文学異世界

太津川緑郎

六話 救世主


「確かに酷似してはいるが」

その言葉とともに森さんと目が合う。長い髪は緑色に染められており、額の真ん中で分けられている。服装は真っ白な部屋にマッチした真っ白な外套、真っ白な洋袴、真っ白な靴。髪色以外は真っ白という異色な服装だった。

「それで? それ以外の要件があって来たのだろう?」

「はい、広岡くんのアビリティを調べに」

先程から横溝さんの眉間に皺がよっているのが気掛かりだが、何か考え事でもしているのだろう。それよりも解決せねばならないのは、この状況だ。

「ふ〜ん、それで結果はどうだったんだい?」

「これを」

電子端末を見せると森さんは目を見開いたり、数回目をこすったり、頬をつねったりしたと思うと、途端に笑顔になった。笑顔になったと思うと、急に駆け寄って自分の手を握った。

「君! 救世主じゃないか!」

その奥で横溝さんは不敵な笑みを浮かべているのを今は価値を感じないほどに、疲労と混乱でいっぱいだった。

「どういうことですか?」

「先程横溝が島は四つあると言ったのを覚えているかい? それは俺の島と交友関係を築けている島の事なんだ。それ以外にも多数島はあるが、我々アリスの民は他の民族の領地には入らないんだ」

要するに、ここヰタ・セクスアリス島は日本、アリスの民は日本国民のようなものみたいだ。その他にも領地があり、そこには入らないようだ。

「それと自分のアビリティとどういう関係があるのでしょうか?」

「今その島の一つの斜陽島の守護者、太宰治だざいおさむが少し悪さをしているようでな。まぁこの島には被害は出ていないんだが、それも時間の問題だろう」

島に被害がでるということは、島の住人にも危害が及ぶ恐れがある。守護者として、それを危惧してのことだろう。太宰、恐らく名は治であろう。斜陽が何よりの証拠だ。

しかし、横溝正史に、森鴎外、太宰治ときたら、次は江戸川乱歩か? 王道の夏目漱石などもいそうだ。恐らくこの世界は日本を元にして創られたのだろうか?現に役所や門衛もそうだ。

「それでだ!太宰の手に渡った、九つの武器のうちの一つを取り返したいんだ」

強引に取り返そうとすると、恐らく戦争になる。守護者も色々考えがあるみたいだ。だが島の長すらお手上げの事態をただの一般民に解決できるとは思わない。

「でもね? 君のアビリティがあれば万事解決なんだよ!」

少し理解するのに時間を要しそうな前振りに、奥の窓から見える景色はオレンジ色に輝いている。

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