隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~
69話 二人の固有魔法と爆散
「ネイは凄いね。[風撃]は僕の固有魔法だったんだけど、固有じゃなくなっちゃった」
気持ちを入れ替えた僕は少し茶化したようにそう言う。そんな僕の様子を見たネイは僕がいつも通りに戻ったことに安堵したのか、彼女の顔から僕を心配する色が無くなっていた。
「それでも固有魔法は固有魔法よ! 二人だけが使える固有魔法なんて素敵じゃない?」
そうネイに言われて考える。たしかにこの世界で僕ら二人しか使えない魔法があると考えればロマンチックではないかと。それは僕一人が使える固有魔法よりも、たしかにネイの言う二人しか使えない魔法という方が良い気がする。
ならそれでいいではないか。
「……うん、そうだね。でも悔しいな。まだまだ改善点はあるとはいえ、すぐに[風撃]を使えるようになるなんてさ」
僕が正直に心の中で思っていたことを吐露すると、彼女はまるで悪戯が成功したような子供独特の可愛らしい笑顔を見せた。
「というかなんで僕の[風撃]を真似したのさ。他にももっと簡単に真似できるような魔法は色々とあっただろうに」
僕がそう言うと彼女は何かを思い出すように少し上を向いて語り出した。
「一月前、ラインと初めて会った日に凄く強そうな盗賊の男とラインが戦ったことがあったじゃない?」
そう言われて思い出す。
あぁ、そんなこともあったな、と。
「そうか。もうあれから一ヶ月以上経つのか。早いな」
懐かしくて思わず口からそうこぼしてしまった。するとネイは一度、うん。と頷き、続きを口にした。
「その時ラインが最後に使った[風撃]があたしの頭の中に凄く印象に残っててさ。あたしもあんな強い魔法を使えるようになりたいなー。なんて思ってたの。だからさっきやってみたんだ。まぁ結果はこの通りだけど」
ネイはそう言ってグロテスクな三つの血だまりと倒れた木々を指差してそう言った。
「それに、ほら。あたしってラインと出会うまでは弱かったでしょ? だからラインが使っていた[風撃]のような、どんな相手でも倒せる魔法を使えるようになりたかったの」
そういえば僕らが会った時、ネイは盗賊に捕まっていたっけ。その時の立場にいた彼女からすればそう思うのも仕方ないかもしれない。
でも、彼女は一つだけ勘違いをしている。
「ネイのその気持ちは分かったよ。でも僕の[風撃]はどんな相手でも倒せるような万能な魔法じゃないよ。実際に魔人には効かなかったし」
僕がそう言うと彼女はまるで雷に打たれたように目を見開いて驚いた。
「え!? そうなの!?」
「うん」
僕が頷くと彼女は再び驚いた。
……どんな敵でも倒せる魔法、か。そんなことを考えたことがなかったわけでは無い。でもなぁ……。あれを披露するのは……いや、ネイは頭がいいから分かってくれるか。
「ネイ、どんな敵でもって訳ではないけど、殆どの敵を倒せる魔法は僕が考えたやつでいいなら教えてあげるよ。でもその魔法は使い方によっては人をも簡単に殺せる魔法だから、練習するときは周りに気を配ってね」
僕が真剣な表情を作ってそう言うと、ネイも分かってくれたのか表情を引き締めて静かに頷いた。
ネイが分かってくれたことを確認し、僕は魔力探知でコボルトの集団を見つける。
「あっちにコボルトが五匹いるからそこで実際に見せてあげるよ」
「わかったわ」
いくら危険な魔法とはいえやはり魔法は魔法。ネイはこれから僕がどんな魔法を見せてくれるのかといった表情で楽しみにしているようだ。
そうしてしばらく歩くとコボルト達の姿が見えた。コボルト達もこちらの存在に気づいていたのかすぐに襲いかかってきた。まぁ、気配を隠していなかったからすぐに襲われるのは当たり前か。
後ろ手でネイを下がらせて僕はコボルト達に向かって右手を向ける。
そして魔法を使う。
「[爆散]」
僕がそう言うと同時に、五匹のコボルト達は一瞬で内部から爆発した。
しかし爆発したといってもコボルト達の血液は飛び散らない。飛び散ったのはせいぜいコボルト達の毛皮だけだ。他の臓器などは粉々に吹き飛んだのだろう。それらしき物が吹き飛んだのは見えなかった。
「なに……いまの……?」
呆然として、コボルト達がいた場所を眺めるネイ。彼女はしっかりと見ていたから見逃すことはなかったと思うけど、それでも今起きた目の前の現象が理解できないのだろう。彼女はかすれた声でそう聞いてきた。
「今のは単純に敵を内部から爆発させる魔法だよ。これを受けても死なないのはスケルトンぐらいじゃないかなぁ」
まぁスケルトンが出てきたなら他の魔法で十分倒せるけどね。
僕はコボルト達がいた場所に向かいながらネイにそう言う。
あー、やっぱり使える素材が残ってないや。だからこの魔法を使うのは嫌なんだよなぁ。
[爆散]
それは簡単に言えば電子レンジを強力にしたもの、と言えば分かるだろうか。食品にマイクロ波を当てることによって水分子を回転させ、摩擦熱を生じさせる。それが電子レンジの仕組みだ。それをもっと強力にしてやると摩擦熱が水の沸点を超えた瞬間、液体の水が気体になる。そのイメージで魔力を放ったのだ。
だがそれだけではあそこまでの威力は出ない。そのため単純に相手の血液や細胞の中に含まれている水分を酸素原子と水素原子二つに分けるイメージも行った。
この二つのイメージをするだけで、あれだけの威力が出るのだ。魔法とは怖いものである。
ちなみにこの魔法を思いついたのは初めて[ウォーター]を使った時だったりする。あの時は原子の組み合わせのイメージで魔法を使ったら上手くできたからね。
とは言っても流石にこの魔法のイメージの仕方はネイには教えられない。天才にこれを教えるともっと恐ろしい魔法を開発しそうだからだ。例えば核、とか。
もっともこの説明をしても彼女には理解できないかもしれないが。
というか今まで考えたことがなかったが、この魔法がある世界では案外命を奪うという行為は簡単なことではないか? 前のオハラ草原でやった実験もそうだったし……。こんな派手なことをしなくてももっとスマートに……いや、これを考えるのはよそう。考えるのをやめた方がいい臭いがプンプンする。
そんなことを考えつつ、僕は後ろを振り返る。するとネイはまだ放心状態だった。
「ネイ? 大丈夫?」
「……あ、うん」
僕が声をかけると僅かな沈黙の後、答えが返ってきた。どうやら[爆散]はネイにとって相当印象に残る魔法だったようだ。まぁ、いきなりコボルト達が目の前で爆発したからねぇ……。七歳の子供には刺激が強すぎたのかもしれない。いや、いきなり目の前でこんなことが起きたら誰でも驚くか。
「じゃ、リトルオーク探しの続きをしようか」
トテトテとこちらにやってきたネイに向かってそう言う。本来の目的はリトルオーク五体の討伐なのだ。こんなところで油を売って日が暮れてしまったら元も子もない。
というわけで僕はまだ放心状態のネイを連れて、再びシンリョクの森を歩き回ることにした。時間が経てば彼女の様子も元に戻るだろうと考えて。
そしてしばらくするとネイがポツリと呟いた。
「あたしもさっきラインが使った魔法を……」
あー、こりゃ彼女のスイッチが入っちゃったかもしれない。だとしたら[爆散]の魔法もまたすぐに使えるようになっちゃうんだろうな……。
もっと攻撃魔法のバリエーションを増やしておこう。
気持ちを入れ替えた僕は少し茶化したようにそう言う。そんな僕の様子を見たネイは僕がいつも通りに戻ったことに安堵したのか、彼女の顔から僕を心配する色が無くなっていた。
「それでも固有魔法は固有魔法よ! 二人だけが使える固有魔法なんて素敵じゃない?」
そうネイに言われて考える。たしかにこの世界で僕ら二人しか使えない魔法があると考えればロマンチックではないかと。それは僕一人が使える固有魔法よりも、たしかにネイの言う二人しか使えない魔法という方が良い気がする。
ならそれでいいではないか。
「……うん、そうだね。でも悔しいな。まだまだ改善点はあるとはいえ、すぐに[風撃]を使えるようになるなんてさ」
僕が正直に心の中で思っていたことを吐露すると、彼女はまるで悪戯が成功したような子供独特の可愛らしい笑顔を見せた。
「というかなんで僕の[風撃]を真似したのさ。他にももっと簡単に真似できるような魔法は色々とあっただろうに」
僕がそう言うと彼女は何かを思い出すように少し上を向いて語り出した。
「一月前、ラインと初めて会った日に凄く強そうな盗賊の男とラインが戦ったことがあったじゃない?」
そう言われて思い出す。
あぁ、そんなこともあったな、と。
「そうか。もうあれから一ヶ月以上経つのか。早いな」
懐かしくて思わず口からそうこぼしてしまった。するとネイは一度、うん。と頷き、続きを口にした。
「その時ラインが最後に使った[風撃]があたしの頭の中に凄く印象に残っててさ。あたしもあんな強い魔法を使えるようになりたいなー。なんて思ってたの。だからさっきやってみたんだ。まぁ結果はこの通りだけど」
ネイはそう言ってグロテスクな三つの血だまりと倒れた木々を指差してそう言った。
「それに、ほら。あたしってラインと出会うまでは弱かったでしょ? だからラインが使っていた[風撃]のような、どんな相手でも倒せる魔法を使えるようになりたかったの」
そういえば僕らが会った時、ネイは盗賊に捕まっていたっけ。その時の立場にいた彼女からすればそう思うのも仕方ないかもしれない。
でも、彼女は一つだけ勘違いをしている。
「ネイのその気持ちは分かったよ。でも僕の[風撃]はどんな相手でも倒せるような万能な魔法じゃないよ。実際に魔人には効かなかったし」
僕がそう言うと彼女はまるで雷に打たれたように目を見開いて驚いた。
「え!? そうなの!?」
「うん」
僕が頷くと彼女は再び驚いた。
……どんな敵でも倒せる魔法、か。そんなことを考えたことがなかったわけでは無い。でもなぁ……。あれを披露するのは……いや、ネイは頭がいいから分かってくれるか。
「ネイ、どんな敵でもって訳ではないけど、殆どの敵を倒せる魔法は僕が考えたやつでいいなら教えてあげるよ。でもその魔法は使い方によっては人をも簡単に殺せる魔法だから、練習するときは周りに気を配ってね」
僕が真剣な表情を作ってそう言うと、ネイも分かってくれたのか表情を引き締めて静かに頷いた。
ネイが分かってくれたことを確認し、僕は魔力探知でコボルトの集団を見つける。
「あっちにコボルトが五匹いるからそこで実際に見せてあげるよ」
「わかったわ」
いくら危険な魔法とはいえやはり魔法は魔法。ネイはこれから僕がどんな魔法を見せてくれるのかといった表情で楽しみにしているようだ。
そうしてしばらく歩くとコボルト達の姿が見えた。コボルト達もこちらの存在に気づいていたのかすぐに襲いかかってきた。まぁ、気配を隠していなかったからすぐに襲われるのは当たり前か。
後ろ手でネイを下がらせて僕はコボルト達に向かって右手を向ける。
そして魔法を使う。
「[爆散]」
僕がそう言うと同時に、五匹のコボルト達は一瞬で内部から爆発した。
しかし爆発したといってもコボルト達の血液は飛び散らない。飛び散ったのはせいぜいコボルト達の毛皮だけだ。他の臓器などは粉々に吹き飛んだのだろう。それらしき物が吹き飛んだのは見えなかった。
「なに……いまの……?」
呆然として、コボルト達がいた場所を眺めるネイ。彼女はしっかりと見ていたから見逃すことはなかったと思うけど、それでも今起きた目の前の現象が理解できないのだろう。彼女はかすれた声でそう聞いてきた。
「今のは単純に敵を内部から爆発させる魔法だよ。これを受けても死なないのはスケルトンぐらいじゃないかなぁ」
まぁスケルトンが出てきたなら他の魔法で十分倒せるけどね。
僕はコボルト達がいた場所に向かいながらネイにそう言う。
あー、やっぱり使える素材が残ってないや。だからこの魔法を使うのは嫌なんだよなぁ。
[爆散]
それは簡単に言えば電子レンジを強力にしたもの、と言えば分かるだろうか。食品にマイクロ波を当てることによって水分子を回転させ、摩擦熱を生じさせる。それが電子レンジの仕組みだ。それをもっと強力にしてやると摩擦熱が水の沸点を超えた瞬間、液体の水が気体になる。そのイメージで魔力を放ったのだ。
だがそれだけではあそこまでの威力は出ない。そのため単純に相手の血液や細胞の中に含まれている水分を酸素原子と水素原子二つに分けるイメージも行った。
この二つのイメージをするだけで、あれだけの威力が出るのだ。魔法とは怖いものである。
ちなみにこの魔法を思いついたのは初めて[ウォーター]を使った時だったりする。あの時は原子の組み合わせのイメージで魔法を使ったら上手くできたからね。
とは言っても流石にこの魔法のイメージの仕方はネイには教えられない。天才にこれを教えるともっと恐ろしい魔法を開発しそうだからだ。例えば核、とか。
もっともこの説明をしても彼女には理解できないかもしれないが。
というか今まで考えたことがなかったが、この魔法がある世界では案外命を奪うという行為は簡単なことではないか? 前のオハラ草原でやった実験もそうだったし……。こんな派手なことをしなくてももっとスマートに……いや、これを考えるのはよそう。考えるのをやめた方がいい臭いがプンプンする。
そんなことを考えつつ、僕は後ろを振り返る。するとネイはまだ放心状態だった。
「ネイ? 大丈夫?」
「……あ、うん」
僕が声をかけると僅かな沈黙の後、答えが返ってきた。どうやら[爆散]はネイにとって相当印象に残る魔法だったようだ。まぁ、いきなりコボルト達が目の前で爆発したからねぇ……。七歳の子供には刺激が強すぎたのかもしれない。いや、いきなり目の前でこんなことが起きたら誰でも驚くか。
「じゃ、リトルオーク探しの続きをしようか」
トテトテとこちらにやってきたネイに向かってそう言う。本来の目的はリトルオーク五体の討伐なのだ。こんなところで油を売って日が暮れてしまったら元も子もない。
というわけで僕はまだ放心状態のネイを連れて、再びシンリョクの森を歩き回ることにした。時間が経てば彼女の様子も元に戻るだろうと考えて。
そしてしばらくするとネイがポツリと呟いた。
「あたしもさっきラインが使った魔法を……」
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