傷ついた翼

志月聖

2

「あの…」 

少年が何か言いかけた時、列車の到着を告げるアナウンスが 構内に流れた。

 これを逃したら依頼人クライアントとの待ち合わせ時間に遅刻する。
 軽く会釈をし、一段抜かしに階段を駆け上がった。 

ふぅ・・ 
飛び乗った列車のなかで安堵の息を吐く。

 細い手首には不似合いながっちりとした腕時計を眺めた。
 真澄の兄が愛用していた品だ。

 …約束の時間にはなんとか間に合いそう。

 真澄が勤務する『宮沢探偵事務所』は今存続の危機に瀕していた。
 所長を務める宮沢省吾みやざわ しょうごはのんびり構えているが 、年中閑古鳥が鳴き叫んでいる状況に気が気でない。

 久々に大仕事となりそうな依頼が舞い込んできたというのに打ち合わせに遅刻して、相手の機嫌を損ねては元も子もなくなってしまう・・ 

列車が音もなく地下に入る。

 真澄は車窓に映る自分の姿に目を遣り、少し乱れた髪を手櫛で整えた。

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