炎の騎士伝

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騎士と少女

帝歴403年7月19日
 
 現在俺は、姉さんが引き起こした騒動から逃げ、その後昼食を取る為に食堂に来ていた。俺の向かいには今日知り合ったばかりの女生徒、クレシアがいる。
 「また助けられたよ……。」
 「気にしなくていいよ……。前にも似たような事がよくあったからああいうことに慣れてるだけだから。」
 何があったらそうなるかは気になる発言だが、助けられたのには変わらない……。
 「そうか、でも助かったよ。身内でここまで被害が及ぶとは思ってもいなくて……。」
 「すごいね、あんな美人の姉がいるなんて……。」
 「ああ、そうだな……。」
 「もしかして、シラフは貴族階級の人なの?」
 「一応そうだよ。まあ騎士の家系の方が近いかな。」
 「騎士か……それじゃあシラフは誰かに仕えているの?」
 「まあな、かなりの身分の方に……。」
 言うまでも無い、俺は自分ルームメイトであるルーシャ専属の騎士なのだ。契約としては俺が10歳の時からだったはず……最初は彼女の遊び相手、そして現在は……彼女の世話係に近いが……。
 そんな俺の事情を知らない彼女は不思議そうな顔で俺を伺っている。
 「どうかしたのか?」
 「うん……。そんな人がどうして急にこの学院に編入したのかなって……。」
 「詳しい事情は知らないけどあらかたは分かってる。」
 「そうなんだ……。ねえ……仕えている人ってどんな人なの?」
 「そうだな……。」
 さすがに姫とは言える訳が無い。とりあえず彼女の印象を伝える。
 「基本はいい人だよ。でも度々俺を困らせて楽しんでいる。それに小さい頃はよくいじめられたな……。今はだいぶ落ち着いて別人みたいに感じるけど……。」
 「ふーん……。まさか……ね……。」
 「どうかしたのか?」
 「何でも無いよ、でもその人はシラフにとって大切な人なの?」
 「まあ、そうだな。俺が弱くて未熟だった頃にその人は俺の事を騎士だと言ってくれたんだよ。だから俺は強くなって立派な騎士としてその人に仕えたいと思ってる。まあ当の本人は覚えて無いと思うけどさ……。」
 「そうなんだ。強いねシラフは……私には出来そうに無いよ……。」
 「俺はそんなに強く無いよ、今もまだ弱いままだからさ……。」

 食事を終えると、俺の端末に通話が来る。クレシアから距離を取り電話の主と会話をする。
 「シラフ、今どこにいるの!」
 「今、同じ組の奴と昼食を取ったところだけど。」
 「それじゃあ今食堂にいるのね……。もう昼食取るなら呼んでよ、せっかく私が我慢して待っていたのに」
 「済まない、迷惑掛けた。」
 「もういいよ、昼食は勝手に取るから。そうだ、シファ様の、試合の件だけど……。」
 「分かってる、第六闘技場で午後三時だろ。」
 「そう、2時半には来てよね。あの子の事紹介したいし……。」
 「分かったよ。それで今その人は何処にいるんだよ?」
 「今探しているところなの、でも教室に行ったけどいなくてね……。」
 「そうか、大変だな。」
 「そうなの、とにかく時間忘れ無いでよね……。それじゃあまた。」
 そして通話が切れた。姫様の機嫌を損ねてしまった……まあ後でちゃんと謝ろう。そして俺は先程の席に戻った。
 「悪い、少し待たせた?」
 「気にしないで下さい。食器もついでに片付けておきましたので。」
 「悪いな、手前ばかり掛けて。」
 「気にしていません。私も無理して付き合わせてしまっているだけですから……。」
 俺は時計の時刻を確認する。現在の時刻は1時10分辺りを示していた。今日は午後の授業は無く、約束の時間にはまだ少し余裕があった。
 「誰からの電話でした?」
 「例の俺が仕えている人だよ。昼食を一緒に取るつもりが俺達が先に食べた事にご立腹で……。」
 「大丈夫なんですか、それ……?」
 「多分大丈夫……だと思うよ。それよりそっちの午後は予定ある?」
 「いえ、今月の単位は既に満たしているので特に何も。」
 「それじゃあ……」

 今日は少し特別な日になりそうだ、そう私は感じている。学年が上がった事で去年まで一緒の組だった友人と離れ少し寂しいと感じている日々を私は送って来た。今日、私の組に編入生が来た。茶髪の青年、それが第一印象の人。右腕にある赤みの腕輪が目を引くがそれ以外は普通の印象だった。
 彼は偶然にも私の隣になった、これは小説によくある出会い方だと少し期待を寄せたが彼の少し冷めた感じの挨拶に少し気分が落ちた……。そんな夢みたいな事は起こらない……それは私が一番よく知っている。
 現在私はその隣の彼と共に街を歩いている。何故こうなったのかはよくわからないが話の流れでそうなった。向こうの国では初対面の人とよく出掛けたりするのだろうか……今度あの人に聞いてみよう……。
 「クレシア、あれは何だ?」
 彼が見た先には学院でも有名な喫茶店だった。
 「あれは学院でも有名な喫茶店で、生徒や先生達も集まる店です。」
 「なるほど、喫茶店か……。」
 「はい、学院って言っても他の街にみたいに様々な店があるんです。年齢さえ満たせばお酒なども一定量であれば買うことが許可もされているんですよ。」
 「結構、緩い規制だな……。」
 「生徒が自主的に治安を維持している国でもあるので治安は他の国々よりも良い事が影響しているのが要因だと思います……。」
 「自然と監視の目が行き届いているからか……。」
 「はい、私はこの国が平和で良い所だと思っていますから。」
 「……平和で良い所か……。」
 そんな事を呟いた彼の様子に、少し悲しみを感じたのは何故だろう。今日会ったばかりの人に今こうして自然と会話を交わしている……少し冷たい人だと思っていたがこうして会話をしていると楽しいと心の何処かで思っている……。
 不思議な人だ……不意にその優しさを感じて……何処かそこに悲しみも感じる人……。でも一緒にいると不思議と落ち着いていられる…………。
 「クレシア、そろそろ待ち合わせが近いから急ごう」
 「そうだね、シラフ。」
 
 私は今日出会ったばかりの彼に惹かれているのだろう……。
 

 約束の時間より、五分程早く到着した。既に闘技場は人集りが出来ている。
 「こんなに人が集まるんだな……。」
 「はい、多分集まった理由は彼が出る事だと思います。」
 端末のお知らせには、
 本日、学位序列五位のラノワ・ブルームとサリアの女性剣士シファ・ラーニルとの試合を行います。日付と時刻は以下の通り、場所はオキデンス第六闘技場にて執り行います。
 という知らせが表示されていた。
 「なるほど、姉さんで集まった訳じゃないんだな……。」
 「ラノワさんは、オキデンスで最強と言われている人です。」
 「なるほど……確かに集まる要因になるか……。」
 「はい。あの……彼と戦うのは本当にあの人なんですか?」
 「そうだよ。」
 「大丈夫なんですか、その人?」
 「心配無いよ、そこらの英雄様より姉さんの方が強いから。」
 俺の言葉に少し唖然としている彼女だった。
 「にしても、あいつ何処にいるんだよ。連絡してみるか……。」
 俺は端末を手に取り、ルーシャに電話を掛ける。
 少しすると、彼女に繋がった。
 「もしもし。今どこにいますか?」
 「シラフ。今受付の近くにいるよ、シラフは?」
 「今、入り口近くで連れといるところだよ。」
 「連れって……もう友人が出来たんだ」
 「出来て悪いかよ……。昼間一緒にいた奴だよ。」
 「そうなんだ……。」
 「そっちは例の人は見つかったのか?」
 「まだ見つから無いんだ。あの子誰かにナンパでもされているのかも……結構かわいい子だから。」
 「そうか……。名前は?」
 「クレシア。クレシア・ノワールだよ。」
 「クレシア……?あの今ここにいるけど……。」
 「えっ……。どうしてシラフが知っているの?」
 「いや、言ったろ一緒に昼食を取った人だよ。」
 「そうだね……って……もしかしてその人が?」
 「ああ、少し待ってろ今本人を出すから……。」
 俺はクレシアの元に向かうと自分の端末を手渡す。
 「クレシア、ちょっと電話に出てもらえ無いか?」
 「うん……分かった。けど……どうして?」
 「出れば分かると思う。」
 彼女は恐る恐る電話に出た……。

 私は緊張しながらもその電話に出る。私の事を知っている人なのはシラフの対応から分かったが、とても緊張している。
 「もしもし……クレシアですけど……。」
 「クレシア?」
 その声は私のよく知る声だった。間違いない、私の親友であるルーシャだ。
 「うん……。その声、ルーシャ?」
 「うん……えっと今誰といるの?」
 ルーシャの質問に対し正直に答える。
 「今日編入して来た人だよ。シラフって人。」
 「っ……。どうしてクレシアがシラフと一緒に?」
 彼女の問いにどう答えればいいかわからない。今日は色々とあり過ぎてどれから伝えればわからない。
 「それは……なんというか成り行きで……。」
 とりあえず答える、何か引っ掛かるところがあるけど……。
 「昨日紹介したい人がいるって伝えたの覚えてる?」
 昨夜、電話で言われた事だろう。会わせたい人がいるって言っていた。
 「うん……覚えてる。」
 「それが彼よ……。」
 「…………本当に?」
 「間違いないはず……私の電話に出たのが証拠……」
 「…………。」
 「…………。」
 無言の会話が続いた。それが本当なら彼は……ルーシャの……。
 「ねえ、クレシア。」
 「何かな……。」
 「私の事、彼には言って無いよね……。」
 「うん……。何も言って無いけど……。」
 「彼は私の事何か言ってた?」
 「えっと……確かある人に仕えている騎士だって……。もしかしてそれがルーシャなの?」
 私は恐る恐る彼女に聞いた。そしてルーシャは、
 「うん……。彼は例の私の幼なじみで私の専属の騎士なんだ……。」
 「そう……なんだ……。」
 私は何を言えばいいのか分からなかった。私が惹かれたその人は親友が片思いをしているその人なのだから……。
 「私は受付の方にいるから連れて来てもらえるかな……。」
 それを言える訳もなく私は……
 「分かった。すぐに向かうね……。」
 そしてルーシャからの電話を切れた。
 私はどうすればいいのだろう……。

 電話を終えたクレシアは少し悲しげな様子だった。
 「どうかしたのか?」
 「なんでもないよ。シラフ、ルーシャが待っているから行こう。」
 「そうだな。」
 俺はクレシアの様子が少し気掛かりだったが、そこは何となく詮索しない方がいいと感じた。
 クレシアに案内され、ルーシャの元に辿り着く。清楚な印象を受ける彼女は少し複雑そうな表情をしている様子だ。まあ本来、会わせるはずが既に知り合っていたのだから無理も無いだろう。
 「全く、探したんだよ二人共。」
 ルーシャが少し不機嫌そうに俺達に話し掛ける。
 「ごめん。」
 「同じく済まない。」
 「全く、でも一応時間内に集まれたからいいかな。それじゃあ全員揃った事だし行こうよ。入場券は既に取ってあるからね。」
 俺達に入場券を見せると、ルーシャと共に俺達は闘技場へと足を踏み入れた。
 席は比較的自由なのか、ルーシャと共に最前列の席に座る。
 「ルーシャ、こんな近くだと危ないと思うよ。」
 「大丈夫、試合中は先生達が障壁を張ってくれるから問題ないよ。」
 「いや、でも相手は姉さんだから……。」
 「分かった……。せっかくの特等席だったのに……」
 ルーシャは少し不機嫌になるが俺は気にせずに後ろの席に座る。俺の横にクレシア、そしてルーシャと並んで座っている。既に観客席では飲み物などが売られている様子が見られていた。ラノワという人物がよほど有名なのかものの十分程で席は埋め尽くされる。
 そして現在時刻は三時まで残り五分切っていた。
 観客達が今か今かと試合を待ちわびる中、闘技場の中央に一人の女性が現れた。
 ドレスなのかと疑わしい程短いスカートを身につけたその女性は手に持ったマイクで観客達に向かい話し掛ける。
 「みんなー!!盛り上がってるかぁぁ!!」
 「「ーーーーーー!!!」」
 凄まじい歓声が巻き起こる。彼女の言葉に観客達の熱気が溢れ出る様は圧巻といえよう。隣にいる彼女達も、特にルーシャは盛大に盛り上がっていた。
 「それじゃあ、今回の主役に登場していただきましょう!!」
 「「ーーーーーー!!!」」
 再び歓声が巻き起こると、闘技場の頭上に巨大な四面の画面が表示される。昨日会った彼の映像が流れる、昨年の試合なのだろうか彼の戦いぶりが流れる様に観客達から盛大な歓声と共に名前が鼓舞されていた。
 「我がオキデンス最強!学位序列五位、ラノワ・ブルーム!!!」
 入場門から現れた、黒い甲冑を纏った男。歓声を上げる観客達に対し手を振って応える。最強と呼ばれるにふさわしいその存在を俺は改めて感じていた。
 「さて、それじゃあ挑戦者の紹介いくよーー!!」
 表示されていた画面が変わる、見覚えのある銀髪の女性の映像が4画面に流れる。白と青を基調とした軽装の鎧を身に纏い、彼女の映像が流れる。
 「…………。」
 派手な登場するんだよな……うん……。
 「学院に突如として現れた美し過ぎる剣姫!!シファ・ラーニル!!」
 「「ーーーーーー!!!」」
 盛大な歓声と共に、向かいの入場門から登場した。白と青の鎧とは言いがたい軽装のそれを身に纏い姉さんが現れた。
 「さあ盛り上がって参りました!!魔王と剣姫の戦いが今ここで始まろうとしています!!」
 司会の女性が告げると、彼女は飛び上がり実況席と思われる所に着く。女性が手を上げると、影で隠れていた先生達が詠唱を始め結界が構成されていく……。
 「それでは、始めましょう!!!試合開始!!」

 女性の一言で戦いの火蓋が切られた。両者が武器を構える、二人の戦いが開始されたのだ……。
 

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