ春香をこうして抱きしめていてあげたいから…
 「りょうちゃん、ありがとう。もう大丈夫。迷惑かけてごめんね」
 しばらく僕に抱きついて離れなかった春香がそう言いながら僕から離れる。
 「お腹空いたしご飯にしよう。今日の夜ご飯もうできてるからさ」
 春香はそう言って笑顔で立ち上がる。僕はうん。と短く答えて春香に続いて台所に向かう。今日の夜ご飯は肉じゃがと冷しゃぶサラダ、味噌汁とご飯だった。春香が盛り付けてくれたものを僕はテーブルまで運ぶ。そして、運び終わってさっそくいただこうと思って座ったら、いつもは僕の正面に座る春香が僕の真横に座った。僕と春香の肩が当たってしまいそうなくらい近くに…春香がそうしたいのなら僕は止めなかった。いつも通りいただきます。と言って食事を始める。僕が美味しいと言うと春香は満足そうに微笑んだ。その後、僕と春香はあまり会話することなく夕食を終えた。夕食を終えて片付けをしている間もお互い会話をしようとしなかった。

 その後も特に会話はせずに僕はお風呂に入った。そして僕と交代で春香がお風呂に入る。はっきり言って何も話さないのは少し寂しかったが、春香が何も言わないのであれば今はそっとしておいてあげようと思っていた。
 そんなことを考えながらスマホをいじっているとまゆ先輩からLINEが届いていることに気がついた。今日はありがとう。すごく楽しかったよ。と言う内容のLINEと共に今日撮った写真を送ってくれていた。
 まゆ先輩のLINEを見て僕はしまった…と呟く。春香のことを気にして余裕がなかったとはいえ、まゆ先輩の方からLINEを送らせてしまったのは失礼ではないかと思った。本来は、僕の方から今日はありがとうございました。と言わなければならないのに…
 まゆ先輩に申し訳ない気持ちになりながら僕は、返信遅くなってすみません。こちらこそありがとうございました。今度必ずお礼します。とLINEを送り、海で撮ったまゆ先輩の写真を送っておいた。この写真を見ると今日のまゆ先輩とのやりとりを思い出して少しドキッとしてしまう。まゆ先輩はすぐにLINEに既読をつけて、全然大丈夫だよ。その写真お願いだから誰にも見せないでね…と返信してきた。まゆ先輩に分かりましたと返信し、今日のことを話していると春香がお風呂から出てきた。
 春香は黙って僕の横に座ってドライヤーで髪を乾かし始める。
 そしてそっと僕にもたれかかってきた。お風呂から出たばかりでちょっと赤くなっている春香の顔が間近に来て僕はかなりドキドキした。
 「LINEの相手、まゆちゃん?」
 「うん。そうだよ。今日はありがとうございました。ってLINEしてた」
 「そっか…まゆちゃんとどこに出かけてたの?」
 「買い物だよ」
 まゆ先輩と海に行ったことは黙っておくことにした。春香に誤解されたくなかったから…
 「そっか…楽しかった?」
 「うん。めっちゃ楽しかったよ」
 「りょうちゃんはさ…まゆちゃんのことどう思う?」
 「めちゃくちゃいい人だと思うよ。優しくて気が利いてかわいくて明るくてちょっと天然なところもすごくいいと思う」
 僕の答えを聞いた春香は少し儚い感じの雰囲気を漂わせた。一瞬だけ感じた儚い雰囲気はすぐに掻き消されて、そうでしょう。まゆちゃんは私の一番の友達だもん。と言いながら笑った。だが、その笑顔は儚く春香は瞳に少し涙が浮かんでいたのを僕は見逃さなかったなかった。




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