隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~
114話 商談と不安
「それでこの塩を売りたいということじゃが……」
ラインが持ち込んできた塩の素晴らしさに感激したオッズは相手が少年にも関わらず前のめりになり積極的に会話を交わすようになった。商談の開始である。
「えぇ。その通りです」
「ならば一キロ辺り千ミラでどうじゃろうか」
「えぇ!?」
オッズがそう言うとラインの眉がピクリと動いた。それはオッズの前でラインが見せた初めての表情の変化であった。ちなみにネイは目を見開いて驚いていた。
それもそのはず。この世界では塩は貴重な物とされ、一キロ辺り約五百ミラ、高くても八百ミラで取引されている。それ以上の価格になることは余程の事が起きない限り無い。オッズ商店でもそれは同じで塩は六百ミラで売っている。
微妙に高いのはオッズ商店が岩塩をわざわざ削り、それを売っているからである。ちなみに岩塩を塊でも売っているがそれは四百ミラである。
しかしオッズはこの塩の素晴らしい味、そして白色の塩で珍しいということを考慮して破格の値段である千ミラと提示した。
だが、これは商談である。
当然相手はより多くの金を得ようと、自分に対してさらに金額を上げるように要求してくるだろう。
オッズが今まで数々の人間を相手に商売してきた経験から、それは自明の理であった。
なのでオッズはただでさえ破格の値段を提示したにも関わらず、更に金額を上乗せできるように余裕を持ってこの値段を提示したのだ。
(この塩はワシが今まで見てきたどの塩よりも美味い。ワシなら最低でも一キロ五千ミラでこれを売る。じゃが相手は例え神童と言っても子供。はてさてどこまで値段を押さえられるか、腕の見せ所じゃの)
既にオッズの目には獲物を前にしたタカのような鋭い光が宿っており、頭の中は相手がどれだけ値段を釣り上げてきても言いように、そしてその釣り上げてきた値段をどれだけ抑えられるかシュミレートしていた。
(全てが上手くいくという事は無い。上手く事が進んだとしてもせいぜい八割。大体一キロ辺り三千ミラと言ったところかの)
人間の金に対する欲望のしつこさは、商売の世界を海千山千渡り歩いてきたオッズには説明されるまでもなく身にしみている。むしろオッズならばそれを説明する側の人間だ。
そのためオッズは相手がどのような切り口で攻めてきてもいいように頭を巡らせ、この商談の着地点を探っていた。
しかし次の瞬間ラインの口から発せられた言葉は、オッズがこれまで積んできた商売経験を根底から覆すような物だった。
「高いですね。もう少し安く、そうですね……四百ミラで買ってくれませんか?」
「えぇ!?」
「な!?」
ラインのその言葉に驚くオッズとネイ。
高く買わせようとする輩はこれまで幾度も見てきた。オッズが提示した金額のままで取引した輩は商売に疎いか金に頓着しないような稀有な人間だった。
しかし、しかしである。
こちらの提示した金額を更に減らすように要求してきたのはこれまで誰もいなかった。
そのためオッズの頭の中でシュミレートしていた戦略は全て崩れ去り、後に残るは経験したことが無い物に対しての不安、ただそれだけであった。
それと同時に、美味い話しには裏があると警戒心を高めるオッズ。
(どういうことじゃ? 何故そこでワシが提示した金額よりさらに減らして売ろうとしてくる?)
そして純粋に湧き出てくる疑問。
これらがないまぜになった物がオッズの頭の中を支配する。
「……お主何を狙っておる?」
オッズは眼光をさらに鋭くしてそう問う。本来このような事を問うのは自分が相手の意図を読み取れていない、即ち相手の戦略にハマっていますとアピールするものだ。なので大半の人間は面子を守るためにもこのような問いかけは絶対にしない。
だがオッズは違う。プライドは一ミラにもならないことを理解している。なので例え自分と遥かに年が離れている少年に対してでも躊躇なくこのような質問ができた。
「特に狙いはありません。ただ強いて言うならばこの塩を毎日十キロ程持ってくるのでそれを買ってほしいな、という思いだけですね」
するとラインはオッズの質問に飄々とした態度でそう言った。
オッズの目から見たラインは明らかにウソをついている。だが何故ウソをついているのか、そして何が本当の狙いなのかオッズは掴みきれない。
なんとしてもその狙いを暴きたいと思うものの、オッズは今のラインの態度からそれは無理だろうと判断する。
なのでそれは一端諦め、ラインの言葉を吟味することにした。
(四百ミラ、か。あまりにも安すぎるが、それを売るときの値段はこちらが自由に決められるから得られる利益は大きいの。さらにこれから毎日十キロそれが手に入る、がそれでは少なすぎる……)
オッズはラインが持ってきた塩は例え千ミラで売ったとしてもすぐに売れると判断している。特に貴族や王族を相手に取引しているオッズ商店ならば一日十キロ手に入るとしても、すぐに完売してしまうだろう。
だがそういった需要と供給のバランスはオッズ商店が塩の売値をコントロールすれば良い。つまりそのバランスが崩れないようにするには売値を釣り上げるか売る相手を絞るしかない。
そういった様々なことを頭の中で考えた末にオッズはラインの提案を受けることにした。
「承知した。一キロ四百ミラでこれから毎日君達が持ってくるこの塩をこのオッズ商店が買い取るという君の提案を受け入れよう」
「そうですか。それは良かった」
オッズがそう決断しラインに言うと、ラインは幾分かホッとした顔をした。何故ここでホッとしたのかは気になるものの、まずは目の前の取引が成立したことを良しとした。
「ところでなんじゃが、君の本当の狙いは一体何なのじゃ? ワシには何故君が値段を下げて売ろうとするのか皆目見当がつかんのじゃが。あぁこの取引は既に成立しているから君の狙いが何であろうと変えるつもりはないから安心せい」
そして商談が終了したところでオッズはラインの本当の目的は一体何なのかを聞き出すことにした。
オッズのその言葉を聞いたラインは上げかけた腰をおろす。どうやらオッズの質問に答えてくれるようだ。
ラインが持ち込んできた塩の素晴らしさに感激したオッズは相手が少年にも関わらず前のめりになり積極的に会話を交わすようになった。商談の開始である。
「えぇ。その通りです」
「ならば一キロ辺り千ミラでどうじゃろうか」
「えぇ!?」
オッズがそう言うとラインの眉がピクリと動いた。それはオッズの前でラインが見せた初めての表情の変化であった。ちなみにネイは目を見開いて驚いていた。
それもそのはず。この世界では塩は貴重な物とされ、一キロ辺り約五百ミラ、高くても八百ミラで取引されている。それ以上の価格になることは余程の事が起きない限り無い。オッズ商店でもそれは同じで塩は六百ミラで売っている。
微妙に高いのはオッズ商店が岩塩をわざわざ削り、それを売っているからである。ちなみに岩塩を塊でも売っているがそれは四百ミラである。
しかしオッズはこの塩の素晴らしい味、そして白色の塩で珍しいということを考慮して破格の値段である千ミラと提示した。
だが、これは商談である。
当然相手はより多くの金を得ようと、自分に対してさらに金額を上げるように要求してくるだろう。
オッズが今まで数々の人間を相手に商売してきた経験から、それは自明の理であった。
なのでオッズはただでさえ破格の値段を提示したにも関わらず、更に金額を上乗せできるように余裕を持ってこの値段を提示したのだ。
(この塩はワシが今まで見てきたどの塩よりも美味い。ワシなら最低でも一キロ五千ミラでこれを売る。じゃが相手は例え神童と言っても子供。はてさてどこまで値段を押さえられるか、腕の見せ所じゃの)
既にオッズの目には獲物を前にしたタカのような鋭い光が宿っており、頭の中は相手がどれだけ値段を釣り上げてきても言いように、そしてその釣り上げてきた値段をどれだけ抑えられるかシュミレートしていた。
(全てが上手くいくという事は無い。上手く事が進んだとしてもせいぜい八割。大体一キロ辺り三千ミラと言ったところかの)
人間の金に対する欲望のしつこさは、商売の世界を海千山千渡り歩いてきたオッズには説明されるまでもなく身にしみている。むしろオッズならばそれを説明する側の人間だ。
そのためオッズは相手がどのような切り口で攻めてきてもいいように頭を巡らせ、この商談の着地点を探っていた。
しかし次の瞬間ラインの口から発せられた言葉は、オッズがこれまで積んできた商売経験を根底から覆すような物だった。
「高いですね。もう少し安く、そうですね……四百ミラで買ってくれませんか?」
「えぇ!?」
「な!?」
ラインのその言葉に驚くオッズとネイ。
高く買わせようとする輩はこれまで幾度も見てきた。オッズが提示した金額のままで取引した輩は商売に疎いか金に頓着しないような稀有な人間だった。
しかし、しかしである。
こちらの提示した金額を更に減らすように要求してきたのはこれまで誰もいなかった。
そのためオッズの頭の中でシュミレートしていた戦略は全て崩れ去り、後に残るは経験したことが無い物に対しての不安、ただそれだけであった。
それと同時に、美味い話しには裏があると警戒心を高めるオッズ。
(どういうことじゃ? 何故そこでワシが提示した金額よりさらに減らして売ろうとしてくる?)
そして純粋に湧き出てくる疑問。
これらがないまぜになった物がオッズの頭の中を支配する。
「……お主何を狙っておる?」
オッズは眼光をさらに鋭くしてそう問う。本来このような事を問うのは自分が相手の意図を読み取れていない、即ち相手の戦略にハマっていますとアピールするものだ。なので大半の人間は面子を守るためにもこのような問いかけは絶対にしない。
だがオッズは違う。プライドは一ミラにもならないことを理解している。なので例え自分と遥かに年が離れている少年に対してでも躊躇なくこのような質問ができた。
「特に狙いはありません。ただ強いて言うならばこの塩を毎日十キロ程持ってくるのでそれを買ってほしいな、という思いだけですね」
するとラインはオッズの質問に飄々とした態度でそう言った。
オッズの目から見たラインは明らかにウソをついている。だが何故ウソをついているのか、そして何が本当の狙いなのかオッズは掴みきれない。
なんとしてもその狙いを暴きたいと思うものの、オッズは今のラインの態度からそれは無理だろうと判断する。
なのでそれは一端諦め、ラインの言葉を吟味することにした。
(四百ミラ、か。あまりにも安すぎるが、それを売るときの値段はこちらが自由に決められるから得られる利益は大きいの。さらにこれから毎日十キロそれが手に入る、がそれでは少なすぎる……)
オッズはラインが持ってきた塩は例え千ミラで売ったとしてもすぐに売れると判断している。特に貴族や王族を相手に取引しているオッズ商店ならば一日十キロ手に入るとしても、すぐに完売してしまうだろう。
だがそういった需要と供給のバランスはオッズ商店が塩の売値をコントロールすれば良い。つまりそのバランスが崩れないようにするには売値を釣り上げるか売る相手を絞るしかない。
そういった様々なことを頭の中で考えた末にオッズはラインの提案を受けることにした。
「承知した。一キロ四百ミラでこれから毎日君達が持ってくるこの塩をこのオッズ商店が買い取るという君の提案を受け入れよう」
「そうですか。それは良かった」
オッズがそう決断しラインに言うと、ラインは幾分かホッとした顔をした。何故ここでホッとしたのかは気になるものの、まずは目の前の取引が成立したことを良しとした。
「ところでなんじゃが、君の本当の狙いは一体何なのじゃ? ワシには何故君が値段を下げて売ろうとするのか皆目見当がつかんのじゃが。あぁこの取引は既に成立しているから君の狙いが何であろうと変えるつもりはないから安心せい」
そして商談が終了したところでオッズはラインの本当の目的は一体何なのかを聞き出すことにした。
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