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隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~

サァモン

66話 ネイの心配と討伐依頼

「[風撃]」






 まだ太陽は昇っていない。それどころか昇ってくる気配すらない。つまり今はまだ真夜中だということだ。
 なので僕は[風撃]を使って外壁から王都の中に入ろうとした。






「あ、ついでに魔人の解体をしておこう」






 そのとき魔人を解体していないことに気付いたので、外壁の上でその作業をすることにした。












「……はぁ、はぁ、はぁ。疲れたー……」






 僕は外壁の上で寝転がり、一人そう呟く。気付けば周りの夜闇は全て消えて、太陽が昇っていた。朝である。
 おかしいな。たしか魔人の解体を始めたのは真夜中だったはずなのに、終わってみたら朝だ。魔人一匹解体するのに一体どれだけの時間を費やしたのだろうか。そう思うも、答えは当然だが分からない。何はともあれ魔人の解体は何とか終わったんだ。
 辛かった……。
 何あの魔人の皮膚。凄く堅かったんですけど。もう解体用のナイフが何本ダメになったことか……。[ストレージ]に僕が適当に作った解体用ナイフを入れてなかったら、全部解体できなかったよ。
 そして魔人の骨。あれだけ堅い外骨格のような皮膚を持っているくせに骨はもっと堅かった。だけどその堅さを誇りながらも丈夫で、しかも軽い。どれだけカルシウムとったらあんな骨になるんだよ。
 最後に一番苦労した角。これは本当に苦労した。だってナイフに魔力流し込んで耐久力と引き換えに無理矢理切れ味を上げたのにも関わらず、一切切れないかったんだ。しまいには逆に僕のナイフが何本も折れてしまった。
 そんな角をどうやって取り外したかというと、角は魔人の頭蓋骨から生えていたからその頭蓋骨を切り抜いた。もちろん解体用ナイフをさらに消費しながら。たった二本の角を採るためだけにナイフが軽く二十本は逝ったな。




 何はともあれ魔人の解体は終わったんだ。さっさと服を着替えて、紅眼モードから普段モードに変えよう。








「ただいまー」






「ライン!」






 そう言いながら僕は宿の部屋の扉をガチャリと開ける。するとネイが僕に向かって突然抱きついてきた。それを何とか受け止めることができ、ホッとすると同時に疑問を覚える僕。






「どうしたの?」






 何やらネイがぐずっているので心配になり、彼女の頭を優しく撫でながらそう聞く。すると彼女はその問いに答えることなく、しばらくの間ギュッと僕を抱きしめていた。一応誰かにみられたら気まずいので、ドアを閉めて鍵をかけておく。するとネイが僕の胸に顔をうずめたまま涙声で口を開いた。






「どうしたのって……あたしが何回リストバンドでラインを呼んだと思ったいるの!? 朝起きたらラインがいないから何回も何回も呼び出したのに全く返事が無いからてっきり、あたし……」






「……え、本当に? ごめん。全く気づかなかった……」






 ネイが朝起きるのは日の出前だ。その時間は僕は……魔人の解体をやっていたな。そういえば魔人の解体が終わってから朝だってことに気づいたんだっけ……。しまったな。解体に夢中になりすぎて、どうやらネイの着信を知らせるリストバンドの振動に気づかなかったみたいだ。これはネイに悪いことをしてしまった。ネイのこの様子からしたら、てっきり僕は魔人の胃袋の中にいるのでは? と心配したに違いない。本当に悪いことをしてしまったな。




 その後は泣いているネイの頭を優しく撫でながら何度も何度も謝って、彼女はようやく許してくれた。ただし次からはちゃんと連絡を入れることを約束させられた。当たり前か。






「それで、魔人はどうなったの? 倒したの?」






「もちろん倒してきたよ。[ストレージ]。ほら」






 ネイがそう聞いてきたので僕は[ストレージ]から解体済みの魔人の一部を取り出す。より具体的に言えば魔人の頭を取り出した。






「うぇ……」






 それを見た途端に眉を寄せ、非常に気持ち悪がるネイ。まぁ、持っている僕もあまり触りたくないんだけどね。だって魔人と呼ばれる通り、顔が人間に限りなく近いんだもの。あと、角を無理矢理抜き取ったせいかその中身が……う、気持ち悪くなってきた。さっさと[ストレージ]になおそう。






「で、これがその魔人の腕」






 頭を[ストレージ]になおした代わりに、僕は新たに腕を取り出す。これならグロさもほとんどないだろう。ネイの顔色を見ても、やはり人間離れした腕の方が気持ち悪くないらしい。






「触ってもいいよ」






 ネイに魔人の腕を差し出して触るように言う。するとネイは恐る恐るといった様子で筋肉でパンパンに膨れている魔人の腕に触れた。






「なにこれ……。凄い堅いじゃない。これが魔人……か」






 その腕を触って僕と同じようにその堅さに驚くネイ。そして魔人がどれだけ脅威的な存在か改めて認知しなおしたようだ。そりゃあこれだけ堅い皮膚を持つ生き物がいたら誰だって警戒するわな。






「それにしてもよくこんなの倒せたわね。大丈夫だったの? 見た所怪我とかはしていなさそうだけど」






 そう言われたので僕は軽く魔人戦の経緯を話した。






「落とし穴に落として、鉄球落として、水を流し込んでさらに電気を流すとか、なかなか鬼畜な殺りかたね」






 するとそんなことを言われてしまった。まぁ正々堂々戦ったとは胸を張って言えるような戦い方では無かったのは認める。だけど正々堂々と戦っていたら負ける自信があったのでこれでよかったのだ。ネイもそれは分かっているみたいで、本気でそう言っている訳ではなさそうだ。






「まぁ、何はともあれ魔人は討伐できたんだ。これからはまた一緒に冒険者ギルドの依頼を受けようよ」






 これまで魔人がシンリョクの森にいたことにより初心者の狩り場であるシンリョクの森の外縁部は殆ど使えなかった。だが、今は違う。僕が魔人を倒したから、その狩り場は安全だ。まぁ安全とは言ってもあくまで魔人がいたときと比較しての事であって、例え初心者の狩り場であっても常に危険は付きまとうんだけどね。






「ごめんなさい、ライン。その気持ちは嬉しいけど、実はまだ魔力量が足らなくて、さ。一緒に冒険者ギルドの依頼を受けたりするのは、もう少しだけ待ってくれない?」






 あ、そういえばネイの魔力量はまだ少なかったんだった。ここのところ魔人の事と魔道具のことばかり考えていたせいですっかり忘れていた。






「んー、なら僕もしばらくは狩りに出ないでゆっくりするよ。魔人の素材で魔道具を作るのは骨が折れそうだしね。そう考えるとちょうどいいや」






 僕の解体用ナイフを何本も犠牲にして手に入れた素材だ。あの堅さの素材を魔道具にするのはちょっとどころではない時間が必要になるだろう。もしかしたら一ヶ月では作り上げられないかもしれない。まぁその時は隙間時間を見つけてちょこちょこと作業することにしよう。






 そうして僕らはしばらくの間冒険者ギルドの依頼と狩りを休み、のんびりと、だけど受験勉強などのやることはしっかりとやってその一ヶ月を過ごした。














 そして一ヶ月後。






「どう? ライン」






「……カンペキダヨ」






「ほんと? やったぁ!」






 ネイは僕の言葉にその場で飛び跳ねて無邪気に喜んだ。
 だけど僕はそんなネイとは反対に異常な危機感を抱いていた。






(まさかスライム紙でここまで上手く絵を書けるようになるなんて……。僕が今のネイと同じように書けるようになったのはもっと時間がかかったぞ。それを一ヶ月で成し遂げるなんて……)






 さすが天才達が集まると言われる学園区域一の学校を目指すだけはある、と僕はそう思った。






(これは……僕も、うかうかしていられないな。もっとがんばらないとすぐにネイに追い越されてしまう)






 ネイの成長速度は異常だった。いくらそばに圧倒的な力量差がある僕がいたと言っても、さすがにこれだけのスピードで成長するとは全く思っていなかった。恐るべし、ネイ。






「魔力量も魔力操作もラインに合格をもらったから、早速冒険者ギルドに行って依頼を受けましょ、ライン!」






 僕が呆然とネイに手渡されたそのスライム紙を眺めていると、ネイからそう言われた。今はまだ昼前だ。シンリョクの森に行って帰ってくるには十分に時間がある。






「分かったよ。それじゃあ、一緒に行こうか」






 ネイにスライム紙を返し、僕は座っていた椅子から立ち上がる。
 彼女の魔力量も一ヶ月前とは違い、大分増えていた。さすがにそれは僕と同じ魔力量にまでは達しなかったけど、それでも七歳にしてはトップクラスの魔力量を有しているだろう。
 僕らは宿を出て、久々に冒険者ギルドに行った。






「ライン、どの依頼を受ける? 結構色々とあるけど……」






「んー、多分今のネイは魔力量とか魔力操作の実力はすごいけど、実戦の経験があまりないと思うからなるべく採取依頼じゃなくて討伐依頼にしたほうがいいと思うよ」






 今のネイはノルド領を出た時の僕の状態に似ている。実戦経験が殆どなく無く、だけど魔力量と魔力操作の技量は高い。そんな状態だ。
 だから僕はネイに討伐依頼を勧めた。
 するとネイはいくつかの依頼で迷った様子を見せた後、一つの依頼書を手に取った。






「これはどう?」






「リトルオーク五匹の討伐か。うん。難易度的には低い気がするけど、それでいいと思うよ。ついでに薬草採取の依頼も受けておこうか」






 リトルオークとは簡潔に言うならば子豚の事だ。ただし二足歩行の、という注釈がつく。かの有名な豚の魔物、オークの子どもで、シンリョクの森の外縁部にはゴブリンやコボルトと並んでたくさんいる魔物の内の一種だ。
 今の僕らの実力からしたら簡単な依頼だろう。だが、油断せずに真剣に取り組むという経験は大事だと思うのでその依頼を受けることにする。
 ちなみに薬草採取の依頼はシンリョクの森に行くまでにたくさんの薬草が取れるからついでに受けておく。




 依頼書を持って久々に会った受付嬢のミアさんのところへ行く。そしてネイがミアさんに依頼書を渡すと、それを見た彼女は眉根を寄せてこの依頼を受けないことを勧めてきた。
 どうやらまだ魔人が森からいなくなったことについての情報は出回っていないみたいだな。






「大丈夫ですよ。森に入る一歩手前からリトルオークを探すつもりですから」






 だけどそこはなんとか適当な理由を付けてごまかした。事前に僕に口裏を合わせるようにネイに言っておいたからか、彼女も僕の横でしきりに首を縦に振っている。……首を振っているだけだけど、変なことを言わないよりはましか。
 そうして僕らはなんとかミアさんを説得してリトルオーク討伐依頼の手続きをしてもらった。
 それじゃあ、一ヶ月ぶりのシンリョクの森に行くとしますか!

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