隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~

サァモン

85話 実技試験と新たなオリジナルアーツ

 二十人ずつに別れて受験番号順に並ばされた僕らは、誰一人喋ることなく小太りのおじさんの話に耳を傾けていた。






「以上で今日の実技試験の説明を終了する。では各自割り当てられた当校の生徒について行きなさい」






 基本一グループ二十人に分けられた受験生だったが、僕らの班は最後の受験番号の班なので班員は二十人ではなく僕らを入れて六人だった。これだけの人数だったら今日の実技試験もすぐに終わりそうだな。
 そんなことを考えながら僕らは割り当てられた生徒の後ろをついていく。




 最初の実技試験は実戦を意識した試験だ。
 先導してくれた生徒が立ち止まったそこには、この学園の実技担当の職員と思われる人が木剣を持って立っており、その近くに試験監督の人が机に座っている。
 ……これだけの広さがあるグラウンドにわざわざ机を持ってくるなんて相当大変だっただろうな。






「説明は聞いているな? そこにある木剣を持って、受験番号順にかかってこい」






 そんなことを考えていると、木剣を持った人が顎で試験監督の人が座っている机の横にある箱を指し示した。






「はい」






 すると僕らの班で一番受験番号が若い受験生が返事をした。そして彼は箱にいくつか入っている木剣から一つを手にとり、実技担当の職員の人の正面に立つ。それをジッと見つめる試験監督の人と僕らの班の受験生達。試験監督の様子からどうやらもうすでに試験は始まっているということらしい。






「ネイ、今のうちに一番手になじむ木剣を探しておこう」






 ネイを含めて鍔迫り合いをしている試験の様子を眺めている受験生たちを横目に、僕はネイにこっそりとそう耳打ちする。
 箱に入っている木剣は全て同じでは無い。傷は当然ついているし柄に巻かれている布も擦り切れている物がある。となれば重量も当然違ってくる。
 ネイがその意図に気づいたかどうかは分からないが、彼女は一つ頷いた。そして僕らは今目の前で行われている試験を見ている受験生達の目に入らないようにコソコソと移動する。
 なぜコソコソと移動したのかと言えば理由は単純だ。これだけで試験の結果が変わるかもしれないし、もしかするとこの行動自体が評価されるかもしれない。そのため僕らは他の受験生にバレないように移動したのだ。






「次」






 カランという音と共にそんな声が聞こえてきた。そちらを見れば試験を受けていた子が木剣を地面に落としており、職員さんは木剣を肩に担いでいた。






「はい」






 お、次の子が木剣を持って行った。あ、それは布が千切れていて握りにくいやつなんだけど……まぁ、いいか。これは入学試験だし、あえて教えるなんてことはしないほうが良いだろう。あ、ただしネイは別で。












「次」




 そうして僕らが手になじむ木剣をそれぞれ見つけた終わった時、職員さんから声がかかった。次はネイの番だ。






「頑張って!」






 小声でネイに向かってエールを送る。すると彼女は一つコクリと頷き、職員さんの正面に立った。
 この試験のルールは単純だ。ただ単に職員さんと木剣を持って戦うだけでいい。ただし放出系の魔法は全て禁止だ。そのかわり内包系の魔法としてアーツが使える。






「[ブースト]!」






 ネイが[ブースト]を使って身体能力を上げる。彼女はこの一ヶ月で僕から様々な魔法やアーツを吸収していった。そのおかげでいくつか僕のオリジナルアーツや固有魔法を使えるようになっている。






「[神足]!」






「ぐはぁ!?」






 その内の一つが[神足]だ。非常に悔しいが彼女は[ゾーン]を使わずに、というかまだ使えないだけなのだが、感覚だけで[神足]のスピードに対応している。
 [ゾーン]をつかって僕が見た限りでは、ネイはまっすぐに職員さんの横を通り抜け、その際に軽く木剣を当てただけのようだ。だが軽く当てたとしても、その木剣には恐ろしい程の速さが乗っている。つまり相当な威力があるわけで……






「大丈夫ですか!?」






 横腹を抑えて地面にうずくまっている職員さんに試験監督が駆け寄る。そして彼女は職員さんに回復魔法をかけた。
 すると痛みが引いたのか職員さんは試験監督に礼を言ってスクッと立ち上がった。






「次」






 そして何事も無かったように僕の番になった。ネイは職員さんの視界に入る場所で必死にペコペコと頭を下げているが、職員さんはそれにたいして一つ頷いただけで返事とした。どうやら許されたようである。




 そんな様子を見ながら僕は職員さんの前に立つ。






「ライン、頑張って!」






 すると嬉しいことにネイが応援してくれた。それに対する返事はこれからの行動で返すことにしよう。
 職員さんと対峙しながら僕はどう攻めようかと頭を働かせる。




 職員さんはこの学園の実技試験の担当をするぐらいだから、一般に使われているアーツは全て知っているだろう。だから普通のアーツを使えばほぼ確実に太刀筋を読まれるはずだ。
 そのためこの職員さんに勝つ方法は二つ。純粋な剣技で勝つかネイのようにオリジナルアーツを使って勝つか、だ。




 ネイと同じように[神足]ですぐに終わらせてもいいが、それではなんだか味気ない。かといって僕は剣技が優れている訳でもない。だから僕は未だにネイに見せたことのないオリジナルアーツでこの職員さんに勝とうと思う。
 ……あれ? 別に勝たなくてもいいんじゃ……いや、確実に合格するためには勝った方がいいか。






「よろしくお願いします」






 一言挨拶をしてから剣を構える。すると職員さんもまた一つ頷き、剣を構えた。
 流石この学園で試験を務めるだけはある。隙がない構えだ。
 だけど僕のオリジナルアーツは構えに隙があろうとなかろうと関係ない。






「[虚影]」






 瞬間、職員さんの動きが硬直する。
 そりゃそうだ。職員さんからすれば、いつどこから僕の木剣が襲ってくるか分からないのだから。例えれば僕の背後に阿修羅観音のような手が無数にある感じ、といえば分かるだろうか。
 この[虚影]というアーツはギルドマスターの固有魔法である[ノーティン]をアーツとして改造したものだ。[虚影]は[ノーティン]と同じように気配だけを自分から分離することもできるが、それをしてしまうとアーツの定義に収まらなくなってしまう。だから僕の背後にまるで数多の手が生えているような気配を漂わせるだけにしている。






「……降参だ」






 すると僕はまだ一歩も動いていないにも関わらず職員さんが先に降参してしまった。それは……どうなるんだ? 
 試験監督の方に顔を向けると彼女はビクッとして硬直してしまった。あ、[虚影]を解いてなかったわ。
 [虚影]を解くと試験監督は一つ息を吐き出した後、職員さんに向かって一つ頷いた。……えーっと、どういうこと?
 その二人の謎のコミュニケーションにより困惑していると職員さんが話しかけてきた。






「君のこの試験での点数は満点とする。だから君の試験はここで終了だ」






「は、はぁ。そうですか。それはどうもありがとうございます」






 一度も木剣を振るう事無く、なんだかよく分からない内に僕の試験が終了してしまった。まぁ満点ならこれでいっか。

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