隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~

サァモン

76話 決着と新種の魔物

 魔力を伴ったことにより普通のそれとは数倍に跳ね上がった衝撃は、魔人の胸を中心に体全体に広がった。






「グガァァ!?」






 魔人はその強力な攻撃を喰らってもなお、地面に顔を半分埋めたまま呻く。もう一発撃ったほうがいいか?
 そう思い魔人から少し離れたところで観察しながら魔力を回復させる。そうした方が[魔掌底]の火力が出るからだ。
 しかし、そうして観察兼休憩している最中に何の前触れも無く魔人から漏れ出ていた魔力が途絶えた。






「……あれ?」






 またあの再生力を発揮して僕に襲いかかって来るだろうから[魔掌底]の準備をしていたのに、その魔人は何の前触れも無く死んだみたいだ。
 コソコソと身長に魔人に近寄る。コソコソとしているのは、魔人が死んだふりをしていて、いきなり襲いかかられたらたまらないからだ。まぁ、それを撃退できる自信はあるが。
 魔人は地面にうずくまっている状態なので、その肩目掛けて足下に落ちている石をコツンと投げる。
 ……動かないな。
 本当に身じろぎ一つしない。
 僕はそれを確認して、さらに魔人に近寄る。そして魔人の横腹目掛けて少し強めの蹴りを入れた。すると魔人の体はそれまで保っていたバランスを突如崩したように地面にドサリと倒れ伏した。






「……本当に死んでるな」






 この段階になってやっと僕は魔人が死んでいると判断することができた。
 魔人にはあれだけ驚異的な再生力が宿っていたが、やはり無尽蔵に回復できるわけではなかったようだ。もしできていたら……いや、そんなこと考えるだけ無駄か。






「[ストレージ]」






 [ストレージ]を開いてその中に魔人の死体を入れる。解体はまた今度にする。何故なら青かった空はいつの間にかオレンジ色になり、太陽がもう半分も地平線の彼方へ沈んでしまっているからだ。今から解体なんてすると、絶対に宿に帰れない。
 だからここからトンズラするわけだけど、ただ単純に森や林に入って紅眼モード……いや今はパワードスーツを着て魔人みたいだから魔人モードだな。
 ともかく単純に森や林に入ってからこの魔人モードを解除すれば、そこからノコノコと出てきた僕は心配されるだろうし、その森や林に魔人が住み着いているという噂が王都中に広がることになるだろう。
 なので僕は[ストレージ]からスルーカメレオンのマントを取り出してこっそりとこの場からトンズラする……ん? 何だ、あれは?




 僕は開いていた[ストレージ]から透明マントを取り出そうとした直前、空に浮かぶ何かが目に入った。
 それに気づいたのは偶然か必然か。
 オレンジ色の画用紙の上にポツンと一粒の黒ゴマがあれば誰だってそれに注目するだろう。
 そう考えれば必然かもしれない。
 ともかく僕はそのゴマのようにポツンと浮かんでいる見慣れない何かに気がついた。






「[視覚強化]」






 望遠鏡や双眼鏡などこの世界には無いので、視覚を強化してより遠くまで見えるようになる魔法を使う。
 するとその黒ゴマの実態がわかった。






「……コウモリ?」






 それは細部が僅かに異なるものの、コウモリと呼んで差し支えないものだった。ただ、そのコウモリの目は他の魔物や魔人と同じ赤い色をした目だ。つまりあれは魔物だな。
 そんなコウモリもどきの何かはバッサバッサと高高度で羽ばたきながらこちらをジッと見つめている。






「……知らない魔物だ」






 無意識にそんな言葉がポツリと出てしまった。
 実家の書庫にあった魔物図鑑を読み込んだことによって、一目見たらそれがどんな魔物か言い当てる自信が僕にはある。いや、あった。
 だが……そのコウモリもどきの魔物は僕の記憶の中には無い。そのため僕はたった今その自信を失った……。いや、どうでもいいかそんなの。
 ともかく僕の記憶に無いということは、それは魔物図鑑に載っていない魔物ということだ。
 つまり未知の魔物……あれ? ってことはもしかしてあれって新種の魔物? 僕が知らない魔物イコール魔物図鑑に載っていない魔物イコール新種の魔物……。うん。きっとそうに違いない。だって僕が魔物を見て何の魔物か分からなくなるはずが無いから。よし。自信が戻ってきた。




 とりあえず新種の魔物だからできるだけ丁寧に狩らないと。
 魔力は……少し無理をすれば大丈夫かな。多分軽い吐き気がくるだけだと思うし。
 問題はどうやってしとめるか、だけど……どうしよう。
 [風撃]では届かないだろうし、他の魔法でも同じだろう。それなら[風撃]で空を飛んで捕まえるという手はあるが距離が遠すぎるため易々と逃げられてしまう可能性が高い。




 いっそ新しい魔法を作るか? 
 でもそうなるとそれはよほど精密で、かつ超長距離攻撃できる魔法、ということになる。
 そんなことができるなんて前世の世界にあったスナイパーライフルぐらいしか……そうか! スナイパーライフルのイメージをして[風撃]を打てばいけるんじゃないか!? 
 ……いや、でもそれだと遠すぎてあのコウモリに届く前に弾自体が途中で消えてしまうか。だって[風撃]は空気を圧縮しただけの弾だから。そしてそれは他のどの魔法でも同じだろう。




 ふーむ……。やっぱり新しい魔法を作るしかない、か。
 問題はこの距離なんだよな。
 距離なんて関係なく、ここからコウモリもどきに当てられる物なんてのがあればそれでいいんだけど、そんなのは無いし……。
 ……いや、あるか。
 例えば音とか? 全方向に広がり続けるけど、指向性を持たせればなんとか……やっぱり無理だな。コウモリもどきにまで届く程の大きい音を出す手段が無い。
 でも発想自体は良い気がする。
 実際に手に持てるような質量のある物質ではなくて、音のような質量が無い物……それこそ光とかか?




 ……あ。
 光があるじゃん! 
 それに気づいた瞬間、僕の頭の上にピコンと豆電球が光った……てか? いやいやそんなのはどうでもいいんだよ。
 ともかく光。
 光なら媒質が変化しないかぎり真っ直ぐ突き進むし、距離なんて進むスピードが速すぎて殆ど関係ない。
 それに光は虫眼鏡で太陽光を集めるように、一点に集めてやれば強力な熱エネルギーが生まれる。
 いやこの場合は点じゃなくて、レーザーのように線に収束してやればいいのか。
 そっちのほうが狙いやすい。
 後はここからコウモリもどきをピンポイントで当てる精密さが必要なのだが……レーザーやスナイパーライフルからの発想でレーザーサイトのような魔法を事前にかけておけば大丈夫だろう。
 [視覚強化]でここからコウモリもどきまでは望遠鏡で見るようにハッキリと見えるから、それは可能だ。




 となれば早速やってみる。
 まずはレーザーサイト。
 これは簡単にイメージできる。
 アニメや映画などでスナイパーライフルを使う際、必ずと言ってもいい程描写されている物だからだ。
 ざっくりと簡単に言えば赤い光のやつ。
 それをイメージしてやれば……ほらできた。
 今は近くの木に向けてそれを試しているのだが、見事に僕が指を指した直線上にその赤い点が現れた。




  後はレーザーだけど……これはレーザーポインターよりさらに魔力を費やして光を収束してやれば良い。
 ほら、できた……あれ? 木に穴が空いてる……。ちょっと火力が高すぎるような……。
 ま、まぁ火力は十分って事でいいか!

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