隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~

サァモン

67話 平和とリハビリ

 見上げれば青い空、そして白い雲。
 そして前を見ればスライムがあちこちにいる草原。
 その先にはシンリョクの森が。






「……なんて平和なんだ」






 思わずそう呟いてしまった。
 夜のこの草原は夜行性で、しかも危険度高ランクの魔物達が跋扈する地獄となる。比喩ではない。文字通りの地獄だ。
 それと比べれば今のこの、スライムやゴブリンしかいないのどかな草原は何と平和なことか。






「どうしたの? ライン?」






「いや、なんでもないよ」






 一ヶ月前の夜に見たこの草原の有り様を思い出していると、ネイが横から僕の顔を覗き込んでそう言ってきた。
 だけど本当になんでも無いことなので適当に返事をしておく。
 そうやってたわいもない話をのんびりとしながら、そして目についた薬草を片っ端から取りながら僕らは魔人のいなくなったシンリョクの森へ向かう。






「ねぇ、ライン。あれから魔人の素材で魔道具は作れたの?」






 するとネイがそんな質問を投げかけてきた。




 ネイはこの一ヶ月の間、休むことなく受験勉強をしながら、僕があげた魔道具に常に魔力を注ぎ続けて魔力量を増やし、その休憩時間をスライム紙で絵をかくことに費やし魔力操作の技量を上げていた。端から見れば明らかにオーバーワークだったので、一度僕はキチンと休むように言ったのだが、休憩を終えるとまたその生活サイクルに戻っていた。なので僕は彼女の体調を心配して、そのつど休むように言ったのだが……結局この一ヶ月、彼女はその生活サイクルを成し遂げた。






「うん。なんとか完成させることができたよ。まぁまだ出来上がったばかりで試運転はしてないんだけどね」






 それに対して僕はこの一ヶ月間、ずっと魔道具作りにいそしんでいた。
 僕が一ヶ月前に討伐することに成功したあの魔人。その素材を使って僕は四苦八苦しながらも、最近になってなんとか魔道具と言っても良いレベルにまで完成させることができた。
 とはいってもまだ完全に完成した訳じゃない。さきに言った通り試運転を全くしていないからどこかしら問題が出てくるだろうし、それに気になるところも多々ある。






「そうだな……。もし今日の依頼が早く終わったら、森の中で試運転してもいい? 今なら魔人騒動の影響で誰も森の中にいないだろうし、いてもすぐわかるから」






「いいわよ! ラインが教えてくれなかった魔道具……とても気になるわ!」






 そう。僕は魔人の素材から作る魔道具に関しては内緒にしていた。ネイの驚く顔が見たいという気持ちももちろんあったが、それ以上に魔人の素材の性能が凄まじかったので、それに見合った魔道具を作ることができるか不安だったのだ。それに素材を魔力掌握するのにも相当な魔力が必要だったし……。まぁ一ヶ月という多大な時間をかけてようやく完成したので良しとする。






「楽しみにしててよ。多分上手くいくと思うから……多分」






「……? 珍しいわね。ラインがそこまで自信を無くしているのは」






 そう言われてみるとたしかにネイの前でこんな姿を見せるのは初めてかもしれない。道端に生えてる薬草を採りながらそう思う。






「……まぁあれだけ優秀な素材だからね。十全に活かせる魔道具にするのにはホントに苦労したんだよ」






「あー、たしか全ての魔法に親和性があったんだっけ? あれにはあたしも驚いたわ」






 そう。ネイの言う通り魔人の素材は、驚いたことに全ての魔法と親和性が高かった。つまりどんな魔道具にしても十全にその魔法陣の効果を発揮するということだ。そのため魔人の素材をどんな魔道具にするか非常に悩んだ。
 たがそれは既に過去の問題。全て解決した。
 お、薬草発見。
 プチっと千切り、それを[ストレージ]にポイッと入れる。




 そんな重要そうな話から、何気ないどうでもいいような話をしながらさらに道なりに進んでいくと森が近付いてきた。もうそろそろ周りを警戒していくか。






「前来た時と違っていっぱい魔物がいるわね」






「そうだね。でも全て弱い魔物みたいだから落ち着いて相手をすればそれほど脅威にはならないよ」






 森に足を踏み入れると早速魔力探知に魔物の反応があった。どうやらそれにはネイも気づいたみたいで早くも魔力を手のひらに集めて、いつでも戦えるように準備している。
 すると僕達から見て右前方の辺りからガサガサという落ち葉を踏みしめる音が聞こえてきた。そちらに警戒をするネイ。
 僕は彼女より一歩後ろに下がる。今日の狩りはネイと一緒にこの森に来るだけでなく、彼女の実戦のリハビリもかねているからだ。そのため僕は後ろに下がる。もっとも彼女に危険が迫ったらいつでも手助けできるよう準備はしているが。
 すると向こうもこちらの気配に気付いたのかガサガサといった音が無くなった。ネイは僕と同じく魔力探知が使えるようになったから、別に音がしなくなっても大丈夫だ。だから僕は気楽に彼女が戦っている様子を観察する。
 そうして互いに動かずに、直接姿は見えずとも警戒をする両者。その間約五秒。先に動いたのは魔物、ホーンラビットの方だった。






「キュィ!」






 木の陰から姿を現し、勢いよくネイに向かって飛び跳ねるホーンラビット。その頭に生えている鋭い一本の角は当然ネイに向いている。
 だがネイはそのホーンラビットの攻撃をしっかりと視認し、体を横にする事でその突撃を避けた。






「[アースニードル]」






 そしてネイはホーンラビットが着地する直前に、その着地点に魔法を放つ。するとそこからあっという間に巨大な針が何本も出てきてホーンラビットをグサグサと刺し殺した。
 ……なにその魔法。こわ。






「どう? ライン!」






 その魔法の威力とホーンラビットの結末を見てツーと冷や汗を流し、内心驚いていると、戦闘を終えたネイがこちらに向かってピースをしながらそう言ってきた。
 なので僕は一度冷静になり、さきの戦闘の様子と今のホーンラビットの死体の様子を見て結論をだす。






「百点中、八十点ってところかな。魔力探知で相手より早くその存在に気づいたこととか、ホーンラビットの攻撃の避け方は完璧だった。けど、トドメの刺し方がちょっと、ね」






 僕はネイが作り出した[アースニードル]に刺さっているホーンラビットの死体を引き抜く。そして彼女にそのホーンラビットを見せつける。






「このやり方だと素材が殆どダメになっちゃうんだ。内蔵はもちろん、ホーンラビットは身体がそんなにでかくないから毛皮も使える部分が少ない。これだと唯一売れそうなのは角ぐらいかな」






 でも、と僕はさらに続ける。






「これは冒険者としての見解であって、安全に狩るっていう面から見れば百点だよ。命があっての物種だからね」






 そう言って僕の見解を述べると、ネイはなるほど、と一つ頷いた。






「そっか。そうよね。あたし達は冒険者だから魔物を狩った後のことも考えなきゃダメよね」






 ……まぁ僕も最初はサーシャに同じことを言われたからあまり得意げには話せないんだけどね。
 ともかく僕らはホーンラビットの死体を、ネイがつい最近使えるようになった[ストレージ]に入れて再び森の中を探索することにした。
 ……つくづく驚かされるが、ネイも[ボックス]の上位魔法である[ストレージ]が使えるようになったのだ。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品