魔王と歩む世界

太津川緑郎

六話 馬車



「もっとこう! 腰を入れて!」

「こうか?」

今、居候のせめてものお返しとして、畑の土を耕している。
こんな生活も一度は体験すべきだ、現代大抵なものは作らずとも、スーパーやコンビニエンスストアで揃う。

「たまにはいいな!」

何が清々しい気持ちになる。

「ついに明日だな」

農作業を手伝っていたら、魔法軍試験の配属の儀が明日にまで迫っていた。

「自身はあるのか?」

「どうだろうな、でもならなきゃいけないしな」

バーチェの目は、何か強い信念を持っているかのような強い眼差しだった。
実際僕もそうだ、命がかかっている。

「でも、本当に助かったよ。バーチェに出会ってなかったら、僕今頃飢え死にしてたよ」

「何度も聞いたよ! お礼と言っては何だけど、これからもよろしくな!」

その曇りのない笑顔で手を差し出すバーチェの手を強く握った。

「おまっ! 土ついたじゃねーか!」

「すっ、すまん!」


その日は、穏やかな朝だった。
夜中に少し雨が降ったのか、少し霧が濃かったが、気温もそれほど高くなく、過ごしやすい日だった。

「一週間本当にありがとうございました」

深々とお辞儀をする。
本当に出会えてよかった。

「お兄ちゃん! また来てね?」

バーチェの妹、オーブに何故か気に入られてしまった。
オーブの頭に手を当てーー

「ありがとな? また絶対来るから」

魔法軍試験の配属儀は、王城バルクーネで執り行われるらしい。
その儀式には、軍隊長も来るらしい。

「じゃあ行ってきます!」

ミーア家(バーチェの苗字のようなもの)に別れを告げ、王都に向かう。
王都へは、巨大な馬ラージホースに乗り、片道三十分ほどらしい。

ラージホースは馬車の感覚で使われているらしい。
だが乗れる人の数が、現実世界の馬車とは比べ物にならない。
乗れる人数からすると馬車というより、バスという方がいいと思うが、馬が引いているから馬車なのだろう。

馬車の中には、これから恐らくバルクーネに行くのであろう人も、ちらほら見える。
だが、そのそれぞれが、緊張の面持ちで、何なら吐きそうな顔をしているものもいた。

「そんなに緊張するほどのことなのか?」

「当たり前だろ、この魔法軍試験は不定期開催なんだ。だからこれで魔法軍に合格できないと、次いつ試験を受けられるかわからないんだ。」

そんな話をしていると、王城バルクーネが見えてくる。
馬車が走れるのは王都の前まで、そこからは徒歩で行かないといけない。

「よし行くか!」

頬を少し叩き、気合いを入れてバルクーネに向かう。

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