隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~
72話 轟音と雄叫び
それから僕らは何体かのオークとオーガ相手にこの魔人の素材で作ったパワードスーツの試運転をした。色々と問題点が出てきたが、それを加味してもこのパワードスーツの性能は驚異的なものだった。
「なるほど。つまりそのパワードスーツごと体全体に魔力を張り巡らせることによって、パワードスーツごとアーツを使えるってわけね」
「そうだよ」
ネイが納得した様子で頷きながらそう言う。
普通、アーツを使うときは自分の肉体にしか魔力を張り巡らすことはしない。いちいち着ている服や防具にまで魔力を使うことは無駄であるからだ。
しかしパワードスーツの場合は違う。なぜならパワードスーツはそれに魔力を通すだけで硬化し、圧倒的なパワーを発揮するからだ。
魔人の皮膚だけでこれなんだから、さらに骨や肉がある状態の魔人はどれだけ強いのか想像できないな。まともに戦わなくて良かった。
おっと、そういえばネイに渡すものがあったんだった。
「[ストレージ]。ネイ、これをあげるよ」
僕は[ストレージ]から二本の白い刃物を取り出し、それをネイに渡す。
「これは?」
「魔人の骨から作った解体用のナイフと短剣だよ」
ネイがそう聞いてきたので僕はそう答える。
そう。僕がネイにあげたのは魔人の骨から作ったナイフと短剣だ。
それらは僕が魔人の骨を魔力掌握し、変形させて作った一品で、そうとうな切れ味がある。なので取り扱いには十分気をつけて欲しいとネイに伝える。
ちなみにどれだけの切れ味があるかと言うと、おろした手から滑り落ちたナイフが、木の床に根元までストンと突き刺さってしまうくらいには鋭い切れ味を持っている。実際に僕が落っことしたナイフがそうなったので間違いない。
「……わかったわ。[ストレージ]に入れておいて、必要な時だけ取り出すことにするわ」
そう言ってネイは自分の[ストレージ]に魔人の骨製ナイフと短剣を慎重に入れる。
「それじゃあ魔道具の試運転も終わったことだし、帰ろうか」
「そうね」
実際に使ってみた感じ、今の時点でのパワードスーツの欠点は殆ど洗い出し終わったと思う。だからこれから帰ってパワードスーツの改良を施すためにもネイに帰る提案をする。すると彼女は二つ返事で賛成してくれた。あ、忘れずに今日狩った魔物の素材も冒険者ギルドで売らないと。
そんなことを思いながら僕とネイはシンリョクの森を出る。
そして僕らは再び道の両端に生えている薬草を片っ端から摘みながら帰っていると、なにやら遠くからドゴォン! という物騒な音が。
その音が聞こえてきた方に顔を向けると、王都の正門から何やら土煙のような物がたっているのが見える。
「ねぇ、ライン。あれってーー」
何? と、ネイは僕に訊こうとしたのだろう。だがその質問は最後まで口に発することはできなかったようだ。それは僕も同じで声が一切出なかった。
なぜならその直後にあの背筋がゾクリとするような雄叫びがここまで聞こえてきたからだ。
「ガアアアアアアア!」
「ヒッ!」
その雄叫びが聞こえてきた直後、ネイも僕と同様に嫌な感じがしたのか、質問の途中で引きつった声をだした。だが僕はそんなネイに気をかける余裕などない。
「今の声、何かを破壊した音、それに王都から立ち上る煙……まさか!?」
嫌な予感が体全体を駆け巡った。そしてそれは僕を突き動かすに十分なエネルギーとなる。
「ネイ! 先に宿に帰っていて! 僕はあの魔人を倒してくるから!」
「え、魔人!? ちょ、ライン!?」
ここら一帯の魔物ならば、例え魔法を使わなくてもネイが遅れを取るようなことはないはずだ。
だから安心してネイをここに置いていける。
「[ストレージ]!」
着けていた普通の眼帯を外し、ストレージから片目ゴーグル型眼帯を取り出して装着。そして[魔力源探知]を起動。場所は……くそ! 王都の中に入ってる! やっぱりさっきの破壊音は正門が破られた音だったのか!
[ミラージュ]で変装。紅眼モードになる。さらに首の後ろの魔法陣も起動! 
膨張し、五つの触手のように分かれた服が僕の体にまとわりつく。
パワードスーツの装着、完了。
「[ゾーン]、[ブースト]!」
感覚強化、身体能力強化を施し、これまでとは比べ物にならない程圧倒的なスピードで走る。
[ゾーン]と[ブースト]をパワードスーツを着た状態で使ったのは初めてだけど、想像以上に速いな!
王都の外壁がグングンと大きくなってくると同時に耳のそばで風切り音が鳴り叫ぶ。
さらには体感温度が僅かに上がる……どころかだんだんと暑くなってきた。
恐らく走る速さが速すぎて、空気との摩擦熱によって温度が上がっているのだろう。
だが耐えきれない程の温度になる前に、僕は王都の正門に着いた。
魔人は……いた! ってまじか!
「うおおおおおお!」
「ガアアアアアア!」
裂帛の気合いと共に大きく振り下ろされた大剣と魔人の拳が激しくぶつかり合う。
その音はガキン、と。
派手に火花をちらつかせながら、何度も何度も刃と拳が混じり合う。
そのたびに攻撃の余波が周りの建物を崩していく。
そうして相対する魔人とギルド職員の服を着たおじさん。
どうやらあのギルド職員のおじさんが魔人を足止めしているようだ。
おかげで魔人が王都の中に深入りするのを妨げている。
素早く辺りを見回す。
皆その戦いに巻き込まれないように逃げたのか、周りには衛兵と見られる人達以外はだれもいない。
その衛兵達でさえ今は手出しできない状況みたいだ。
ギルド職員のおじさんが頑張っているところを横から邪魔するようで悪いが、ここは王都の中だ。
これ以上周りの建物にも被害が及ぶことを考えれば、魔人を外壁の外に出すべきだ。
地を蹴り、上から魔人とおじさんの間に立つようにスタッと着地する。
すると先ほどまでの激しい拳と刃の打ち合いが嘘だったように静寂がその場を支配した。
突然の何者かの乱入に両者ともに、いや衛兵までも警戒している。
するとその静寂をギルド職員のおじさんが破った。
「ちぃ! もう一体いやがったのか!」
もう一体? あぁ。僕のことか。
今の僕は魔人の皮膚を被っているため、外見は完全に魔人の子供のそれだ。
そのため魔人と見間違えたのだろう。
だがそれは、姿を隠している今の僕にとっては大変好都合だ。
そのまま勝手に勘違いしておいてくれ。
[ブースト]をかけた状態で素早く魔人の懐に入り込み、その鳩尾に向かってアッパーをかます。
「ガァ!?」
「な!?」
おー。目算で五メートルくらいかな? 
魔人の体が宙に浮かび上がった。
さすがパワードスーツ。たったあれだけの力を加えたパンチでも魔人の体を宙に浮かせるだけの火力が出るなんて。
そうして魔人の体が空中で僅かな間静止し、重力に従って落ちてくる。
「ふん!」
そのタイミングに合わせて、僕はボールを蹴るように外壁の上めがけてそれを蹴りあげた。
「なるほど。つまりそのパワードスーツごと体全体に魔力を張り巡らせることによって、パワードスーツごとアーツを使えるってわけね」
「そうだよ」
ネイが納得した様子で頷きながらそう言う。
普通、アーツを使うときは自分の肉体にしか魔力を張り巡らすことはしない。いちいち着ている服や防具にまで魔力を使うことは無駄であるからだ。
しかしパワードスーツの場合は違う。なぜならパワードスーツはそれに魔力を通すだけで硬化し、圧倒的なパワーを発揮するからだ。
魔人の皮膚だけでこれなんだから、さらに骨や肉がある状態の魔人はどれだけ強いのか想像できないな。まともに戦わなくて良かった。
おっと、そういえばネイに渡すものがあったんだった。
「[ストレージ]。ネイ、これをあげるよ」
僕は[ストレージ]から二本の白い刃物を取り出し、それをネイに渡す。
「これは?」
「魔人の骨から作った解体用のナイフと短剣だよ」
ネイがそう聞いてきたので僕はそう答える。
そう。僕がネイにあげたのは魔人の骨から作ったナイフと短剣だ。
それらは僕が魔人の骨を魔力掌握し、変形させて作った一品で、そうとうな切れ味がある。なので取り扱いには十分気をつけて欲しいとネイに伝える。
ちなみにどれだけの切れ味があるかと言うと、おろした手から滑り落ちたナイフが、木の床に根元までストンと突き刺さってしまうくらいには鋭い切れ味を持っている。実際に僕が落っことしたナイフがそうなったので間違いない。
「……わかったわ。[ストレージ]に入れておいて、必要な時だけ取り出すことにするわ」
そう言ってネイは自分の[ストレージ]に魔人の骨製ナイフと短剣を慎重に入れる。
「それじゃあ魔道具の試運転も終わったことだし、帰ろうか」
「そうね」
実際に使ってみた感じ、今の時点でのパワードスーツの欠点は殆ど洗い出し終わったと思う。だからこれから帰ってパワードスーツの改良を施すためにもネイに帰る提案をする。すると彼女は二つ返事で賛成してくれた。あ、忘れずに今日狩った魔物の素材も冒険者ギルドで売らないと。
そんなことを思いながら僕とネイはシンリョクの森を出る。
そして僕らは再び道の両端に生えている薬草を片っ端から摘みながら帰っていると、なにやら遠くからドゴォン! という物騒な音が。
その音が聞こえてきた方に顔を向けると、王都の正門から何やら土煙のような物がたっているのが見える。
「ねぇ、ライン。あれってーー」
何? と、ネイは僕に訊こうとしたのだろう。だがその質問は最後まで口に発することはできなかったようだ。それは僕も同じで声が一切出なかった。
なぜならその直後にあの背筋がゾクリとするような雄叫びがここまで聞こえてきたからだ。
「ガアアアアアアア!」
「ヒッ!」
その雄叫びが聞こえてきた直後、ネイも僕と同様に嫌な感じがしたのか、質問の途中で引きつった声をだした。だが僕はそんなネイに気をかける余裕などない。
「今の声、何かを破壊した音、それに王都から立ち上る煙……まさか!?」
嫌な予感が体全体を駆け巡った。そしてそれは僕を突き動かすに十分なエネルギーとなる。
「ネイ! 先に宿に帰っていて! 僕はあの魔人を倒してくるから!」
「え、魔人!? ちょ、ライン!?」
ここら一帯の魔物ならば、例え魔法を使わなくてもネイが遅れを取るようなことはないはずだ。
だから安心してネイをここに置いていける。
「[ストレージ]!」
着けていた普通の眼帯を外し、ストレージから片目ゴーグル型眼帯を取り出して装着。そして[魔力源探知]を起動。場所は……くそ! 王都の中に入ってる! やっぱりさっきの破壊音は正門が破られた音だったのか!
[ミラージュ]で変装。紅眼モードになる。さらに首の後ろの魔法陣も起動! 
膨張し、五つの触手のように分かれた服が僕の体にまとわりつく。
パワードスーツの装着、完了。
「[ゾーン]、[ブースト]!」
感覚強化、身体能力強化を施し、これまでとは比べ物にならない程圧倒的なスピードで走る。
[ゾーン]と[ブースト]をパワードスーツを着た状態で使ったのは初めてだけど、想像以上に速いな!
王都の外壁がグングンと大きくなってくると同時に耳のそばで風切り音が鳴り叫ぶ。
さらには体感温度が僅かに上がる……どころかだんだんと暑くなってきた。
恐らく走る速さが速すぎて、空気との摩擦熱によって温度が上がっているのだろう。
だが耐えきれない程の温度になる前に、僕は王都の正門に着いた。
魔人は……いた! ってまじか!
「うおおおおおお!」
「ガアアアアアア!」
裂帛の気合いと共に大きく振り下ろされた大剣と魔人の拳が激しくぶつかり合う。
その音はガキン、と。
派手に火花をちらつかせながら、何度も何度も刃と拳が混じり合う。
そのたびに攻撃の余波が周りの建物を崩していく。
そうして相対する魔人とギルド職員の服を着たおじさん。
どうやらあのギルド職員のおじさんが魔人を足止めしているようだ。
おかげで魔人が王都の中に深入りするのを妨げている。
素早く辺りを見回す。
皆その戦いに巻き込まれないように逃げたのか、周りには衛兵と見られる人達以外はだれもいない。
その衛兵達でさえ今は手出しできない状況みたいだ。
ギルド職員のおじさんが頑張っているところを横から邪魔するようで悪いが、ここは王都の中だ。
これ以上周りの建物にも被害が及ぶことを考えれば、魔人を外壁の外に出すべきだ。
地を蹴り、上から魔人とおじさんの間に立つようにスタッと着地する。
すると先ほどまでの激しい拳と刃の打ち合いが嘘だったように静寂がその場を支配した。
突然の何者かの乱入に両者ともに、いや衛兵までも警戒している。
するとその静寂をギルド職員のおじさんが破った。
「ちぃ! もう一体いやがったのか!」
もう一体? あぁ。僕のことか。
今の僕は魔人の皮膚を被っているため、外見は完全に魔人の子供のそれだ。
そのため魔人と見間違えたのだろう。
だがそれは、姿を隠している今の僕にとっては大変好都合だ。
そのまま勝手に勘違いしておいてくれ。
[ブースト]をかけた状態で素早く魔人の懐に入り込み、その鳩尾に向かってアッパーをかます。
「ガァ!?」
「な!?」
おー。目算で五メートルくらいかな? 
魔人の体が宙に浮かび上がった。
さすがパワードスーツ。たったあれだけの力を加えたパンチでも魔人の体を宙に浮かせるだけの火力が出るなんて。
そうして魔人の体が空中で僅かな間静止し、重力に従って落ちてくる。
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