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夢幻

第二章 2


 翌日。
いつもの様に千里が迎えに来て、玄関で出迎える。
「桐人君、おはよう。
あの後すごく顔色悪かったけど大丈夫だった…?」
「おう、もう気にしてねぇよ。」
「そっか、なら良かった。」
あの後も俺の顔色伺って励まそうと必死に言葉を探してくれていたっけ。
「ありがとな、千里。
心配かけたな。
もう大丈夫だ。
俺はあんなの絶対に信じない。」
「うん。」
ちなみに、昨日の木葉はと言うと、
「え~私だったら、嘘だ~(爆)って流すけどな~。」
うん、こいつ励ます気全く無いだろ。
何なら心配すらしてないレベル。
「でも、私も信じないよ。
私が言える事じゃないけど…。
桐人君は絶対そんな事するような人じゃないって信じてるもん。」
「あぁ、約束する。」
あの日、俺は千里に誓ったんだ。
今度は俺が千里を守るんだって。
もう二度と千里にあんな事させたくない。
俺の為にあんなに辛い思いをさせた事を忘れないし返そうと誓ったんだ。
「はぁ…!
やめやめ。
こんな辛気くさい話してたらどんどん気分が悪くなる。」
「そうだね、この話はこれでおしまい。」
千里のその言葉を句切りに、そこからは明るい話をした。
いつもの様に、何気ない話をしてまるで何も無かったかの様に歩き出す。
「よぉ…。」
と、そこで背後から唐突に魂の抜けた様な声が聞こえてくる。
思わず二人してバッと振り向くと、ズタボロになって今にも天に召されそうな蟹井が居た。
「蟹井!?どうした!?
一体誰がこんな酷い事を!?
…いやまさか…?」
「そう…そのまさかだ。」
おう…妹さんマジパネぇ。
「実は昨日さ、あいつの誕生日だったんだよ。
だからケーキを買って帰るようにって頼まれてた訳。」
最初に蟹井が出て来た時にも話したと思うが、こいつには妹が居る。
それもこいつ曰わく、かなりおっかない妹様が。
名前は確か蟹井愛美。
中学一年生で、確か学校はこの辺りだとか言ってたような。
「妹さんにケーキ買ってあげたんだ、蟹井君優しいね。」
「え…あ…うん…ま…まぁな。」
うわ、すっげー目が泳いでやがる。
多分優しさからじゃないのだろうが、それを指摘して否定するのは流石に酷だろう…。
訳ありでも優しさって事にして褒めてもらった所でバチも当たるまい。
「ティラミスを買って帰ったらさ、妹がショートケーキの方が良かったってぼやきだして。」
うわ、妹様めんどくさいなw
「まぁ、そこまでは良かったんだよ。
そこまでは…。」
と思ったらまだ続きがあるらしい。
「何とか機嫌直させてさ、さぁ食べようかってなった訳よ。
そしたらさ、父さんがティラミスのココアパウダーでくしゃみして…全部台無し。」
何その地獄絵図。
ただでさえ理不尽なのに、蟹井完璧にとばっちりじゃねぇかww
あまりにも不憫すぎて目から変な汁が溢れ出てきたぞ。
と言うかこれじゃぁ私を引っ張り上げてならぬ突き落としてじゃねぇか。
「結局怒りが静まったのは新しいケーキを買いに行った、もといその場から早々に逃げ出した親父がショートケーキを持って帰って来た時だ…。」
おいこら親父ww
「えっと…その…た…大変だったんだね。」
ほら、千里まで哀れみの視線を向けてんじゃねぇかww
と、そこで。
「あ、お兄ちゃぁぁん!」
俺達の歩く背後から、アニメ声のロリボイスが兄を呼びながら駆け寄ってくる。
瞬間、蟹井の肩が震える。
あ、これ噂をしたら何とやらってパターンだ。
振り向くとそこには名前に違わぬ美貌を振りまく、先程までの蟹井の話で受けた印象など一瞬で跳ね返す位の美少女が居た。
すらっと長い黒髪ストレートに、頭にはピンクのリボン。
きっちり校則を守っているであろう制服のスカートから覗く足は長く、それでいて変に大人びていないあどけなさすら感じる童顔。
え、これ本当にあの妹様?
嘘だよね?
嘘であってくれ。
「あ、お兄ちゃんのお友達ですかぁ?
いつも兄がお世話になってますぅ!」
俺達の姿を見るや、深々と頭を下げる妹様。
「「あ、ご丁寧にどうも。」」
俺も千里も、同時にお辞儀を返す。
「折角私が一生懸命作ったお弁当をぉ、お兄ちゃんったら忘れて行っちゃったんですぅ。
だから走ってぇ、追いかけてきたんですぅ。」
「へぇ、そうだったんだ。
優しいんだねー。」
そう返すと蟹井に目でおい、正気か?と訴えられた。
「はいぃ!だぁぃ好きなお兄ちゃんの為にぃ私超頑張ったんですよぉ?」
うぉ、蟹井がめっちゃ震えてる。
「さぁて、それではぁ私はこれで失礼しまぁす!
お兄ちゃん、頑張ってねぇ。
お弁当楽しみにしててねぇ。
あ、でもでもぉ、恥ずかしいから皆さんの前で食べちゃ駄目だからねぇ?」
コクンコクンと震えながらもの凄い勢いで首を縦に振る蟹井。
そうして妹様が去ったのを確認すると、
「あいつ、普段はお兄ちゃん、だなんて絶対に言わないんだぜ…。」
とだけ言って、抜け殻蟹井はふらふらと校門の向こうに消えていった。
俺と千里はそれを呆然と見送るのであった。
生きろ、そなたは格好いい。(棒読み)

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