隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~
79話 ギルドマスターとその実力
「いやいや、俺は真夜中から坊主が来るのを待ってたんだよ」
なんだ、それなら早朝にも関わらず待ってたと言った理由が分かった。って、そうじゃなくて……
「なんでそんな夜中から……。僕を待つ理由なんて無いでしょうに……というか僕が呼ばれた理由ってなんですか?」
ギルドマスターということで正直なところ少し緊張していた僕だが、このおっさん……もといギルドマスターがあまりにもフランク過ぎるので緊張が解けてしまった。
「まぁ、とにかく座れ。話しはそれからだ」
ギルドマスターが来客との対談用と思わしき椅子に座るように勧めてきたので遠慮なく座る。すると目の前の机にミアさんがお茶を入れたカップを置いてくれた。どうも。
ミアさんにぺこりと頭を下げ、お茶が入ったカップに手を伸ばす……その瞬間。
「ミアさん!」
「は、え?」
僕はミアさんのお腹目掛けて半ばタックルをするような形で飛び込む。その直後、ミアさんの首があった場所を横切るようにブォンと刃が振るわれる音がした。
……危なかった。今の気配にあと一瞬気づくのが遅れていればミアさんは首を切断されていただろう。流石に首を切断されている人を回復するのは僕では無理だ。
つまりそれはミアさんの死を意味する。
そう理解したと同時に剣を振った人物に対して、怒りで頭がいっぱいになった。この部屋で僕とミアさん以外にそんなことができるのはただ一人だけ。ギルドマスターだ。
「何するんですか!」
後ろに立っているギルドマスターに向けて、振り返りざまに掌底を打ち込みながらそう叫ぶ。
「……あれ?」
しかしそこにはギルドマスターはおろか、剣さえも何も無く、僕が放った掌底はただ虚空を打つのみに終わった。
たしかについさっきまでそこに気配があった……にも関わらず消えた? 一体どこに!?
急いでギルドマスターがどこにいるのか部屋中を見回す。
するとすぐにギルドマスターを見つけた……が、ギルドマスターは僕がこの部屋に入ってきた時と同じように執務机の椅子に座っていた。
椅子を引いた音もしなかったし、ギルドマスターが動いた気配も無かった。いくら油断していたとしても今の僕ならそれくらいすぐに分かる。……どういうことだ?
いつ攻撃をしかけられても良いように、椅子に座っているギルドマスターから目を離さずに頭を回転させる。
すると今度は僕の右後ろから誰かの気配が現れ、同時に刃を振るう音がした。
「[剛体・腕]!」
振り返りざまに両腕を交差させてその刃を防御する。直後、硬化した僕の腕とその刃がぶつかり合うキンッという音が……しなかった。
「……え?」
有り得ない現実に頭が混乱しているのが自分でも分かる。分かるがそれをどうすれば止められるのか分からない。
何せつい今し方あった気配、それも刃を振るってきた音までしていたにも関わらず、それが忽然と気配ごと姿を消したのだ。
もう一度執務机の方に顔を向ける。
するとそこにはやはり先程と変わらずギルドマスターが座っていた。今度はニヤリとした笑顔つきだ。……なんだか凄いムカついてきたぞ。
ギルドマスターを見てそう思った瞬間、今度は左から何かが迫ってくる気配を感じた。
それも人間ではない何かの気配だ。
「[剛体]!」
今度はギルドマスターから目を離さずにその場で[剛体]を発動させ防御力を上げる。するとその何かの気配はすぐに僕の体の近くまで来て……そしてまたもや消えた。
視線を一瞬ギルドマスターから離し、左を確認する。
するとそこには、やはり何も無かった。
そして視線をギルドマスターの方に戻す。
「うっ……」
すると目の前には大剣の切っ先が突きつけられていた。
ギルドマスターは相変わらず執務机に座ったままだったが、その手にはそれが握られている。それも片手で、だ。
その膂力には驚かされるが、魔力を使っているのだろう。僅かにだが、ギルドマスターの腕から魔力が漏れている。
「……どういうおつもりですか」
どうにかこの状況から逃れることができないか頭を回転させながら、対話を試みる。僅かでもいいから隙を晒してくれれば……。
「もうそのへんで良いのではないですか、ギルドマスター?」
すると僕の後ろにいるミアさんがギルドマスターに向けてそう言った。
……何故、ミアさんはこの状況でギルドマスターに向かって親しげに話しかけていられるんだ?
そんな疑問とこの状況からの脱出方法とギルドマスターの意図を探ることに注力していると頭がこんがらがってきた。
流石に三つも並列思考するのは無理がある。
なんとかこの中から二つに絞って考えて……。という風に頭を働かせていると途端に目の前にある切っ先が遠のいていった。
「ククク……」
それと同時に押し殺したような声がギルドマスターから聞こえてきた。
「クァハハハハ!」
謎の押し殺した声に警戒していると、ギルドマスターは突如、手を額にあて上を向いて笑いだした。そして背後からは、ハァというミアさんのため息が。
……えっと、どういうこと?
それからギルドマスターが笑い終わるまでの間、僕は訳も分からずミアさんに対談用の椅子に座るよう勧められ、そして彼女が入れてくれたお茶を飲んだ。
「ギルドマスターはいつも、この部屋に初めて入ってきた人に向かってああやって実力を試すような真似をするんです」
「は、はぁ……そうなんですか……」
と、ミアさんが解説のようなものをしてくれたが、僕にとっては何の話しかイマイチ分からない。
いや、さすがにさっきの気配を感じ取ることができるかどうかをギルドマスターが試していることは分かったんだけど、その仕組みが……。
「ハァー、笑った笑った! こんなに笑ったのは久しぶりだな!」
するとギルドマスターがそう言って執務机の椅子から、僕の目の前の椅子に移ってきた。そしてタイミング良く出されるミアさんのお茶。それをギルドマスターは礼を言って受け取り一気に飲み干す。
この頃になってようやく僕の頭も混乱から抜け出して落ち着くことができた。
「で、さっきのはどういうつもりなんですか?」
先程のミアさんに説明されたが、なんとなく納得がいかないので、半眼でギルドマスターを睨みつけながら問いかける。
するとギルドマスターは空になったカップを机に起き、真面目腐った顔をしてこう言った。
「坊主の実力を試した」
「知っとるわ」
ついさっきミアさんからその話を聞かされたばかりだわ。
……いかん。年上には敬語を使うという僕のスタンスが崩れてしまった。
だがこのフランクなギルドマスターはそんなことを気にした素振りなど無く言葉を続ける。
「それ以上でもそれ以下でもねぇよ。……あぁ、でも今回ばかりは違ったな」
するとギルドマスターは再びニヤリと笑いながら僕の目を見てこう言った。
「昨日はよくも俺の獲物を横取りしやがったな、坊主?」
昨日、僕がギルドマスターの前に姿を現したのはたったの一回のみ。それはギルドマスターと魔人が戦っていた最中だ。
つまりギルドマスターが言う獲物とはあの魔人のことで間違いない。
そこまで理解した瞬間、僕は心臓を締め付けられるような緊張を覚えた。
なんだ、それなら早朝にも関わらず待ってたと言った理由が分かった。って、そうじゃなくて……
「なんでそんな夜中から……。僕を待つ理由なんて無いでしょうに……というか僕が呼ばれた理由ってなんですか?」
ギルドマスターということで正直なところ少し緊張していた僕だが、このおっさん……もといギルドマスターがあまりにもフランク過ぎるので緊張が解けてしまった。
「まぁ、とにかく座れ。話しはそれからだ」
ギルドマスターが来客との対談用と思わしき椅子に座るように勧めてきたので遠慮なく座る。すると目の前の机にミアさんがお茶を入れたカップを置いてくれた。どうも。
ミアさんにぺこりと頭を下げ、お茶が入ったカップに手を伸ばす……その瞬間。
「ミアさん!」
「は、え?」
僕はミアさんのお腹目掛けて半ばタックルをするような形で飛び込む。その直後、ミアさんの首があった場所を横切るようにブォンと刃が振るわれる音がした。
……危なかった。今の気配にあと一瞬気づくのが遅れていればミアさんは首を切断されていただろう。流石に首を切断されている人を回復するのは僕では無理だ。
つまりそれはミアさんの死を意味する。
そう理解したと同時に剣を振った人物に対して、怒りで頭がいっぱいになった。この部屋で僕とミアさん以外にそんなことができるのはただ一人だけ。ギルドマスターだ。
「何するんですか!」
後ろに立っているギルドマスターに向けて、振り返りざまに掌底を打ち込みながらそう叫ぶ。
「……あれ?」
しかしそこにはギルドマスターはおろか、剣さえも何も無く、僕が放った掌底はただ虚空を打つのみに終わった。
たしかについさっきまでそこに気配があった……にも関わらず消えた? 一体どこに!?
急いでギルドマスターがどこにいるのか部屋中を見回す。
するとすぐにギルドマスターを見つけた……が、ギルドマスターは僕がこの部屋に入ってきた時と同じように執務机の椅子に座っていた。
椅子を引いた音もしなかったし、ギルドマスターが動いた気配も無かった。いくら油断していたとしても今の僕ならそれくらいすぐに分かる。……どういうことだ?
いつ攻撃をしかけられても良いように、椅子に座っているギルドマスターから目を離さずに頭を回転させる。
すると今度は僕の右後ろから誰かの気配が現れ、同時に刃を振るう音がした。
「[剛体・腕]!」
振り返りざまに両腕を交差させてその刃を防御する。直後、硬化した僕の腕とその刃がぶつかり合うキンッという音が……しなかった。
「……え?」
有り得ない現実に頭が混乱しているのが自分でも分かる。分かるがそれをどうすれば止められるのか分からない。
何せつい今し方あった気配、それも刃を振るってきた音までしていたにも関わらず、それが忽然と気配ごと姿を消したのだ。
もう一度執務机の方に顔を向ける。
するとそこにはやはり先程と変わらずギルドマスターが座っていた。今度はニヤリとした笑顔つきだ。……なんだか凄いムカついてきたぞ。
ギルドマスターを見てそう思った瞬間、今度は左から何かが迫ってくる気配を感じた。
それも人間ではない何かの気配だ。
「[剛体]!」
今度はギルドマスターから目を離さずにその場で[剛体]を発動させ防御力を上げる。するとその何かの気配はすぐに僕の体の近くまで来て……そしてまたもや消えた。
視線を一瞬ギルドマスターから離し、左を確認する。
するとそこには、やはり何も無かった。
そして視線をギルドマスターの方に戻す。
「うっ……」
すると目の前には大剣の切っ先が突きつけられていた。
ギルドマスターは相変わらず執務机に座ったままだったが、その手にはそれが握られている。それも片手で、だ。
その膂力には驚かされるが、魔力を使っているのだろう。僅かにだが、ギルドマスターの腕から魔力が漏れている。
「……どういうおつもりですか」
どうにかこの状況から逃れることができないか頭を回転させながら、対話を試みる。僅かでもいいから隙を晒してくれれば……。
「もうそのへんで良いのではないですか、ギルドマスター?」
すると僕の後ろにいるミアさんがギルドマスターに向けてそう言った。
……何故、ミアさんはこの状況でギルドマスターに向かって親しげに話しかけていられるんだ?
そんな疑問とこの状況からの脱出方法とギルドマスターの意図を探ることに注力していると頭がこんがらがってきた。
流石に三つも並列思考するのは無理がある。
なんとかこの中から二つに絞って考えて……。という風に頭を働かせていると途端に目の前にある切っ先が遠のいていった。
「ククク……」
それと同時に押し殺したような声がギルドマスターから聞こえてきた。
「クァハハハハ!」
謎の押し殺した声に警戒していると、ギルドマスターは突如、手を額にあて上を向いて笑いだした。そして背後からは、ハァというミアさんのため息が。
……えっと、どういうこと?
それからギルドマスターが笑い終わるまでの間、僕は訳も分からずミアさんに対談用の椅子に座るよう勧められ、そして彼女が入れてくれたお茶を飲んだ。
「ギルドマスターはいつも、この部屋に初めて入ってきた人に向かってああやって実力を試すような真似をするんです」
「は、はぁ……そうなんですか……」
と、ミアさんが解説のようなものをしてくれたが、僕にとっては何の話しかイマイチ分からない。
いや、さすがにさっきの気配を感じ取ることができるかどうかをギルドマスターが試していることは分かったんだけど、その仕組みが……。
「ハァー、笑った笑った! こんなに笑ったのは久しぶりだな!」
するとギルドマスターがそう言って執務机の椅子から、僕の目の前の椅子に移ってきた。そしてタイミング良く出されるミアさんのお茶。それをギルドマスターは礼を言って受け取り一気に飲み干す。
この頃になってようやく僕の頭も混乱から抜け出して落ち着くことができた。
「で、さっきのはどういうつもりなんですか?」
先程のミアさんに説明されたが、なんとなく納得がいかないので、半眼でギルドマスターを睨みつけながら問いかける。
するとギルドマスターは空になったカップを机に起き、真面目腐った顔をしてこう言った。
「坊主の実力を試した」
「知っとるわ」
ついさっきミアさんからその話を聞かされたばかりだわ。
……いかん。年上には敬語を使うという僕のスタンスが崩れてしまった。
だがこのフランクなギルドマスターはそんなことを気にした素振りなど無く言葉を続ける。
「それ以上でもそれ以下でもねぇよ。……あぁ、でも今回ばかりは違ったな」
するとギルドマスターは再びニヤリと笑いながら僕の目を見てこう言った。
「昨日はよくも俺の獲物を横取りしやがったな、坊主?」
昨日、僕がギルドマスターの前に姿を現したのはたったの一回のみ。それはギルドマスターと魔人が戦っていた最中だ。
つまりギルドマスターが言う獲物とはあの魔人のことで間違いない。
そこまで理解した瞬間、僕は心臓を締め付けられるような緊張を覚えた。
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