お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

入学式後




 え…
 吹奏楽部の演奏が始まり真っ先に出てきた感想がこれだった。吹奏楽部の演奏が下手くそというわけではない。だが、春香の音がほとんど聞こえないのだ。
 たしかに春香の音はそこまで大きくはないがあの綺麗なチューバの音色が聞こえないとは思っていなかった。
 春香のチューバの音はたしかに聞こえないがチューバの音はよく聞こえてくる。おそらくだが、春香以外のチューバが強すぎるのだろう。ちょっとガッカリしながら聞いているとマーチはtrioの部分へと突入する。静かな流れのテンポになった瞬間、春香の優しいチューバの音色がよく響くようになった。おそらくここはチューバは春香が一人で吹いているのだろう。
 春香のチューバの音色はとても綺麗だった。ずっと憧れていた音色を再び聞くことができた満足感とまだまだ春香には敵わないなという悔しさが同時に押しかけてきた。

 演奏が終わり吹奏楽部はステージ横から退出した。その後は学長などのお偉いさんたちのくだらない話をひたすら聞いていた。
 しばらくして入学式が終わり体育館を出ると体育館の前で春香が待ってくれていた。
 「りょうちゃん。入学式お疲れ様」
 「え、春香?もう部活は終わったの?」
 「うん。演奏終わって楽器片付けてそのまま解散だったからさ。ちょっと遅いけど帰ってお昼ごはん食べよ」
 「うん。」
 僕は春香に返事をして春香と一緒に歩き始める。
 「あれ、春香ちゃん、もしかしてその子がりょうちゃんって子?」
 声がした方を振り向くとかっこいい大人の女性と言ったような人が立っていた。
 「りっちゃん…うん。そうだよ。この子がりょうちゃん。明日から吹奏楽部でチューバ吹く後輩だから仲良くしてあげて。りょうちゃん、この子はりっちゃん、私と同じ2年生でバストロンボーン担当だよ」
 「よろしくね。それにしても春香ちゃんが男連れてくるなんてね…」
 「ちょっと、その言い方やめてよ。誤解されるじゃん」
 春香が顔を赤くしながら言う。あの、僕まだ、吹奏楽部入るとは言ってないんですけど…まあ、強制入部させられるのはわかってたから別にいいんだけどさ…
 「春香ちゃん赤くなってかわいいね。りょうちゃん、春香ちゃんは本当にいい子だから大切にしてあげてね」
 「ちょっと、りっちゃん、りょうちゃんは本当にそういうのじゃないから!」
 「はいはい。2人は今からデートですか?」
 「違うよ!普通に帰ってお昼ごはん食べます。」
 春香が本当に恥ずかしそうに答える。春香とりっちゃんさんのやり取りを僕は黙って見ていた。春香にちゃんと友達がいて少し安心した…
 「あ、今からお昼ごはん?もし、お邪魔じゃなかったら一緒に食べに行かない?」
 「私は別にいいけど、りょうちゃんは?」
 「僕は全然大丈夫だけど、僕がいてもいいの?」
 「うん。いいよ。春香ちゃんの話とか聞きたいし、むしろいてほしいな。じゃあ、行こうか。駅の近くに美味しいラーメン屋さんあるからそこでいいかな?」
 「うーん。スーツでラーメンか…まあ、いっか…うん。いいよ。りょうちゃんは?」
 「ここら辺のことまだわからないからお任せします」
 というわけで僕と春香、りっちゃんさんの3人でお昼ごはんを食べに行くことになった。




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