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夢幻

第四章 3


 「桐人君!」
呼ばれて起き上がる体に痛みは無く、無傷。
「あれ…俺は…?」
正直死んだと思ったのだが、どうやら生きているらしい。
「お~キリキリも復活だね!」
「え、復活…?
じゃぁやっぱり俺死んでたのか!?」
「彼女に感謝する事ね…。
あなたの為に試練を乗り越え、死にかけだったあなたを救ったのだから。」
言いながら千里に目を向ける茜。
「千里が…!?
ごめん…。」
「ううん…。
良かっ…た。」
そう微笑み、千里は倒れた。
「千里!?」
慌ててそれを抱き止める。
「ちなみに…彼女の力は強大な力故に使用する為にそれなりのリスクを伴うわ。」
「り…リスクって…?」
「だってそうでしょう?
かすり傷程度ならともかく…瀕死状態で普通の医者なら絶望するレベルの大怪我を一瞬で消し去るような力を何のリスクも無しに使える訳が無いわ。」
「う…まぁ確かに…。
でもなら千里はどうなるんだよ!?」
「…心配しなくてもただ疲れて気を失っているだけよ…。
しばらくは眠っているでしょうね。」
「なんだ…。」
「さて…感動の再会はそこまでよ。
状況は何一つ変わってないわ。」
「そう…だな。」
とりあえず千里を神社まで運んで床で寝させる。
そしてもう一度刀に手を添えた。
が、鞘を抜けずに手を止める。
何考えてんだ…。
俺はこの刀のせいで死にかけたんだぞ?
そのせいで千里にまで危ない思いをさせて…。
なのにまたこの刀を掴んでどうする?
もしかしたらまた…。
「死ぬかもしれない…?」
「…あぁその通りだよ。
実際に死にかけてるんだからな。」
「あなたは大切な人を守る為になら、命を懸けても構わないと思っている。
でもそれであなたが命を落としたら、今度はそれを生き返らせようとする人間が現れた。
本来そんな事出来ないなんて分かりきってるのに。
なのに彼女は、あなたを救いたいと願った…。
あなたの命を、あなた以上に大切に思う人が居るのね。」
「…そうだな。
死んだって構わないなんて言ったら、悲しむ人が居るんだなって知った。」
「なら、戦いをやめる…?
その大切な人の為に生き延びれば良いわ…。」
「…いや、だからこそ今度はちゃんと生きて帰る為に戦う。」
「屁理屈ね…。
このまま戦い続けて、生還出来る可能性は限り無く低いのに。」
「可能性はゼロじゃない。
千里や木葉も戦ってくれたんだ。
俺が戦わない訳にはいかないだろう?」
再び刀を掴み、化け物に向かっていく。
すると今度は何も起こらず、そのままの勢いで、目の前の化け物を切り裂く。
「よし!もう何ともないぞ!」
「へぇ…。」
「お~!キリキリさっすが~!」
「へへへ…。」
自慢げに鼻をかく桐人を見て、茜は思った。
最初の時にはあった彼の迷いが無くなったから、妖刀夢幻は彼を受け入れたのだろう。
彼は私とは違う。
だから彼は生き延びて、私は一度死んだのか。
自分が死んだ理由も、自分が誰なのかですら分からないけれど、私と彼とでは全てが違う。
性格は勿論、住む世界でさえも。
何も分からない筈なのにそれだけは分かる。
まぁでも…だから何だと言うのだろう。
「ふぅ、面倒ね…。」
ぼやきながら茜は懐から札を取り出す。
「おいおい、それが武器なのか?」
俺のその問いかけには答えず、茜はその札を化け物に向けて投げる。
そしてそれが化け物の頭に刺さる。
「ギャン!」
「紫炎。」
言いながら茜がパチンと指を鳴らすと、札が一瞬で燃え上がり化け物を焼き払う。
「うっお~!すっげ~!
ね~ね~!?今のどうやってやったの!?
どんなタネ仕込んでるの!?」
手品師も真っ青な茜の攻撃に大興奮の木葉。「…ふざけている場合?
随分と余裕なのね…?」
「え…あ…いや~。」
「そんなに余裕なら後は任せたわ。
これだけの数を相手にするのは流石に面倒だもの…。」
「うえ~!?冗談だよ~…。
助けてよ~…茜っち~…。」
しがみついて悲願する木葉を鬱陶しそうに振り払いながら、
「分かったから真面目にやったら…?」
「う~分かったよ~…。」
ぶーぶー言いながら、木葉は近付いてくる化け物をひたすらにヴァイオリンで殴りまくる。
「お前…そんなヴァイオリンどこから出したんだよ?」
「ふふふ♪秘密~♪」
「彼女の力、音を操る力で出した物よ。」
代わりに茜が教えてくれる。
「あ~!何で言うかな~…。」
折角ミステリアスキャラでいこうとしてたのに~…。」
こいつのキャラにそのキャラはいくらなんでもミスマッチだろう。
あ、ミス違いか。
「ってちょっと待てよ。
その音を操る力ってのは物も出せるのか?」
「うん、音を出す物なら大体作れるよ~。」
「それって分身とかもか?」
「出来るよ~。
あれすっごい疲れるから滅多にやらないんだけどね~。
それがどうかした~?」
やっぱりか。
だから授業中に保健室に来れたって訳か。
ったく…やっぱり事情全部知っててすっとぼけてやがったのか。
「ちょwキリキリ、目が怖い目が怖い!」
この世界の木葉に恨みは無いが、恨めしく睨み付けるくらいしたってバチは当たらないだろう。
ちょっと木葉の防御力が下がるぐらいだ。
「それにしても、この化け物はなんで突然現れたんだろうな…?」
隣で札を投げている茜に問いかける。
「恐らく彼の仕業でしょうね…。」
「え、彼?」
「日向誠。
私が与えた力の中で、恐らく最強の力を持っていると言って良い人間よ。」
「最強って…どんな力なんだ?」
「彼の力は…全てを壊す力。」
「んなっ…そんな無茶苦茶な!」
「でも…事実よ。
そんな無茶苦茶な力を彼は望んだ。」
「おいおい…そんな力を与えたら…。」
「私に選択権なんて最初からないわ。
ただ求められた試練を与えるだけ。」
「そんな…でもそんな無茶苦茶な力の試練をそいつは乗り越えたってのかよ?」
「だから…そう言っているじゃない…。」
「嘘だろ…。」
「本当の事よ。
彼の脳内を包む怒りや憎しみはそんな無茶苦茶な力を掴む事に迷いなんてなかった。
全てを捨てた彼に、今あるのは破壊だけ。
いずれその力で、全てを破壊し尽くして世界を征服するつもりなのかもね…。」
「そ…そんな事させるかよ!」
「だったらどうするの…?
彼はどんな物でも壊す力を持っている…。
そんな相手に本気で勝てると思ってるの?」
「勝てるとか勝てないとかじゃないだろ!?
そんな事…させてたまるかよ!」
「そう…。」
「…まぁとりあえず、そいつが世界征服を企める程危ない奴だってのは分かった。
でもそいつとあの化け物の大量発生に何の関係があるんだよ?」
「キリキリは知らないんだ、彼の事。」
相変わらずヴァイオリンで化け物を殴りながら、木葉が横から口を挟む。
「どう言う意味だよ?」
「普段ニュースとか見ない?
まぁ私もあんまり見る方じゃないけど、数年くらい前に結構話題になったんだよ。
この近くの中学に天才が居たって。」
言われてみれば、確かにどこかで小耳に挟んだ気がする。
と言ってもそいつがニュースや口コミで話題になったのは、天才だからじゃない。
木葉が言う数年前、男子中学生が暴力事件を起こして姿を消した、と言うニュースだ。
彼が天才だってのはその後付けの情報で、関係者が皮肉交じりに語った物だ。
「で、それが日向誠だってのか?」
「うん…。
その時にも似たような化け物を連れてたらしいよ?」
「じゃぁやっぱり…?」
「そうね。
彼の目的は破壊、そして世界征服。」
「っ…そんな事絶対させるかよ!」
「お~キリキリ威勢が良いね~。」
「威勢だけで戦いは出来ないわ。
少なくとも今日初めて刀を握ったあなたには無理ね…。」
「ぐっ…まぁ確かに…。」
「こらぁ!お前ら!
こんな神社一つ落とすのに何時間かかってんだ!?」
突然の怒声。
「誰か…来たみたいね…。」
「あぁ…。
敵、みたいだな。」
太い眉毛に巨大なリーゼント。
白の上着にピンクのカッターシャツを合わせたスーツ姿は、だらしなく着崩されている。
左手には釘バット、右手には木刀を持ったその男は、どこからどう見てもヤクザである。
「ヤクザ…だな…。」
「そだねー…。」
突然のヤクザの登場に驚いて言葉を失う俺と木葉を尻目に、茜は恐れる事も無く俺達の前に出る。
「この神社を落としてどうするつもり…?」
「おう、誠は反対してたけどよ。
なんつーの?
能力者を量産する力を持った奴が居る場所ってのはさっさと潰しちまった方が好都合って思った訳よ。
なのに誠の奴そこに居る巫女には絶対に手を出すなって……って…誰だお前!?」
「気付くの遅っ!」
木葉と同時につっこむ。
「クソが…俺の計画を知ったからには生かしておけん!」
「いや…お前が勝手に言ったんだろ…。」
おっといかんいかん。
あまりのボケっぷりに、ヤクザ相手に思わずため口でツッコミを入れてしまった。
「やかましい!
名を名乗れ名を!」
「え~おじさんが先に名乗れば~?」
「ん?俺か?俺は日向雅彰。
マサって呼んでくれ!
…って俺に名乗らせてんじゃねぇ!!」
うわ、こいつめんどくせー…。
恐らく木葉も同じ事を思った様で、露骨に顔を顰めている。
「クソが…俺を騙しやがって。」
「だから…お前が勝手に名乗ったんだろうが。
人のせいにすんなよ。」
「ぐっ…言い返せん…。」
理不尽に言いがかりを続けるのかと思ったが、案外素直に正論に怯んでる辺り本当にヤクザかどうかは定かでは無い。
「あなたにこの場所は潰させないわ…。」
「ふん!なら止めてみな!」
言いながら武器を構えるヤクザもどき。
「どうやら…あれを倒せば化け物は収まりそうね。」
「みたいだな。」
「ね~おじさん。
その化け物どっかやってよー。」
「誰がおじさんかぁ!」
「え~あなただよ~。」
「やかましい!もう許さんぞ!」
そのまま、木葉に向かって飛びかかる。
「うわ、おじさん来た!」
それをヴァイオリンで迎え撃つ。
「あ~!?
おきにのヴァイオリンに傷が付いちゃったじゃん!
も~最悪~!」
「くそー!ナメやがっ!」
台詞の途中だなんてお構いなしに、飛んできた札がヤクザもどきの額に刺さる。
「油断大敵ね。
あなたの敵は一人じゃないのよ。」
「クソが…。」
今度は茜に狙いを定めるヤクザもどき。
「ていっ!」
それを、今度は後ろから木葉がヴァイオリンで思いっきり殴る。
「あうちっ!」
流石に相当なダメージだったらしく、ヤクザもどきはあっけなく倒れた。
「やれやれ。
気絶したみたいだな。」
「その様ね…。
化け物達も逃げていくわ。」
「お~助かったね~。」
「それにしても、本当に日向誠が関わってたんだな。」
「う~ん、でも何か今回の計画に関してはあのおじさんの独断だったみたいだね。」
「何故彼は反対したのかしら…?」
「え、う~ん…。
何故って言われても~…。」
困った顔をして答えを探していた様だが、やがて俺の方に目を向けて助けを求めてくる。
「…まぁ何か理由があるからってのは間違いないんじゃねぇか?」
「私には理解出来ないわ…。
だって一応あの男が言う事は理に適ってる。
世界征服が彼の目的なら、能力者を量産する恐れがある私の存在は邪魔な筈。
彼が大きく動き出せば、あなたの様に刃向かう為の力を求める人間が増えるかもしれない。
だからそうなる前に、邪魔な私を狙う筈。
私には彼がそれを何故反対するのか理由が分からない。
手を出すなだなんて言うのか分からない。」
「まぁ確かにな…。」
「彼の真の目的は?
私がこうしてここに居る理由は何…?
私には何も分からない。
私はただ、ここで試練を与える為だけの存在。
何故それだけで片付けさせてくれないの?
私にはそれ以上に何が在るというの?」
その時茜は涙を流していた。
それは強気で何者も寄せ付けないイメージだった彼女が、俺に見せた初めての弱さだった。
それを見た俺と木葉は何も言えず、ただ立ち尽くしていた。

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