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隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~

サァモン

89話 階層ボスとボス部屋

「ネイ、いた!」






「あぁ!? また先越された!?」






 ふふん。いくらネイが天才だからといっても、魔力探知の探知範囲ではまだまだ僕の方が勝っているみたいだね。






「あれね! あたしも見つけた!」






 少し得意げにネイと横になって走っているとどうやら彼女も階層ボスの魔力を探知できたみたいだ。悔しそうにしながらも、その顔には笑顔が見れる。うむ。楽しそうでなによりだ。
 そして少しの間その階層ボスに向かって走っていると、階層ボスもまた僕らの気配に気づいたみたいだ。こちらに近寄って来ているのが魔力探知で分かる。






「ネイ、どうする? 僕がやろうか?」






「あたしにやらせて! ラインの[魔光線]をやってみたいの!」






「わかったよ」






 もはや僕の固有魔法やオリジナルアーツは僕だけのものでは無くなってきたが、ネイならば真似されても良いと既に割り切っている。だから僕は彼女がやりたいというのならやらせてあげることにし、ネイを先に行かせるような形をとって走る。
 すると前から木々の間を縫うようにして緑色の肌をした太った巨人が現れた。この八階層の階層ボスであるトロールだ。






「じゃあ、ネイ。頑張って」






 僕と後ろから無言で付いてきていた試験監督は足を止め、ネイの戦闘の様子を観察する。試験監督さんが何か言いたそうな顔をしてこちらを見ているが無視だ。
 試験監督さんは必要なこと以外は喋らないよう学園側から指示されている。だからこの人がこちらを向いて何かを伝えようとしていても、無視しておけば勝手に諦める。
 それに試験監督さんが言いたいのは、トロール相手にネイを一人で戦わす気か? ということだろう。
 その通りですが何か?
 まぁここまで来るまでに倒した魔物は、危険度最低の黒ランクやその一つ上の茶ランクの魔物ばかりだった。だから一人前冒険者が狩るような緑ランクのトロール相手ではネイ一人では相手をしきれないだろうと判断したのも仕方がない。
 でも子供だからと言ってネイの実力を舐めてはいけない。彼女は天才なのだ。






「[魔光線]!」






 収束され、指向性を持たされた一筋の光がトロールの額へと向かって行く。そしてそれはトロールの頭を貫き、脳を破壊した……かに思えた。






「オオオオオオオ!」






 しかしネイが放った[魔光線]はトロールの額を少し焼いた程度の威力しか出なかった。
 光を収束させるのも指向性を持たせるのもどちらも甘いな。それに魔法が飛ぶスピードが極めて遅い。
 今のはスポットライトを更に強力にしたもの、といった程度の威力でしかなかった。要は少し火傷を負わせた程度の威力しかなかったということだ。
 僕が[魔光線]を使った時のような物を焼き尽くし、貫通させるほどの威力は残念ながら出なかったみたいだ。






「う~……何でできないのよ!」






 いやいや、ネイさんや?
 初めてチャレンジしたにしては結構いい線行ってるよ?






「オオオオオオオ!!」






 あ、トロールが怒って走ってきてる。






「ネイ、手伝おうか?」






「も、もう一回やらせて!」






 まぁまだ距離はあるから大丈夫か。
 危なくなったら僕が守ればいいし、実戦の中で魔法の練習をした方が普通に練習するより伸びやすいだろう。
 僕はこのままネイの戦いを見学することに決めた。






「頑張れー」






 そんなエールを送りながら。




 するとネイは前からトロールが走ってきている状況にも関わらず、深呼吸をし始めた。恐らく集中力を高めているのだろう。
 たしかにまだトロールとは距離があるとはいえ、なんともまぁ肝が据わった女の子である。
 そして彼女は右手を前に出し、魔力をそこへ集め始めた。






「もっと細く、もっと早く、もっと……」






 端から見れば一人でブツブツと何かを唱えているように見える。あれは詠唱に近いものだな。声に出すことで魔法のイメージをより強固に固めているのだ。
 あまり詠唱はおすすめしないんだけど、まぁネイならすぐに無詠唱で放てるようになるか。
 お、もうじき放つな。






「……[魔光線]!」






 ネイが長々と詠唱して放った[魔光線]は、今度こそ走り寄ってきていたトロールの額を正確に射抜いた。
 ドウ……という音と共に地面に倒れるトロール。
 僕はパチパチと拍手をしながらネイに向けておめでとう、と言葉を送る。試験監督は声こそ出さなかったが相当驚いているようだ。






「うー……次は無詠唱で成功させてみせるわ!」






 しかし彼女はこの結果に納得がいかなかったようで、僕にビシィ! と指を指してそう言ってきた。まだまだ改善すべきところだらけだけど、まぁ頑張れ。






「じゃあ、次の階層に行こうか」






「そうね!」






 試験監督が[ストレージ]の中にトロールの死体を入れたのを確認したところで僕はそう提案する。するとネイはフンスと気合いを入れ、すぐさま返事をしてきた。そんなに[魔光線]の練習をしたいのだろうか。心なしかウズウズしているように見える。




 そうしてトロールを倒した僕らは九階層へと続く階段を目指して走る。
 するとネイが周囲を見渡すようにキョロキョロしだした。






「どうしたの? そんなに余所見してたら危ないよ」






 シンリョクの森程木々が鬱蒼としているわけではないが、ここは林の中だ。少しでも余所見をしていたら木にぶつかってしまう危険がある。






「あ、ごめん。あたし達以外に誰もいないから皆どうしたのかなって思って」






 そういわれてハタと気づいた。確かに他の受験生がいない。一度その場で立ち止まって周りを見るも、魔力探知にも視界にも僕ら以外の人間がいない。
 どういうことだ……? 
 ……いや、単純にそういうことか。






「あれだよ、ネイ。僕らは最短距離でここまで走ってきたから、きっと他の皆はまだ上の階層にいるんだよ」






「あ、なるほど。なら私達が一番先を走っているってことね! ならこのまま早く十階層に行って、他の子達が来るまでボスをたくさん狩りましょ!」






「そうだね」






 ネイの言う通りだ。
 僕達の作戦は一番ポイントが大きい十階層のボスを狩りまくるというものだから、誰かが来るまでにできるだけ多く狩っておかないと。
 そこから僕らは走るペースを二段階程上げて九階層へと続く階段を下り、その九階層も階層ボスがいなかったので走り抜けた。
 その際、試験監督がゼーハーゼーハーと苦しそうな息を上げていたので、僕達は幾分かスピードを落として走ったが、時間的には殆どロスは無かっただろう。




 そうしてやってきました十階層。
 九階層から続いている階段を下ると真っ直ぐな道があり、その突き当たりに茶色い門がある。






「これがボス部屋ね」






 その門を触りながらネイがそう零した。
 ネイが言った通り、この門を開けばその奥にボスであるサイクロプスが待ち構えている。魔力探知からもその反応がビンビンと感じられる。
 それはネイも同様なのか彼女はゴクリと唾を飲み込んだ。緊張しているみたいだ。そんなネイの頭をヨシヨシと撫で、僕が先に足を踏み出す。






「それじゃあ、サイクロプス狩りまくり大会といきますか!」






 笑顔で声を張ってそう言いながら、僕はボス部屋の門を両手で開けた。

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