隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~

サァモン

103話 実力差と驚き

「少し待ってくれ」






 僕らが地下迷宮の入り口である階段に足を伸ばすと後ろにいたジョゼットがそう声をかけてきた。そちらに振り返ればそこには真剣な顔をしたジョゼットとフレンダが。






「ん? 何?」






 特に何か呼び止められるようなことは[ストレージ]が使えること以外に無い。その[ストレージ]も、使える人に教わればできるようになるはずだ。王族のジョゼットと大貴族の令嬢らしいフレンダならば[ストレージ]の使い手くらいは簡単に見つけることができるだろう。
 だから僕らにわざわざそれを教えるよう頼んでくることは無いはず。
 なので何故ジョゼット達が真剣な顔をして僕らを呼び止めたのかがわからない。
 するとジョゼットが口を開いた。






「お前達の実力を見せてほしい。朝にやったお遊びのような物ではなく、実戦での実力だ」






 朝にやったのは確かにお遊びだけど、一応魔力操作の訓練でもあるんだけどなぁ。なんてことを思いつつ、今日は特にガッツリと迷宮攻略をしようなどとは思っていなかったのでジョゼット達の要望通り実力を見せても良いかも知れないという考えが頭に浮かぶ。






「僕は別にいいけど……ネイはどうする?」






 僕とネイは特別な理由が無い限りは常に二人一組で迷宮内を探索しようと約束している。そのため二人には僕だけでなくネイにも許可を取って貰わねばならない。






「あたしもいいわよ」






 だがネイも朝二人と遊んで心の敷居が低くなったのか、特に緊張した素振りなど見せることなくそう言った。
 ならば問題は無い。流石に全てをさらけ出す訳にはいかないので、僕らの実力の一端だけ二人に見せようと思う。
 それに二人が僕らの実力を認めれば今後昨日のような胡散臭い目で見られることは無くなるだろう。
 そういえば二人とも今日は昨日のような胡散臭い目をしてこないな。朝の遊びでネイに負けてその実力差を思い知ったからかな? まぁいいか。






「ジョゼットは七階層まで行けるって言ってたよね? なら今日は七階層で狩りをしようか。フレンダもそれでいい?」






 ネイは当然七階層でも一人で狩りをできるだけの実力は持っている。そしてジョゼットも詳しい実力は知らないが入学試験の時は七階層でオークを狩っていたらしい。だから二人は七階層にいても大丈夫だと思うのだが、フレンダはどの階層まで行けるのか知らない。
 なのでフレンダにそう聞いたのだが、彼女は特に悩んだ様子も無く頷いた。






「私もジョゼット達と同じように七階層でオークを狩っていましたから大丈夫ですわ」






 なんとフレンダも入学試験の時、七階層で狩りを行っていたらしい。これは驚きだ。






「なら七階層で決まりだね。早速転移機能とやらを使わせてもらおうか」






 この地下迷宮には転移機能、一度到達した階層には自由に行き来できるという機能がある。まぁ超ハイテクなエレベーターとでも思ってもらえればそれでいい。
 その転移機能を利用するには第一階層に入って少し横にそれた場所に存在する大きな祭壇の中央に立てばいい。ちなみにその祭壇は転移の祭壇と呼ばれている。
 喋りながら第一階層に降りてきた僕らは早速その転移の祭壇へ行き、中央に立つ。






「じゃ、第七階層へ出発っと」






 そしてそこで行きたい階層を頭の中で思い浮かべる。別に声に出す必要などないが、そこは気分だ。
 一瞬の浮遊感を感じ、目の前が暗転した後、地面に再び立つ感覚が足の裏から登ってくる。この何とも言えない転移の瞬間の感覚は、一言で言えば……そうだな。テーブルクロス引きをされた食器の気持ち、だろうか。まぁそんなところだ。




 そうしてやってきました第七階層。
 僕らは今第七階層に存在する転移の祭壇に立っている。この転移の祭壇は各階層にそれぞれ一つづつあり、そこから第一階層の転移の祭壇に帰ることができるらしい。






「うーん。初めて転移の祭壇を使ったけど、特に感動とかは無いな」






 まぁそれもしょうがない。何せ目の前が草原だった場所から木々が生えた林に転移してきただけなのだから。目の前の風景は相変わらず緑のままなので転移したからといって特に感動を覚えたりはしなかった。






「オークは……いないみたいね」






「そうだね」






 ネイが早速魔力探知で周囲を調べてくれた。僕も遅ればせながら探知を開始する。しかしネイより広範囲を探知できる僕でも魔物の反応を見つけることはできなかった。どうやらこの祭壇の周りには魔物はいないみたいだ。






「あの、何故オークがいないとわかるのでしょうか? まだ探してもいませんわよ?」






「いや、魔力探知でこの辺り一帯はもう調べたよ。ここにはいないみたいだから適当な方向に進んでみようか」






 僕は何気なくそう言ってネイと一緒に祭壇から出たのだが、後ろを振り返ればジョゼットとフレンダがまるで石になったように固まっていた。






「どうした? 大丈夫?」






 僕が二人にそう声をかけると、二人はハッとした後ようやく動きだした。
 そして早足で僕らのところに来る二人。息ぴったりだな。この子ら。






「おい、お前達は魔力探知が使えるのか?」






「え、う、うん」






 そんなことを思っているとジョゼットが僕の肩をガシッと掴みそう聞いてきた。その余りの迫力に思わず足が後退してしまう。






「そう、なのか……」






 するとジョゼットはまるで腕から力が抜けたように僕の肩から手を離した。
 この様子からジョゼットは魔力探知ができないみたいだ。けどこれぐらいは練習したらいつかはできると思う。それに王子なんだから練習相手などいくらでも見つけることができるだろう。
 なので僕は彼の、いやフレンダも何やら落ち込んでいる様子だから彼ら、か。彼等のことは放っておく。
 これから行うのは二人に僕らの実力の一端を見せるだけなのだ。その後は適当に狩りをして
、実技の授業を出席しないかわりに稼がなければならない魔物ポイントを稼いで終わりだ。






「じゃあ、とりあえず真っ直ぐ行こうか」






 そう言って僕らは転移の祭壇の真正面を真っ直ぐにあるくことに決めた。チラリと後ろを振り返るとなんだか二人の雰囲気がドンヨリとしている。






「えーっと、そんなに落ち込まなくていいんじゃない?」






 まるでゾンビのように下をむいてフラフラと歩く彼らを見ると何だかいたたまれなくなり、そう声をかける。するとフレンダが低く唸るような声で話しだした。






「これが落ち込まずにいられましょうか。魔力探知なんて普通は十二歳、速くても十歳になってようやく使えるようになるものですわ。それなのに私達と同年代のあなた達は使いこなせているではありませんか……」






「フレンダの言う通りだ……」






 そう言うと、二人はさらにドンヨリとした雰囲気を体中から発散し始めた。なんだかめんどくさくなってきたなぁ……。
 そう思っていると前方に魔物の反応が。






「あ、オークみっけ」






「えぇ!? またラインに負けたんだけど!」






 オークを見つけたことをいつもと同じようにネイに報告すると、彼女はまた一人で悔しがりだした。






「いやぁそれほどでもないよ」






「褒めてないよ!」






 あれ? てっきり褒めてくれているのかと思っちゃった。あ、とりあえずオークが出て来たから狩っておこう。






「[魔光線]」






「え!?」






「な!?」






 僕が[魔光線]をそのオークの眉間に放つと、オークはあっさりと地面に倒れた。そしてそれを見たジョゼットとフレンダは、驚きの声をあげた。

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