文学異世界

太津川緑郎

弐話 外来は無知の領域


案内されたそこは古びた建物だった。白塗りの壁は所々壁のペンキが剥がれ、横側に至っては蔦で覆われていた。

その建物は二階建てで、そこに通ずる階段が扉をあけてすぐに見えている。階段を上がると手前に扉があり、何でも屋と書かれていた。


「ここは?」

「ここが僕が働く何でも屋だ」

扉わ開くと受付窓口のようなものがあり、横溝さんの顔パスで通ると、一室に招かれた。

そこまで室内に人はおらず、唯一受け付けの人だけが座っていた。

「見てわかるかい? 仕事の数に対して人が足りていないんだ、社員はみんな仕事に駆り出され、社長は直々仕事に行く様だ。わかるだろ?」

そう口早に話す彼の目はこちらの目を凝視し、挙げ句の果てには両手を掴まれている。だが、そんな中ある疑問が脳裏によぎった。

「あれ? なんか暇そうに日向ぼっこしてませんでした?」

「あっ、あれはだね」

見るからに動揺する様子を見て、怠けていたことに間違いないようだ。

「違うんだよ! 僕の担当は殺人事件なんだよ! だがこのご時世平和すぎる、だから僕の仕事がない!」

これほど平和を望まない人がいただろうか。だが納得だ、この世界の犯罪の定義がどの辺に設定されているかはわからないが、平和なのだろう。

「仕事ってどんなことしてるんですか?」

「ここいら一帯は奇怪が多いからね。あぁ、奇怪って一般的にはモンスターっていうんだってけ?まぁそれにしても、よく昼寝してて襲われなかったよ。君もそうだったようにね」

モンスター?あのファンタジーに出てくる空想上の生き物が多い? まさかあり得ない、アリゲーターとか、マムシとか、そういう系統の生物だろう。

「あの、ここは危険生物駆除の会社なんですか?」

「まぁ、危険生物かといえばそうだな。最近近くの火口で火龍が見つかったらしいし」

 龍? 羽が生えていて? 炎を吐いたりする空想上の生き物? そんな訳がないと思う自分と、まだ物事を理解できていない自分で激しく混乱していた。

「まぁ、無理は言わない。最初は弱い奇怪を倒すでも、物探しでも、なんでもいいんだ! 力を貸してはくれないか?」

ここで断っても、また振り出しに戻るだけだ。仕事をして現実世界への手掛かりを探ろう。

「是非やらせてください!」

少し食い気味に、離された彼の手を強く握り返した。不安そうだった瞳は見る見るうちに大きく見開き笑顔になった。

「ありがとう! 本当に、ありがとう!」

本当に困っていたのだろう、安堵の様子だった。

「それでだ、君のアビリティは何かな?」

急な外来語に反応すると、疑問が生じた。

「アビリティ?」

「知らないのかい?」

この世界のことを、自分はまだ多く理解していないみたいだ。


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