隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~
87話 魔力量と最終日
「じゃあ次の人ー」
「はい」
僕らの班の他の受験生はこの試験を終え、とうとうネイの番がやってきた。ネイはこれまでの受験生と同様に、新しく用意された真っ黒なスライム紙の端を両手でしっかりと持つ。
今のネイの魔力量は、これまで僕が作った魔道具に常に魔力を注いでいたおかげで随分と増えている。その量は正確に調べたことはないが、スライム紙では赤よりのオレンジ色だった。つまり相当魔力を保有しているということになる。この試験もまた心配ないな。
「これってスライム紙がどれだけの長さを変色したかを測るんですよね?」
するとネイが試験を始める直前になってそんなことを試験監督に聞いた。そんな分かり切ったことは既に小ぶりのおじさんから聞いているはずだが……。なんで改めて確認をするんだ?
僕と同じ疑問を持ったのか不思議そうな顔をした試験監督は、ネイの質問に首を縦に振ることで返事とした。
受験生からの質問に答えてくれるあの試験監督は優しいな。僕だったら既に説明を聞いているものとして無視を決め込むのに。これは後でネイに注意しておこう。
試験監督の返事を確認したネイは一度深呼吸した後、魔力を細く糸のように出してスライム紙に縦線を引くように変色させはじめた。
えぇ……。そんなことするの……? たしかにこの試験は変色させた部分の縦の長さを測るというものだが、それは少しズル過ぎやしないだろうか? だって細く魔力を注いだ方が、スライム紙上に横に魔力が広がらないぶん必要な魔力量は少なくて済むのだから。
でもこの試験は変色させたスライム紙の縦の長さを測るというものだから反則ではない。ルールの穴を突いた見事な作戦だ……ということにしておこう。
「ふぅ」
そうして端から端まで一本の線を魔力で引いたネイは一つ息を吐いて額の汗を拭った。いくらネイがこの二ヶ月努力していたとしても所詮は二ヶ月。縦十メートル程もあるスライム紙に線を引くことはよほど集中力を必要としたのだろう。魔力欠乏症の症状は出ていないがとても疲れた顔をしている。
そして試験監督とこの学園の生徒達を見てみると案の定呆然としていた。まぁこれは今までにない事例だろうから、驚くのも仕方ないと思う。
でも僕の番がやってくるのに時間がかかるのは嫌なので、再び僕から試験監督に声をかける。
「あの、次僕の番なので用意お願いします」
疲れた様子のネイの頭をヨシヨシと撫でながら試験監督と生徒達に向かって声をかける。すると意識が現実に戻ってきたその人達は、すぐさま行動に移り僕の目の前にスライム紙の端っこを持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げながら礼を言ってそれを受け取る。そして試験監督の方に目を向け、彼女が頷くのを確認してから僕は全力でスライム紙に魔力を込めた。
「なっ!?」
その声の主は誰だか分からないが、ともかく僕が巨大なスライム紙全体を一瞬でオレンジ色に染め上げたのを見て驚いたことは間違いない。
あっさりとしたものだがすぐに僕の番は終わってしまった。
「これで今日の試験は全て終了ですよね? 帰ってもいいですか?」
「……あぁ、これで試験は全て終わりだ。出口まで案内しよう」
僕らの班の案内役である生徒に向けてそう声をかけると、彼はすぐさま行動に移ってくれた。僕らがこの学園の建物の大きさに慣れたことと同様に、同じような衝撃が三度も来ると人間は慣れてしまうのかもしれないな。
そんなことをつらつらと考えながら僕らは学園の出口へと向かい、試験二日目を終えた。
そして三日目。
今日で全ての入学試験が終わる。
とは言っても今日の試験内容は昨日と一昨日とは全く違うみたいだ。
「昨日と同じくらいの時間に来たのに随分人が多いわね」
ネイの言う通り今日は試験会場にたくさんの受験生と試験監督と思われる大人達が既に集まっていた。
「まぁ普段は入ることができない地下迷宮に、入学試験という形でも特別に入ることができるから皆楽しみなんだよ」
そう。今日の試験会場はサミット学園ではなく、地下迷宮の中で行われる。この入学試験の期間だけは学園区域が国からの特別な許可を得て地下迷宮を貸し切っているのだ。その証拠に他の学園もまた別の日にこの迷宮で試験を行う予定らしい。
「君達もサミット学園の受験生だね? これをどうぞ」
「あ、どうも」
するとサミット学園の生徒らしき人物がそう言って僕とネイに一枚ずつ紙を渡してきた。その生徒は他の受験生にも声をかけて僕らに渡してきた紙と同じものを配っている。
「試験の概要?」
見ればその紙には今日の試験の内容と簡単なルール、そして裏には魔物の名前と数字が並んでいる。
なになに? 
本日の試験は二人から五人のパーティーを組んで、地下迷宮に生息している魔物をどれだけ狩れるかを競うものです、か。
どうやら裏に載っている魔物と数字はその魔物のポイントを表しており、その魔物達を狩った合計ポイントで今日の試験の順位が決まるらしい。例えばゴブリンなら一ポイント、オークなら三ポイント、というように。
なるほど。要は時間内により多くのポイントを稼げばいいということか。
あ、でも注意書きで、パーティーで稼いだ全ポイントはパーティーメンバーの人数で割られてそれが一人一人のポイントとして順位が決まるとある。
てことはパーティーメンバーが多ければ多いほど楽にポイントを稼げるが、一人あたりのポイントが少なくなってしまう。逆にパーティーメンバーが少ないほど一人あたりのポイントは多くなるが、負担が大きくなる、と。
他にもパーティー一つにつき一人ずつ試験監督が付くことや殺人を犯したり魔物に殺されると失格、揉め事が起きた際には試験監督に従うこと、などなど幾つもの注意書きが書かれている。
その中に二つ、目についたことがあった。
まずはパーティーに付いてくれる試験監督は全員が収納魔法を使えるので荷物持ちも兼ねているということ。収納魔法を使える人は少ないと聞いたことがあるが、よくこんなにも収納魔法を使える人を集めたものだな。
そして次に目に付いたのは、この試験中に潜る事ができる階層は最高で十階層まで、というものだ。どうやらこれを破って十一階層に行ってしまうと失格扱いになるらしい。これは気をつけないといけないな。
さて、と。この試験が始まるまでの間に誰かとパーティーを組む必要があるわけだけど……。
「ネイ、僕ら二人でパーティーを組まない?」
昨日の実技試験の様子を見る限り、僕とネイについてこれる受験生はいない気がするので二人でパーティーを組んだ方が良いだろう。
「そうね。昨日の他の子達の実技試験の結果を見る限り、あたし達とパーティーを組んだらその子が足手まといになるからね」
そう思いネイに声をかけたら、ネイも同様の事を考えていたらしく、すぐにそう返事を返してきた。事実だけどなかなかきついことを言うなぁと思っていたら、こちらに寄ってきていた受験生がどこかへと行ってしまった。あの子は……あぁ、昨日実技試験で一緒の班になった子か。
なるほど、あの子からの誘いがかかる前にきついことことを言って断ったってことか。昨日の実技試験では目立つような功績を叩き出しまくったからなぁ。そりゃ僕らとパーティーを組みたいと思っても仕方がない。
ネイの方を見ると心なしか申し訳なさそうな顔をしている。
そんなネイの頭をヨシヨシと撫でていると小太りのおじさんの声が聞こえてきた。
「パーティーが決まった者から順にパーティー毎に並びなさい!」
「はい」
僕らの班の他の受験生はこの試験を終え、とうとうネイの番がやってきた。ネイはこれまでの受験生と同様に、新しく用意された真っ黒なスライム紙の端を両手でしっかりと持つ。
今のネイの魔力量は、これまで僕が作った魔道具に常に魔力を注いでいたおかげで随分と増えている。その量は正確に調べたことはないが、スライム紙では赤よりのオレンジ色だった。つまり相当魔力を保有しているということになる。この試験もまた心配ないな。
「これってスライム紙がどれだけの長さを変色したかを測るんですよね?」
するとネイが試験を始める直前になってそんなことを試験監督に聞いた。そんな分かり切ったことは既に小ぶりのおじさんから聞いているはずだが……。なんで改めて確認をするんだ?
僕と同じ疑問を持ったのか不思議そうな顔をした試験監督は、ネイの質問に首を縦に振ることで返事とした。
受験生からの質問に答えてくれるあの試験監督は優しいな。僕だったら既に説明を聞いているものとして無視を決め込むのに。これは後でネイに注意しておこう。
試験監督の返事を確認したネイは一度深呼吸した後、魔力を細く糸のように出してスライム紙に縦線を引くように変色させはじめた。
えぇ……。そんなことするの……? たしかにこの試験は変色させた部分の縦の長さを測るというものだが、それは少しズル過ぎやしないだろうか? だって細く魔力を注いだ方が、スライム紙上に横に魔力が広がらないぶん必要な魔力量は少なくて済むのだから。
でもこの試験は変色させたスライム紙の縦の長さを測るというものだから反則ではない。ルールの穴を突いた見事な作戦だ……ということにしておこう。
「ふぅ」
そうして端から端まで一本の線を魔力で引いたネイは一つ息を吐いて額の汗を拭った。いくらネイがこの二ヶ月努力していたとしても所詮は二ヶ月。縦十メートル程もあるスライム紙に線を引くことはよほど集中力を必要としたのだろう。魔力欠乏症の症状は出ていないがとても疲れた顔をしている。
そして試験監督とこの学園の生徒達を見てみると案の定呆然としていた。まぁこれは今までにない事例だろうから、驚くのも仕方ないと思う。
でも僕の番がやってくるのに時間がかかるのは嫌なので、再び僕から試験監督に声をかける。
「あの、次僕の番なので用意お願いします」
疲れた様子のネイの頭をヨシヨシと撫でながら試験監督と生徒達に向かって声をかける。すると意識が現実に戻ってきたその人達は、すぐさま行動に移り僕の目の前にスライム紙の端っこを持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げながら礼を言ってそれを受け取る。そして試験監督の方に目を向け、彼女が頷くのを確認してから僕は全力でスライム紙に魔力を込めた。
「なっ!?」
その声の主は誰だか分からないが、ともかく僕が巨大なスライム紙全体を一瞬でオレンジ色に染め上げたのを見て驚いたことは間違いない。
あっさりとしたものだがすぐに僕の番は終わってしまった。
「これで今日の試験は全て終了ですよね? 帰ってもいいですか?」
「……あぁ、これで試験は全て終わりだ。出口まで案内しよう」
僕らの班の案内役である生徒に向けてそう声をかけると、彼はすぐさま行動に移ってくれた。僕らがこの学園の建物の大きさに慣れたことと同様に、同じような衝撃が三度も来ると人間は慣れてしまうのかもしれないな。
そんなことをつらつらと考えながら僕らは学園の出口へと向かい、試験二日目を終えた。
そして三日目。
今日で全ての入学試験が終わる。
とは言っても今日の試験内容は昨日と一昨日とは全く違うみたいだ。
「昨日と同じくらいの時間に来たのに随分人が多いわね」
ネイの言う通り今日は試験会場にたくさんの受験生と試験監督と思われる大人達が既に集まっていた。
「まぁ普段は入ることができない地下迷宮に、入学試験という形でも特別に入ることができるから皆楽しみなんだよ」
そう。今日の試験会場はサミット学園ではなく、地下迷宮の中で行われる。この入学試験の期間だけは学園区域が国からの特別な許可を得て地下迷宮を貸し切っているのだ。その証拠に他の学園もまた別の日にこの迷宮で試験を行う予定らしい。
「君達もサミット学園の受験生だね? これをどうぞ」
「あ、どうも」
するとサミット学園の生徒らしき人物がそう言って僕とネイに一枚ずつ紙を渡してきた。その生徒は他の受験生にも声をかけて僕らに渡してきた紙と同じものを配っている。
「試験の概要?」
見ればその紙には今日の試験の内容と簡単なルール、そして裏には魔物の名前と数字が並んでいる。
なになに? 
本日の試験は二人から五人のパーティーを組んで、地下迷宮に生息している魔物をどれだけ狩れるかを競うものです、か。
どうやら裏に載っている魔物と数字はその魔物のポイントを表しており、その魔物達を狩った合計ポイントで今日の試験の順位が決まるらしい。例えばゴブリンなら一ポイント、オークなら三ポイント、というように。
なるほど。要は時間内により多くのポイントを稼げばいいということか。
あ、でも注意書きで、パーティーで稼いだ全ポイントはパーティーメンバーの人数で割られてそれが一人一人のポイントとして順位が決まるとある。
てことはパーティーメンバーが多ければ多いほど楽にポイントを稼げるが、一人あたりのポイントが少なくなってしまう。逆にパーティーメンバーが少ないほど一人あたりのポイントは多くなるが、負担が大きくなる、と。
他にもパーティー一つにつき一人ずつ試験監督が付くことや殺人を犯したり魔物に殺されると失格、揉め事が起きた際には試験監督に従うこと、などなど幾つもの注意書きが書かれている。
その中に二つ、目についたことがあった。
まずはパーティーに付いてくれる試験監督は全員が収納魔法を使えるので荷物持ちも兼ねているということ。収納魔法を使える人は少ないと聞いたことがあるが、よくこんなにも収納魔法を使える人を集めたものだな。
そして次に目に付いたのは、この試験中に潜る事ができる階層は最高で十階層まで、というものだ。どうやらこれを破って十一階層に行ってしまうと失格扱いになるらしい。これは気をつけないといけないな。
さて、と。この試験が始まるまでの間に誰かとパーティーを組む必要があるわけだけど……。
「ネイ、僕ら二人でパーティーを組まない?」
昨日の実技試験の様子を見る限り、僕とネイについてこれる受験生はいない気がするので二人でパーティーを組んだ方が良いだろう。
「そうね。昨日の他の子達の実技試験の結果を見る限り、あたし達とパーティーを組んだらその子が足手まといになるからね」
そう思いネイに声をかけたら、ネイも同様の事を考えていたらしく、すぐにそう返事を返してきた。事実だけどなかなかきついことを言うなぁと思っていたら、こちらに寄ってきていた受験生がどこかへと行ってしまった。あの子は……あぁ、昨日実技試験で一緒の班になった子か。
なるほど、あの子からの誘いがかかる前にきついことことを言って断ったってことか。昨日の実技試験では目立つような功績を叩き出しまくったからなぁ。そりゃ僕らとパーティーを組みたいと思っても仕方がない。
ネイの方を見ると心なしか申し訳なさそうな顔をしている。
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