隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~
100話 空と決定
別にブレソウル先生からは住宅は冊子の中から選べとは言われていない。だからこの場所であってもゴールドクラスの特権で借りることができるだろう。もしそれで借りることができなくても、その時は自分のお金で解決すればいい。それくらいの融通はゴールドクラスの特権範囲内でしょ。まぁ、範囲外なら諦めるだけだけど。
そう思ってここまで来たのだ。
めっちゃくちゃ遠いこの場所まで。
「……ライン、どうする?」
「……どうしようか」
まさにここは僕らが求めていた理想の場所なのだが、いかんせん学園までの距離が遠すぎる。毎日ここから学園まで通うとなるとしんどいの一言では済まなそうだよなぁ……。これならいっそ学園の近くにある普通の住宅を借りたほうが……いや、待て。
問題は距離だ。距離だけなのだ。つまり裏を返せばこの距離さえどうにかなれば、この理想的な土地と家を借りる決心がつくということだ。
ここまで来るのに走って二時間はかかる。この二時間をどうにか短縮することができれば……。
僕は上を見上げる。
……やっぱり時間短縮するなら道なんて無い空から通学したほうがいいか。いや、でも誰かに見られたりしたら……いやいや、透明マントをつければそこはどうにでもなるか。
ならば他に問題は……ないな。後は空を飛ぶことによってどれだけの時間を短縮することができるか、だけど……。とりあえず一回やってみるか?
「ネイ。一旦学園までの距離のことは考えないでこの場所だけを見たら、ネイはこの場所に住みたい?」
「……そうね。学園までの距離を考えないのなら、あたしはここに住みたいわ」
僕のそんな質問にネイは律義に答えてくれた。それは僕も同意見だ。距離さえ考えなければこの土地は理想的すぎる。
だから僕はネイに一つ提案をする事にした。
「ならこれからサミット学園まで空を飛んでいかない? 空を飛ぶことでどれだけ時間短縮ができるか調べようと思うんだ」
「空を……?」
「うん」
そう言って空を見上げるネイ。そしてこちらを向いた、がその顔には不安の色が出ていた。
彼女は僕のように[風撃]を使って空を飛ぶことはまだできない。練習すればできるようになるとは思うが、彼女は高所恐怖症なのか高い所が苦手みたいなのだ。
一度空を飛べるようになればその怖さも克服できるようになると思うのだが……まぁそれはこれからじっくりとやればいい。
今の問題は彼女をどうするか、だ。
ネイをここに残して僕だけサミット学園に飛んで行くのか、それとも僕が彼女を担いで行くのか。
「こう、ネイをおんぶしてさらにその上から透明マントを被れば誰にも見られないし、ネイも外の様子が見えないから安心だと思うんだけど……どうかな?」
透明マントはその名の通り外から見れば透明になって姿形が全く見えなくなる。だけどデメリットとしてマントの中から外の風景は見ることができない。
なのでそのデメリットを今回は活かして、ネイをおんぶした僕の体ごと透明マントでくるめばネイは外の様子を知ることは無いし、街の人も僕らに気づく可能性が低くなる。
そうネイに提案すると彼女は難しい顔をして少しの間悩んだ後、結論を出した。
「……分かったわ。一回それでやってみましょ」
彼女は覚悟を決めた顔でそう言った。
「じゃあ、行くよ?」
「……うん」
背中からくぐもったネイの声が返ってくる。それを聞いて僕は[ブースト]を使い、その場でジャンプをした。ネイが僕の服を力強くギュッと握ったのが分かる。
「[風撃]!」
そして範囲を広げた[風撃]を足下から上方向に放つ。すると僕らの体は勢い良く空へと舞い上がった。
今回はネイも背負っているのでいつもより強めに[風撃]を放ったせいか、僕が一人で空を飛ぶ時より遥か上空まで飛んだ。
「[魔障壁]」
いつもは[ブースト]を併用して空を飛んでいるおかげで空気抵抗なんて無視できる程の物だったのだが、ここまで飛んできた時、強めに[風撃]を使ったので空気抵抗が凄まじかった。そのため結界魔法の[魔障壁]を円錐形に僕らの周りに展開し、空気抵抗から僕らの身を守ることにする。
「[風撃]」
そして二度目の[風撃]。今度の[風撃]はサミット学園方向に僕らを飛ばすためのものだ。
[魔障壁]があるので、これまた僕が一人で空を飛ぶ時よりも倍以上の出力を出す。
「おぉ」
いつもより出力を高めた[風撃]を放ったせいで、流れゆく眼下の景色がめまぐるしく変わる。大小様々な学園の校舎に商店の屋根、そして道を往来する人々。それらは全て認識した直後には遥か後方へと流れていく。
その様子から今僕らは途轍もない速さで飛んでいることが分かる。前を向けばほら、もうサミット学園の校舎が見えてきた。
「[風撃]」
ここから少しずつスピードを緩めていき、そしてサミット学園のグラウンド、それも校舎の影になっている端に着地する。そこなら誰にも見つからないだろう。
「着いたよ、ネイ」
「え、もう?」
僕の服を手が震えるほど力強く握っているネイに向かって、優しくそう言う。
すると彼女は拍子抜けしたような声で返事を返してきた。
「うん。ほら」
その場でしゃがみ、ネイの足を地面につけさせる。すると僕の服を握っていた彼女の手から力が抜け、彼女は被っていた透明マントから顔をひょこっと出した。
「ホントだ……。あっと言う間だったわね」
そう言って周りをキョロキョロしながら、僕らの体を覆っていた透明マントを解くネイ。そして彼女の体が僕から完全に離れると僕もその場で立ち上がり伸びをする。
「んー! ……っはぁ。正確な時間は分からないけど体感で一分くらいかな。この方法なら毎日あそこの家からこの学園に通えるけど、どうする?」
伸びをして息を一つ吐き出し、僕は後ろにいるネイに振り返りそう訊く。
ネイが毎日空を飛ぶ恐怖と戦う、もしくは克服すればあの家からこの学園まで通うのは問題ない。だが克服するならまだしも、恐怖と戦い続けさせるのは彼女に多大なストレスをかけるし、精神衛生上良くない。
そのため彼女にあそこ家と土地を借りるかどうかは任せようと思う。
「そうね……。飛んでいる間は何も見えなかったから意外と怖く無かったからあそこの家を借りてもいいと思うんだけど……」
そう言いながらネイは眉根を寄せ、申し訳なさそうな顔をした。
「ラインは大丈夫? あたしも空を飛ぶ練習はこれから頑張る。頑張るけど……しばらくの間はラインの背中にのって登校することになると思うのよね……」
あぁ。何でネイはそんなに心配そうな顔をしているのかと思ったが、僕の心配をしてくれていたのか。そんなの全然気にしなくていいのにな。
「それくらい大丈夫だよ。なんならこれから毎日ネイを背中にのせて登校してもいいよ。それに、僕が体調を崩した時に備えて何か空を飛ぶ魔道具を作っておけばそれで解決するしね」
空を飛ぶことができるようになる魔道具なんて考えたことが無かったけど、色々と試行錯誤をすれば簡単にできるだろう。何せ魔法なんて便利な物がない前世の世界ですら飛行機という物を開発していたのだから。
だからネイの心配は問題ない。
「そう? それならいいんだけど」
僕がそう言うと、彼女はホッとした様子でそう言った。
「それなら、僕らがこれから住む家はあそこで決定ってことでいい?」
「うん!」
僕が確認するようにそう言うと彼女は元気にそう答えた。
そう思ってここまで来たのだ。
めっちゃくちゃ遠いこの場所まで。
「……ライン、どうする?」
「……どうしようか」
まさにここは僕らが求めていた理想の場所なのだが、いかんせん学園までの距離が遠すぎる。毎日ここから学園まで通うとなるとしんどいの一言では済まなそうだよなぁ……。これならいっそ学園の近くにある普通の住宅を借りたほうが……いや、待て。
問題は距離だ。距離だけなのだ。つまり裏を返せばこの距離さえどうにかなれば、この理想的な土地と家を借りる決心がつくということだ。
ここまで来るのに走って二時間はかかる。この二時間をどうにか短縮することができれば……。
僕は上を見上げる。
……やっぱり時間短縮するなら道なんて無い空から通学したほうがいいか。いや、でも誰かに見られたりしたら……いやいや、透明マントをつければそこはどうにでもなるか。
ならば他に問題は……ないな。後は空を飛ぶことによってどれだけの時間を短縮することができるか、だけど……。とりあえず一回やってみるか?
「ネイ。一旦学園までの距離のことは考えないでこの場所だけを見たら、ネイはこの場所に住みたい?」
「……そうね。学園までの距離を考えないのなら、あたしはここに住みたいわ」
僕のそんな質問にネイは律義に答えてくれた。それは僕も同意見だ。距離さえ考えなければこの土地は理想的すぎる。
だから僕はネイに一つ提案をする事にした。
「ならこれからサミット学園まで空を飛んでいかない? 空を飛ぶことでどれだけ時間短縮ができるか調べようと思うんだ」
「空を……?」
「うん」
そう言って空を見上げるネイ。そしてこちらを向いた、がその顔には不安の色が出ていた。
彼女は僕のように[風撃]を使って空を飛ぶことはまだできない。練習すればできるようになるとは思うが、彼女は高所恐怖症なのか高い所が苦手みたいなのだ。
一度空を飛べるようになればその怖さも克服できるようになると思うのだが……まぁそれはこれからじっくりとやればいい。
今の問題は彼女をどうするか、だ。
ネイをここに残して僕だけサミット学園に飛んで行くのか、それとも僕が彼女を担いで行くのか。
「こう、ネイをおんぶしてさらにその上から透明マントを被れば誰にも見られないし、ネイも外の様子が見えないから安心だと思うんだけど……どうかな?」
透明マントはその名の通り外から見れば透明になって姿形が全く見えなくなる。だけどデメリットとしてマントの中から外の風景は見ることができない。
なのでそのデメリットを今回は活かして、ネイをおんぶした僕の体ごと透明マントでくるめばネイは外の様子を知ることは無いし、街の人も僕らに気づく可能性が低くなる。
そうネイに提案すると彼女は難しい顔をして少しの間悩んだ後、結論を出した。
「……分かったわ。一回それでやってみましょ」
彼女は覚悟を決めた顔でそう言った。
「じゃあ、行くよ?」
「……うん」
背中からくぐもったネイの声が返ってくる。それを聞いて僕は[ブースト]を使い、その場でジャンプをした。ネイが僕の服を力強くギュッと握ったのが分かる。
「[風撃]!」
そして範囲を広げた[風撃]を足下から上方向に放つ。すると僕らの体は勢い良く空へと舞い上がった。
今回はネイも背負っているのでいつもより強めに[風撃]を放ったせいか、僕が一人で空を飛ぶ時より遥か上空まで飛んだ。
「[魔障壁]」
いつもは[ブースト]を併用して空を飛んでいるおかげで空気抵抗なんて無視できる程の物だったのだが、ここまで飛んできた時、強めに[風撃]を使ったので空気抵抗が凄まじかった。そのため結界魔法の[魔障壁]を円錐形に僕らの周りに展開し、空気抵抗から僕らの身を守ることにする。
「[風撃]」
そして二度目の[風撃]。今度の[風撃]はサミット学園方向に僕らを飛ばすためのものだ。
[魔障壁]があるので、これまた僕が一人で空を飛ぶ時よりも倍以上の出力を出す。
「おぉ」
いつもより出力を高めた[風撃]を放ったせいで、流れゆく眼下の景色がめまぐるしく変わる。大小様々な学園の校舎に商店の屋根、そして道を往来する人々。それらは全て認識した直後には遥か後方へと流れていく。
その様子から今僕らは途轍もない速さで飛んでいることが分かる。前を向けばほら、もうサミット学園の校舎が見えてきた。
「[風撃]」
ここから少しずつスピードを緩めていき、そしてサミット学園のグラウンド、それも校舎の影になっている端に着地する。そこなら誰にも見つからないだろう。
「着いたよ、ネイ」
「え、もう?」
僕の服を手が震えるほど力強く握っているネイに向かって、優しくそう言う。
すると彼女は拍子抜けしたような声で返事を返してきた。
「うん。ほら」
その場でしゃがみ、ネイの足を地面につけさせる。すると僕の服を握っていた彼女の手から力が抜け、彼女は被っていた透明マントから顔をひょこっと出した。
「ホントだ……。あっと言う間だったわね」
そう言って周りをキョロキョロしながら、僕らの体を覆っていた透明マントを解くネイ。そして彼女の体が僕から完全に離れると僕もその場で立ち上がり伸びをする。
「んー! ……っはぁ。正確な時間は分からないけど体感で一分くらいかな。この方法なら毎日あそこの家からこの学園に通えるけど、どうする?」
伸びをして息を一つ吐き出し、僕は後ろにいるネイに振り返りそう訊く。
ネイが毎日空を飛ぶ恐怖と戦う、もしくは克服すればあの家からこの学園まで通うのは問題ない。だが克服するならまだしも、恐怖と戦い続けさせるのは彼女に多大なストレスをかけるし、精神衛生上良くない。
そのため彼女にあそこ家と土地を借りるかどうかは任せようと思う。
「そうね……。飛んでいる間は何も見えなかったから意外と怖く無かったからあそこの家を借りてもいいと思うんだけど……」
そう言いながらネイは眉根を寄せ、申し訳なさそうな顔をした。
「ラインは大丈夫? あたしも空を飛ぶ練習はこれから頑張る。頑張るけど……しばらくの間はラインの背中にのって登校することになると思うのよね……」
あぁ。何でネイはそんなに心配そうな顔をしているのかと思ったが、僕の心配をしてくれていたのか。そんなの全然気にしなくていいのにな。
「それくらい大丈夫だよ。なんならこれから毎日ネイを背中にのせて登校してもいいよ。それに、僕が体調を崩した時に備えて何か空を飛ぶ魔道具を作っておけばそれで解決するしね」
空を飛ぶことができるようになる魔道具なんて考えたことが無かったけど、色々と試行錯誤をすれば簡単にできるだろう。何せ魔法なんて便利な物がない前世の世界ですら飛行機という物を開発していたのだから。
だからネイの心配は問題ない。
「そう? それならいいんだけど」
僕がそう言うと、彼女はホッとした様子でそう言った。
「それなら、僕らがこれから住む家はあそこで決定ってことでいい?」
「うん!」
僕が確認するようにそう言うと彼女は元気にそう答えた。
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