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夢幻

第四章 4


その日の帰り道。
やっと目を覚ました千里と、木葉の三人でいつもの通学路まで歩いてきた。
「なんか…複雑だよな…。」
「茜さんの事…?」
「あぁ…俺はあいつをよく知らないからなんとも言えないけどさ。
あいつは何を背負ってんだろうな?」
「気を失ってた後の事は分からないけど…。茜さんは自分の存在理由は、試練を与える事だけだって言ってた。
そんなの悲しい。」
「茜はさ、何も知らないんだよ。」
突然そう話しに入ってきた木葉の表情は、真剣そのものだった。
「え?」
「私もあんまり詳しくは知らないんだけどさ。
茜、前世で自殺しているらしいの。」
「なっ…。」
「で、どう言う訳かあの場所でそのままの姿で産まれ変わったらしいよ。
勿論前世の事は全く覚えてない。」
「それであの時…。
私は本来ここに居てはいけない存在だから。
って言ってたんだ…。」
千里が呟く。
「多分そう言う事。」
「っておい…なんでお前がそんな事を…。」
「てへぺろ♪」
「こいつは…。
どうせ力で盗聴でもしたんだろ…。」
「むっ…人聞きが悪いな~。
そんな事しないよ~。
直接聞いたんだよ~。」
「ふーん。」
あの茜が自分の事をべらべらと進んで話さないだろうが、木葉のアウトオブエアーを持ってすれば渋々話すらしい。
「まぁ良いや。
人間自分がどうやって産まれたのかなんて知らないでしょ?
だってそれは本来自分を作った存在と、それを実際に見た存在にしか分からない事だし。その時の話を聞けば分かるけれど、自分の前世なんて誰が知ってる?
誰が教えてくれる?
茜は、何も知らずにあの場所に生まれてきた。
そこでどうやって産まれたか、何をすべきかを伝えられればそれを信じて生きるしかない。
自分が何者で、何故産まれたのかさえも知らないんだから。
人間はさ、信じなければ何かを知る事すら出来ないんだよ。
だから彼女は自分を作った存在を信じた。
その為なら何かを失っても仕方ない。」
「し、仕方ないって…。
それじゃぁその為に死んだ奴らも仕方ないって言うのかよ!?」
「茜も悲しいと思うよ?」
「っ…。」
「でも…茜にとって自分を作った存在を疑う事は自分自身を否定する事。
桐人や千里が自分の親を疑うのと同じ。
親は自分を産んだと言うけれど、本来そんな証拠がどこにあるの?
その瞬間をビデオに撮っていたとしても、それが本物かなんて分からない。
事実なんてさ、疑ったらキリが無いんだよ。だから信じるしか無い。
何も知らないから、自分を作ったと言う存在を信じるしか無い。
他の誰を疑ってもね。」
「そんなの、悲しい。」
俯きながら千里が呟く。
「桐人と千里が茜を悪く思うのは仕方ない事だと思う。
だって二人にとってはそれが正義なんでしょ?」
「あぁ…。」
「確かに茜は沢山の人を死に追いやった。
それが正しいとは言えないかもしれない。
でも茜にはそれしかないんだよ。
それがどんなに理不尽でも、自分を作った存在を信じる事は正義だから。
茜にとってこれは正義なんだよ。」
「そ…そんな訳…!」
「正義は一つじゃないよ。
十人十色な自己概念。」
「っ…。」
木葉は茜の何を知っているのか。
それは分からないけれど、茜の事を庇おうとしているのだけは分かった。
「おっと、私はこっちだから。
二人ともまた明日~。」
「お、おう。」
そう言って手を振る様は、いつもの無邪気で明るい木葉だった。
考えてみれば、毎日顔を合わせている木葉の事でも知らない事だって有るんだなと思う。
力を持っていた事もそう、性格だって適当で空気読めないマイペースな奴だと思ったのだが、実は真面目な時とそうじゃない時を切り分けられる奴なのだと今日初めて知った。
「ねぇ桐人君…。」
隣を歩く千里が、不意に口を開く。
「ん?」
「茜さんって、本当に悪い人なのかな…?」
「…。」
千里のその問いに、俺は口ごもってしまう。世間体で言うなら、茜がした事はけして許される事じゃないだろう。
俺もそれが木葉の言うように正義だなんて言えない。
でもはっきりとあいつは悪人なんだと言えない自分がいる。
「私、見ちゃったんだ。
神社の裏に墓があるの。
本当は茜さんこんな事したくないんじゃないのかなって思うと…分からなくて。」
そう、そうなのだ。
あいつは言った。
沢山の人間を死に追いやる事を、私だって好きでしている訳じゃ無いと。
刀を取りに行く背中に感じたように、あいつにだって普通の人間のような優しさや温かみがあるんじゃないかと。
だから涙を流して、自分の運命を嘆いていたんじゃないだろうか?
そう、俺は何だかんだあいつを信じてるのだ。
どれだけ突き放されても、冷たい言葉を投げかけられても、してきた事を許せなくても。
だから知りたいと思っているのだ。
茜が何を背負い、何を思ってここまで生きてきたのかを。
そして確かめたいのだ。
あいつがただの悪人じゃないんだって。
「なぁ、千里。」
「ん?」
「俺達はさ、茜の事を知らない。
だから、あいつが悪いかなんて本来決めちゃ駄目なんだよな。」
「うん。」
「だから俺はあいつの事がちゃんと知りたい。」
そうはっきりと告げると、千里は一瞬驚い様に目を見開く。
「そっか…。
うん、そうだね。
私もそう思う。」
そう言って千里は笑った。
俺達がこうして選んだ選択は世間体だとか、正義とかで言うなら正しくは無かったのかもしれない。
でもそれは俺達が信じたい、俺達が決めた俺達の正義であり、これからもそれを後悔しないと二人して心に誓った。
「それじゃぁ桐人君、また明日ね。」
「おう。」
家の前まで来て千里と別れる。
今日は本当に色んな事があった。
家のドアの前で、ため息。
正直、今でも実感が湧かない部分もある。
でもその全てが紛れもない事実なのだ。
それによって、これから自分がどうなっていくかは分からない。
告げられた運命がそのままかも、ちょっとずつでも変わっていってるのかも。
でも、俺は信じたい。
自分が選んだ選択も、正義も、俺自身の未来も。
間違っていなかったんだって、思える日が来るまで。
そしてドアを開く。
「ただいま。」
「あら、おかえり、遅かったわ…って何よそれ!?」
あー…やっぱそうなっちゃいます?
千里の力はどうやら対象の身体的な治癒力はあっても、切り裂かれた服まで新品同様に直してくれる程万能ではないらしい。
とは言え、服に付いていた血は無くなっているから、血は体の一部としてカウントされ、体内に戻った、と言う事なのだろう。
これがもしそのままなら、母さんがひっくり返っていたに違いない。 
「一体どうしたのよ…?
その服。」
「あー…いや。」
遊んでて擦り剥いた、は厳しいか。
そんな年頃でもないし、切れてる部分に傷一つ無いからすぐバレる。
「帰るのも遅かったし…何があったの?」
かと言って真実をそのまま告げた所で信じちゃくれないだろうし…。
「でもまぁ…良いわ。
あんたが無事なら。」
「え…?」
「ただ、辛い事があったらちゃんと言いいなさいよ…。」
「あ、あぁ。」
うわ、これ多分いじめとかだと思われたんだろうな…。
まぁ普通の反応か。
体育の時に、置いといた制服を誰かに切り裂かれた、みたいなのが何も知らない第三者からすれば一番自然な解釈だ。
「あのさ、母さん。
これはそう言うんじゃないんだ。
訳はちょっと言えないんだけど、心配される様な事は誓ってないし、何かあったら絶対言うから信じてくれ。」
勿論これは嘘だ。
実際には死にかけてる訳だから、心配をかける所の騒ぎじゃないのだが、当然言える訳が無い。
「そう…分かった。
じゃぁその事に関してはもう何も聞かない。
さっさと着替えて渡しなさい。
縫っとくから。」
「すまん…。」
「良いのよ。
その代わり約束はちゃんと守りなさいよ。」
「おう。」
こうして無事にまた家に帰り、母さんに会えて本当に良かったと思う。
死にかけると言う体験を経て、こうして帰る場所に帰れる事、迎えてくれる存在が居ると言う事がどんなに幸せか改めて分かった気がする。
「あ…そうだ。
なぁ母さん。
ちょっと相談があるんだけど。」
「あら、何?」
並んでリビングに入ってから俺は母さんに聞いてみた。
「相手の事を、知りたいって思ったらどうすれば良いと思う…?」
恐る恐る聞くと、一瞬で母さんの顔がにやけ顔に変わる。
「何々?恋愛相談?」
「いや…そんなんじゃねーよ…。」
「えー。
じゃあ知りたい、とは?」
「俺さ、そいつの事で許せない部分があるんだ。
感じ悪いし、無愛想だし、口が悪いし、ネガティブだし。」
とりあえず一番の事実は避けたが、間違いではないだろう。
「随分な言い様ね…。」
「でも、俺さ。
それなのに何故かそいつの事信じてんだ。
その裏に優しさとか温かさがあるんだって信じたいって思うんだ。」
「ふーん…。
桐人はその子の事、好きなんだ。」
うわ、超にやけ顔。
「いやいや…そんなんじゃねぇよ。
絶対無い、あり得ない、誓ってない。」
「何もそんなに否定しなくても…。
でもね、桐人。
好き、と言うのは必ずしも恋愛絡みの言葉と言う訳じゃないわよ?
例えば、千里ちゃんの事だって付き合って無くても好きでしょ?」
「あぁ…まぁ…。
そう言うのじゃないけど好きだな。」
「ちっ…。」
ちょww今この人息子に舌打ちしたよ?
「解釈の仕方は色々あっても、知りたいと思うのは好きだからだと思うわよ?
なら、するべき事は一つじゃない。」
「…え?」

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