隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~
71話 パワードスーツと試運転
「ふぅ。今日はこのぐらいで十分じゃないかしら」
ネイはそう言いながら額の汗を拭う。
あれから僕らは見つけた魔物を次から次へと片っ端から狩っていった。まぁその魔物は全部オークかオーガだったんだけどね。どういうわけかこの中層にはオークとオーガしかいないみたいだ。
とにもかくにも僕らはシンリョクの森の中層における乱獲を終えた。乱獲、と言っても実際にはシンリョクの森の全体からみたらほんの一部だろうから、生態系を崩すほど狩ってはいないはずだ。
ちなみにこれだけオークとオーガを狩ってもネイの残存魔力量はまだまだ余裕があるみたい。
なので僕はネイに一つ提案をしてみる。
「ネイ、少し魔道具の試運転をしたいんだけど、これから時間をもらってもいいかな?」
するとさっき汗を拭って今日はもう帰ろうか、というオーラを全身から出していたネイが、さっとこちらに振り向いて若干前のめりになる。
「それってもしかして魔人の素材から作った魔道具のこと!?」
「うん。そうだよ」
ネイの今の反応を見る限り、どうやら彼女は僕が魔人の素材から作った魔道具に対して相当興味を示しているようだ。まぁ、今までそれに関しては殆ど秘密にしてきたからねぇ。
というわけで僕は再度魔力探知を発動させて魔物探しをする。オークかオーガ、どちらでもいいから姿を現しておくれ。
ちなみに魔力探知の範囲についてだが、こればかりは一日の長。僕のほうが彼女よりも広範囲を探知できる。
そうして体感で十分程歩いた頃。ようやく僕の魔力探知に魔物の反応が。これは……オーガかな。
「ネイ、あっちにオーガがいるからそれで魔道具の試運転をすることにするよ」
「わかったわ」
僕の後ろを付いてきていたネイに向かってそう言うと、彼女はすぐさま返事を返してくれた。
その顔は好奇心に満ちており、とてもキラキラとしている。そんなに楽しみにしてくれているなんて魔道具開発者として光栄だな。
そんなことを心の内で考えながら僕らはオーガがいるほうへと歩みを進める。
そうして少し歩くと、遠くに褐色の肌をした人型の魔物が。オーガだ。
どうやら向こうも僕らの存在に気づいていたのか、ズンズンとこちらに向かって歩いてきている。
ここらでいいかな。
「じゃあ少し離れていてね」
僕は後ろを付いてきているネイに向かってそう言い、オーガに向かってゆっくりと歩く。
そうしながら僕は、首の後ろに隠れている魔法陣に魔力を流して起動。これは僕が着ている服の魔導具を発動させるためのスイッチのような物だ。
すると着ていた黒い服が不気味に蠢く。
「全ての魔法に親和性を示した魔人の素材。どんな魔導具にして、どうやって使おうか凄い悩んだんだ」
後ろにいるネイに話しかけながら歩く。
すると不気味に蠢いていた黒い服がだんだんと膨張し始めてきた。
最初は本当にこの素材の使い方に悩んだ。
剣にすればそれはさぞ切れ味の良い剣になるだろうし、僕がこっそりと考えていた魔力を使って弾丸を発射する銃、魔銃にすればそれはどんな装甲をも貫くものになるだろう。
そして盾や鎧にすれば剣や槍なんて全てはじくだろう。
武器に使うか、防具に使うか。はたまたここはあえて生活を便利にするための魔導具にするか。
「そうして悩んだ結果がこれだよ」
膨張していた服が突如、内部から五つの触手に分かれるようにはじける。
そしてそれらは僕の両腕、両足、頭、そして胴体にまとわりついてくる。
そしてギチギチという音をたてながら僅かに膨らむ。
「ライン!?」
ネイが焦ったような声で僕の名前を呼んできた。僕の魔導具が暴走でもしたとか思っているのだろうか。それは違う。
「大丈夫だよ、ネイ」
僕が着ていた服がそうした変化を経て、ようやく落ち着いた頃になって、彼女を安心させるように優しい声でそう言う。
「これが僕が魔人の素材で作ったパワードスーツだよ」
「それって、まるでーー」
武器にも防具にも、何にでも使うことができる最高の素材。
そんな素材を前にさんざん悩んだ挙げ句、僕がたどり着いた答えがこれだ。
そのまま使えばいいじゃない、と。
「ーー魔人じゃない……」
図書館で魔人の絵でも見たのだろうか。
はっきりとした口調でネイがそう言い切る。
だけどその通りだ。
「これはパワードスーツと言っても、こうやって展開した後の姿は解体して骨と肉、そして内蔵を抜いた魔人の素材を着ているだけなんだ。それでもこれは十分パワードスーツと言っても良い役割を果たしてくれるんだよ」
一口に魔人の素材を着ていると言っても、自分の体に合うように調整したり、通常形態、つまり服の形に収めるのには四苦八苦した。だけどその苦労が見合う魔導具ができたと僕は自負している。
「まぁ、そこで見ててよ」
後ろにいるネイに向かって僕はそう言う。
オーガとの距離はもう五メートルもない。
オーガは警戒しているのかそこで立ち止まり、こちらの様子を見ている。
だけど僕はそんなのは関係ないとばかりに歩みを進め、彼我の距離を少しずつ喰っていく。
すると体長が僕の三倍以上あるオーガが、腕を振り上げ、そして勢いよく振り下ろしてきた。
「[ブースト]」
しかしその攻撃は僕の前では通用しない。
その証拠に僕は何の防御もせずに頭でその攻撃を受けているだけだ。つまりオーガの振り下ろしてきた拳を首だけで支えていることになる。
全ての魔法に親和性が高いと言うことは、内包系の魔法、肉体強化魔法にも親和性が高いと言うことだ。それはつまりアーツにも同じことが言える。
そう。今のように。
「邪魔だな」
僕はオーガが必死に上から押しつぶそうとしてきている拳を、赤子の手を捻るよりも簡単に振り払う。
「ガアアアア!?」
おっと。少し強すぎたかな? まだ出力の調整が上手くいってないんだ。
オーガは僕が今手で振り払った場所をもう片方の手で押さえて叫んでいる。指が陥没しているから骨を折ってしまったのだろう。
まぁどうせこれは試運転だ。問題点が見つかればそれでいい。
僕は僅かに踵を上げる。
するとそれだけで体が宙に浮き、オーガと同じ目線の高さになった。
そして無造作に腕を前に突き出す。
感覚で言えば障子に腕を突き出した感覚だろうか。
その行為だけで僕の腕はオーガの皮膚を貫通し、肉を抉り、骨を砕いた。
そして心臓の中にある魔石に手が届き、それをーー握りつぶす。
「……あ」
しまった。魔石を取り出すだけのつもりだったのに、握りつぶしてしまった。帰ったら出力の調整を真っ先にすることにしよう。
オーガが地に倒れたことを確認し、僕はパワードスーツを通常形態に戻す。するとネイが後ろからトテトテとやってきた。
その顔は驚愕の色に染まっており、その歩みは少し重い。
頭が良いネイならどれだけこのパワードスーツが凄いのかすぐに理解できたのだろう。その証拠に彼女が開口一番に発した言葉がそれだ。
「……無茶苦茶ね」
「うん。作った僕でもそう思うよ」
パワーを発揮しすぎなんだよなぁ。
ネイはそう言いながら額の汗を拭う。
あれから僕らは見つけた魔物を次から次へと片っ端から狩っていった。まぁその魔物は全部オークかオーガだったんだけどね。どういうわけかこの中層にはオークとオーガしかいないみたいだ。
とにもかくにも僕らはシンリョクの森の中層における乱獲を終えた。乱獲、と言っても実際にはシンリョクの森の全体からみたらほんの一部だろうから、生態系を崩すほど狩ってはいないはずだ。
ちなみにこれだけオークとオーガを狩ってもネイの残存魔力量はまだまだ余裕があるみたい。
なので僕はネイに一つ提案をしてみる。
「ネイ、少し魔道具の試運転をしたいんだけど、これから時間をもらってもいいかな?」
するとさっき汗を拭って今日はもう帰ろうか、というオーラを全身から出していたネイが、さっとこちらに振り向いて若干前のめりになる。
「それってもしかして魔人の素材から作った魔道具のこと!?」
「うん。そうだよ」
ネイの今の反応を見る限り、どうやら彼女は僕が魔人の素材から作った魔道具に対して相当興味を示しているようだ。まぁ、今までそれに関しては殆ど秘密にしてきたからねぇ。
というわけで僕は再度魔力探知を発動させて魔物探しをする。オークかオーガ、どちらでもいいから姿を現しておくれ。
ちなみに魔力探知の範囲についてだが、こればかりは一日の長。僕のほうが彼女よりも広範囲を探知できる。
そうして体感で十分程歩いた頃。ようやく僕の魔力探知に魔物の反応が。これは……オーガかな。
「ネイ、あっちにオーガがいるからそれで魔道具の試運転をすることにするよ」
「わかったわ」
僕の後ろを付いてきていたネイに向かってそう言うと、彼女はすぐさま返事を返してくれた。
その顔は好奇心に満ちており、とてもキラキラとしている。そんなに楽しみにしてくれているなんて魔道具開発者として光栄だな。
そんなことを心の内で考えながら僕らはオーガがいるほうへと歩みを進める。
そうして少し歩くと、遠くに褐色の肌をした人型の魔物が。オーガだ。
どうやら向こうも僕らの存在に気づいていたのか、ズンズンとこちらに向かって歩いてきている。
ここらでいいかな。
「じゃあ少し離れていてね」
僕は後ろを付いてきているネイに向かってそう言い、オーガに向かってゆっくりと歩く。
そうしながら僕は、首の後ろに隠れている魔法陣に魔力を流して起動。これは僕が着ている服の魔導具を発動させるためのスイッチのような物だ。
すると着ていた黒い服が不気味に蠢く。
「全ての魔法に親和性を示した魔人の素材。どんな魔導具にして、どうやって使おうか凄い悩んだんだ」
後ろにいるネイに話しかけながら歩く。
すると不気味に蠢いていた黒い服がだんだんと膨張し始めてきた。
最初は本当にこの素材の使い方に悩んだ。
剣にすればそれはさぞ切れ味の良い剣になるだろうし、僕がこっそりと考えていた魔力を使って弾丸を発射する銃、魔銃にすればそれはどんな装甲をも貫くものになるだろう。
そして盾や鎧にすれば剣や槍なんて全てはじくだろう。
武器に使うか、防具に使うか。はたまたここはあえて生活を便利にするための魔導具にするか。
「そうして悩んだ結果がこれだよ」
膨張していた服が突如、内部から五つの触手に分かれるようにはじける。
そしてそれらは僕の両腕、両足、頭、そして胴体にまとわりついてくる。
そしてギチギチという音をたてながら僅かに膨らむ。
「ライン!?」
ネイが焦ったような声で僕の名前を呼んできた。僕の魔導具が暴走でもしたとか思っているのだろうか。それは違う。
「大丈夫だよ、ネイ」
僕が着ていた服がそうした変化を経て、ようやく落ち着いた頃になって、彼女を安心させるように優しい声でそう言う。
「これが僕が魔人の素材で作ったパワードスーツだよ」
「それって、まるでーー」
武器にも防具にも、何にでも使うことができる最高の素材。
そんな素材を前にさんざん悩んだ挙げ句、僕がたどり着いた答えがこれだ。
そのまま使えばいいじゃない、と。
「ーー魔人じゃない……」
図書館で魔人の絵でも見たのだろうか。
はっきりとした口調でネイがそう言い切る。
だけどその通りだ。
「これはパワードスーツと言っても、こうやって展開した後の姿は解体して骨と肉、そして内蔵を抜いた魔人の素材を着ているだけなんだ。それでもこれは十分パワードスーツと言っても良い役割を果たしてくれるんだよ」
一口に魔人の素材を着ていると言っても、自分の体に合うように調整したり、通常形態、つまり服の形に収めるのには四苦八苦した。だけどその苦労が見合う魔導具ができたと僕は自負している。
「まぁ、そこで見ててよ」
後ろにいるネイに向かって僕はそう言う。
オーガとの距離はもう五メートルもない。
オーガは警戒しているのかそこで立ち止まり、こちらの様子を見ている。
だけど僕はそんなのは関係ないとばかりに歩みを進め、彼我の距離を少しずつ喰っていく。
すると体長が僕の三倍以上あるオーガが、腕を振り上げ、そして勢いよく振り下ろしてきた。
「[ブースト]」
しかしその攻撃は僕の前では通用しない。
その証拠に僕は何の防御もせずに頭でその攻撃を受けているだけだ。つまりオーガの振り下ろしてきた拳を首だけで支えていることになる。
全ての魔法に親和性が高いと言うことは、内包系の魔法、肉体強化魔法にも親和性が高いと言うことだ。それはつまりアーツにも同じことが言える。
そう。今のように。
「邪魔だな」
僕はオーガが必死に上から押しつぶそうとしてきている拳を、赤子の手を捻るよりも簡単に振り払う。
「ガアアアア!?」
おっと。少し強すぎたかな? まだ出力の調整が上手くいってないんだ。
オーガは僕が今手で振り払った場所をもう片方の手で押さえて叫んでいる。指が陥没しているから骨を折ってしまったのだろう。
まぁどうせこれは試運転だ。問題点が見つかればそれでいい。
僕は僅かに踵を上げる。
するとそれだけで体が宙に浮き、オーガと同じ目線の高さになった。
そして無造作に腕を前に突き出す。
感覚で言えば障子に腕を突き出した感覚だろうか。
その行為だけで僕の腕はオーガの皮膚を貫通し、肉を抉り、骨を砕いた。
そして心臓の中にある魔石に手が届き、それをーー握りつぶす。
「……あ」
しまった。魔石を取り出すだけのつもりだったのに、握りつぶしてしまった。帰ったら出力の調整を真っ先にすることにしよう。
オーガが地に倒れたことを確認し、僕はパワードスーツを通常形態に戻す。するとネイが後ろからトテトテとやってきた。
その顔は驚愕の色に染まっており、その歩みは少し重い。
頭が良いネイならどれだけこのパワードスーツが凄いのかすぐに理解できたのだろう。その証拠に彼女が開口一番に発した言葉がそれだ。
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