お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

海辺で愛する人と





 「海めっちゃ綺麗ですね」
 まゆ先輩の車で海沿いを走っている途中、海を見ながら僕は呟いた。
 「そうだね。まゆ、ここの海本当に大好きなんだよね。いつか好きな人と一緒に海沿い歩いたりしたいなぁってずっと思ってるんだ」
 「まゆ先輩は彼氏いないんですか?」
 「うん。いないよ」
 「え、めっちゃ意外です」
 まゆ先輩くらい可愛らしい女性なら彼氏がいてもおかしくないと思っていた。可愛らしいだけでなく、優しくてたまに見せるちょっとした仕草が可愛らしいところとかもめちゃくちゃいいと思うのだが…
 「うーん。たまに告白されたりはするけど、まゆはまゆが好きになった人と付き合いたいんだよね。告白されたりすると確かに嬉しいんだけど、まゆはまゆが心から愛せる人と付き合いたいんだ。まゆのこと好きになってくれた人たちには申し訳ないと思うけど妥協とか好きでもないのに付き合ったりはしたくないんだ。まゆ、結構わがままなんだよね」
 まゆ先輩はそう言いながら笑った。素敵だな、と思った。まゆ先輩に愛されてその愛を受け止めてまゆ先輩のことを愛せる人はきっと幸せになれるのだろうな。と思う。

 「ねえ、りょうちゃん、まだ時間あるなら海寄っていい?まゆ、ちょっとゆっくり海が見たい」
 少しだけドキッとした。まゆ先輩は笑顔で僕に言ったのだがその笑顔は可愛らしい笑顔ではなく少し儚く見えてしまったから…
 「はい。時間なら全然あるので大丈夫ですよ。僕も海をゆっくり見たいですし」
 「ありがとう」
 まゆ先輩はそう言い、しばらく走った先にあった駐車場に車を止める。
 まゆ先輩がシートベルトを外し車から降りるのに合わせて僕も車から降りた。
 時刻は夕方、少しずつ陽が落ちて空は少しずつオレンジ色に染まっていた。
 車から降りてまゆ先輩の方を見るとオレンジ色の眩しい光がまゆ先輩を輝かせて強く吹いた風がまゆ先輩の髪や服を揺さぶっていた。
 「綺麗…」
 僕は無意識のうちに思ったことを呟いてしまっていた。そうしてしまうほど、まゆ先輩は綺麗で魅力的だった。
 「綺麗って…急にどうしたの?」
 「いや、その…まゆ先輩見て綺麗だなぁって思ったので」
 笑顔で尋ねるまゆ先輩に僕は思ったことをそのまま伝えた。まゆ先輩は少し照れ臭そうにしながら、まゆのこと褒めても何も出ないよ。と言って笑ってくれた。
 「ちょっと浜辺歩こう」
 「はい」
 僕はまゆ先輩の後に続いて砂の上を歩く。2人分の足跡を砂浜に残しながら僕とまゆ先輩はしばらく砂の上を歩いた。
 「海、綺麗だね…」
 「そうですね」
 綺麗と言う単語を聞いて先程のまゆ先輩を思い出して少しドキッとする。気を紛らすために僕は海を見た。白く青いどこまでも続いているような錯覚をしてしまうほど広大な海の真ん中はオレンジ色に輝いていてとても美しかった。
 「ひゃっ…やっぱりまだちょっと冷たいなぁ…」
 僕が海を見ているうちにまゆ先輩は靴と靴下を脱いで海に軽く足を入れていた。まゆ先輩の今日の服装は割と長めなスカートだったので濡れないか心配だったがまゆ先輩は気にする様子なく海の上で無邪気に歩き回っていた。
 そんなまゆ先輩を見てかわいいなぁと思っているとまゆ先輩は僕にスマホを向けてきた。せっかくだから記念にと言いまゆ先輩は僕の写真をスマホのカメラに収める。なら、僕もと言いながら僕はスマホのカメラで海に足をつけていたまゆ先輩の写真を撮る。写真に写ったまゆ先輩はすごく楽しそうな笑顔でとても可愛らしく背景のオレンジ色に染まっている海ととても合っていた。
 「え、ちょっと恥ずかしいから消してよ」
 「えー、まゆ先輩だって僕の写真撮ったじゃないですか」
 「いいから消して」
 まゆ先輩はそう言いながら少ししゃがんで海の水を両手で集めて僕に飛んでいくように両手を振り上げた。
 「ちょっ、まゆ先輩、冷たいです」
 「消さないともっとかけるよ」
 まゆ先輩は楽しそうにもう一度僕に水をかけてくる。冷たい水が僕に当たるが不快な気持ちはなかった。
 「じゃあ、まゆ先輩も消してくださいよ」
 「えー、嫌だよ」
 まゆ先輩はそう言いながら海から出てくる。まゆ先輩は僕の横に置いてあった靴と靴下を持ち上げて近くに設置してあった足を洗う用の水道で足を洗い鞄から取り出した小さいタオルで足を拭いてから靴と靴下を履いた。
 「消してくれた?」
 靴と靴下を履き終わった後、まゆ先輩は僕に尋ねる。まゆ先輩が消してくださったら僕も消しますよ。と言うとじゃあ、今回はお互い消さずに残しておこうと言い僕の横に並んで立った。
 「最後にさ、記念に2人で撮っていい?」
 まゆ先輩が笑顔で僕に尋ねる。僕がいいですよ。と言うとまゆ先輩は肩を僕に引っ付けて2人が画面に収まるように手を伸ばして写真を撮った。撮った写真を僕と確認して、また後で送るね。と言ってくれた。
 「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
 「そうですね」
 僕はまゆ先輩と車に引き返す。先程2人で付けた足跡を逆に辿るようにして再び2人分の足跡を砂浜に残しながら歩いているとまゆ先輩が突然僕の手を握ってきた。
 「え、まゆ先輩!?」
 「あ、ごめんね。えっと…その…恋人同士だったらこういうことするのかなぁって考えてたらしちゃってた。ごめんね」
 まゆ先輩は慌てて僕から手を離した。そんなまゆ先輩を見ながら僕はドキドキしていた。
 「ねえ、車まで手繋いでくれない?」
 「僕で良ければいいですよ」
 僕はそう言いながらまゆ先輩に手を差し出す。するとまゆ先輩は僕の手を取り2人で手を繋ぎながら歩いた。まゆ先輩の手はとても温かくて小さく柔らかい手だった。
 「まゆ、いつかお互い愛しあってる恋人とこういうことするのが夢なんだ」
 ドキドキしながら歩いているとまゆ先輩が呟く。
 「早くその夢が叶うといいですね」
 「うん」
 まゆ先輩は笑顔で僕に答える。その笑顔を見て僕はさっきよりも更にドキドキした。
 そんなやり取りをしている間にまゆ先輩の車に到着したので僕とまゆ先輩は繋いでいた手を離して車に乗った。まゆ先輩と繋いでいた手にはしばらく温もりが残り続けた。



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