転生バーテンは生き残る

海夏季コエル

27話

日が照っていても森の中は木々に覆われ弱い木漏れ日だけが頼りだ。日が傾く前までに森を抜けたらそこからは町までそんなに遠くないらしい。なだらかな丘の道を1時間ほど進むと石積みの壁に囲まれたユルトの町に着くらしい。

森の中を進みつつ、野草や薬草、美味しい木の実を教えてもらう。やはり日本とは植生や名前も違うようだ。頭の中で反芻しながら覚えていく。そこまで激しい起伏もなく、落ち葉の上を歩いていく。

1時間ほど歩いても、ガイツはもちろんルドルフやアリスも疲れる様子は全くない。さすがは冒険者。漫画やラノベ、アニメでも移動で疲れ切った冒険者など見たことがない。

打って変わって俺の方は、疲れてない様に見せてるだけだ。見せてるだけ。確かにまだ1時間。でも流石に多少は疲れてくる。一番の原因は手に持つ漆黒の、ガイツ達も見覚えのない重い物質でできた杖。試しにガイツが手に持って振りかぶろうとしたけれど、持ち上がるけれど大剣並み、それを持ち歩いているカイトは変なやつ呼ばわり。

硬くて重いそれだけで質量重くて密度の高い割れにくい物質だと分かる。これで作る武器なら大抵の物理攻撃は耐えることができ、そのまま振っても重いダメージを与えられそうじゃないか!そのためにも常に持ち歩き腕や体を鍛えたら、いずれは軽々振れると信じている。置いていくなんてもったいない。後の2本は流石に無理でもこれだけは手放すつもりはない。

大丈夫だと言い張り、皆の後を追う。

その時突然目の前に3匹のツノウサギが現れた。

久々の再会だ。あの時のツノウサギは逃げる様子もなく構えてすぐすごい速さで頭突きしてきたのを思い出す。そしてコイツの肉はなかなか美味い。個体差や鮮度はあるが内臓も洗って火を通せば食えるらしい。旬は冬。腸に脂が乗る時期との事。

美味いぞ?などと対面してもそんなことを言ってる。ずいぶん余裕がありそうだ。3匹のうち1匹がまずガイツに飛びかかる。それをパリンという音とともに素手で受け止めて首と胴体をキュッっと引っ張る。ウサギはもう動かない。ぽいっと絞めたウサギを後ろに放るとアリスがキャッチし後ろ足を縛る。残りもガイツに飛びかかりあっさり絞められアリスが足を縛ってく。

ルドルフがどうやら弱めの威力を殺すバリアを張っていたらしい。だからアリスが足を縛るのか。縛った先からアリスの持つ鞄に入っていく。どうやら鞄の大きさ以上のものが入るらしい。

「見たことないか?マジックバッグ。」

「初めて見た。俺も欲しい。」

「ずっと敬語だからこっちが慣れなかったがそっちの方が絡まれつらくていいぞ?冒険者も町の連中もピンキリだからな。」

「んー慣れるまではたまに出ると思う。気をつけるよ。」


ツノウサギ、ここではホーンラビットと言うらしい。頭の角は春に抜け落ち2〜3年ごとに生え変わる。角は印鑑などの細工に加工され売られるらしい。入手しやすく高値はつかないが子供が生まれた時にはその時期取れた角がお守りになるらしい。さっきのウサギはアリスの暮らす協会と併設する孤児院の夕飯になるらしい。

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