隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~
65話 新たなリストバンドと一方的な戦い
ネイが起きてから早速新しく作った魔道具を見せびらかして、ネイの反応を楽しんだ後、僕はブラックウルフの革から作られた[念話]のリストバンドの性能を確かめるために宿の外に出た。ちなみに僕が見せびらかした魔道具をネイの分も作ったことを教えると彼女は大喜びしていた。
《ネイ、聞こえる?》
《聞こえるわよ》
そして僕は冒険者ギルドと図書館に行き、ネイと[念話]のリストバンドで会話した。なんと驚いたことに、このブラックウルフから作られたリストバンドは[念話]を使っても殆どラグが無いのである。これにはさすがに僕も驚いた。
《じゃあ僕は図書館に寄ってから帰るよ》
《りょーかい。あたしはここで勉強しておくわ》
そんなやりとりをし、僕は図書館に入る。魔人について詳しい資料があるか確かめるためである。ちなみに冒険者ギルドでも少し魔人について調べた。が、残念ながら過去に魔人が王都を襲ったのは数回らしく、それも数の暴力で魔人に勝った戦いが殆どらしいので今回の戦いでは一切参考になりそうに無かった。
そうして僕は二時間程図書館で魔人について調べた。しかし僕が望むような資料は残念なことに存在しなかった。せめて弱点とかが分かれば良かったんだけど……。ま、無いものねだりをしてもしょうがない。諦めるか。
時刻は詳しく分からないけどお月様が空に昇っている。夜だ。とうとう僕は魔人狩りにでかける。
紅眼モードになり、王都の外壁をコッソリと飛び出す。そしてスルーカメレオンのマントとミッドナイトオウルの靴に魔力を注いで魔物が跋扈している草原を何者にも見つかることなく突っ切る。ホントに便利だな、これ。
そんなことを思いながら走っているとシンリョクの森の手前まできた。ここらへんにとある罠を仕掛ける。この罠に上手く魔人がハマれば確実にしとめることができるはずだ。
「[風撃]」
罠を仕掛け終わった後、僕は[風撃]を使い空を飛んで外壁の上に降り立った。後はここで魔人が森の中から出てくるのを待つだけである。
魔人がシンリョクの森から出てくるまでの間退屈だったので、眼下にいる魔物たちの弱肉強食の世界を見ていると不意に叫び声が聞こえた。
「ガアアアアアアアア!」
背筋が一瞬にして凍りつくこの感じ。まさしく魔人以外の何物でも無い。
そう確信して僕は[視覚強化]を使いシンリョクの森の方を見る。するとそのシンリョクの森の中からたくさんの小型の魔物が出てきているところだった。きっと魔人の声を聞いて逃げ出したんだろう。
そんな事を考えながら僕はシンリョクの森の様子を観察する。
しばらくそのままシンリョクの森の様子を観察していると今度は中層域に生息している魔物たちが外に出てきた。この間と同じならもうそろそろ魔人が現れても良いはず……。
すると黒い肌に真っ赤な目、そして特徴的な真っ黒な角が生えた人型の何かが森の中から現れた。とうとうその魔人が姿を現したのだ。
「やっと出てきたか。待ちくたびれたよ」
思わずそんな独り言が口からでる。
そんな僕の心情などつゆ知らず、その魔人はシンリョクの森の中層域に生息する魔物たちを追っている。
「さてと。そろそろ行きますか」
立ち上がって一度延びをし、そう呟く。
ちゃんとした作戦を建ててきたからだろうか。この間見たときはあれだけ怖かった魔人が、今はただの魔物と同じように対峙できる自信がある。いや、それ以上に戦って勝つこともできる気がする。
まぁ実際にそんなことをすれば損害が山ほどでるだろうし、調子に乗ったりなんかすると負ける可能性が大いにあるのでそんなことはやらないが。
ともかく今回考えてきた魔人討伐の作戦は、決まれば確実に魔人を倒すことができるだろう。
「[風撃]」
そう確信して僕は透明マントで姿を隠し、[風撃]で空を飛ぶ。ちなみに透明マントの中から外は見えないので、目から上だけを外にだして飛んでいる。
あ、今回はナイトキャットが捕まってる。
まぁ、今ナイトキャットを捉えて補食している事については僕にとって都合がいい。そのまま夢中で食べてておくれ。
そんなことを考えながら僕は魔人から少し離れた場所に着地する。着地するときの音は靴底に張ってあるミッドナイトオウルの革に魔力を通したおかげで音が一切でない。
そして僕は魔人が夢中になってナイトキャットを食べているのを良いことに、罠がある場所と魔人の延長線上に位置取りをする。
そうして位置取りを終えると、僕はいまだにそれを貪る事に夢中になっている魔人に向かって右手を突き出す。
「[空砲]」
食事中の魔人に向かって僕は全力で[空砲]を放つ。そうして放たれた空気の巨大な圧縮弾はその魔人を僕が仕掛けた罠の方へ吹き飛ばした。
突然のことに何が起こったのか分からない。そんな顔をしている魔人は見事に僕が作った罠にはまった。
ナイスショット!
僕が作った罠。
それは蟻地獄を参考にした円錐形の窪みだ。そしてその窪みの中央には縦に巨大な落とし穴がある。なお、ここは砂漠ではないので容易に抜け出すことができる。が、そこは一工夫を入れた。円錐の側面にこれでもかと言うほどの魔物から取れた油を塗りたくったのだ。
これによって摩擦力が減り、魔人は上手く立ち上がることすらできずに、中央の落とし穴へと滑りながら落ちていく。ちなみにそうやって穴に落ちるまでの魔人の反応はなかなか面白かった。
そうして縦に巨大な落とし穴へと落ちていった魔人。あの見た目と足音からして相当な重量を持っているだろうから、落下による運動エネルギーによって死んでるはず……。
そう思い僕は透明マントを外し、[風撃]で空を飛びながら穴の中を覗いた。しかしその中は真っ暗で見えなかった。当たり前か。僕は片目ゴーグル型眼帯を暗視モードに切り替え、改めてその穴の底を見る。
「……まじかよ」
すると穴の底で蠢く影があった。
いや、あれは影じゃない。魔人の肌の色だ。
なんと魔人は生きていた。魔人がこの間十メートル以上ジャンプしていたのを見たから穴の深さは軽く十メートルを越えるようにしている。それにも関わらず魔人はまだ息をして動いている。それだけではない。魔人はロッククライミングをするように穴の側面に手足をつけて登り、穴から脱出しようとしている。
やばい、どうしよう……。
これだけの高さから落っこちたら、いくら魔人と言えども絶対に倒せると思ったんだけどな……。
そんなことを考えている間にも魔人は穴の側面に手足をかけて登ってきている。早くどうにかしなければ。
……取りあえず魔法を連打して魔人が穴の中から出ないようにするか。
「[風撃]! [炎弾]! [空砲]!」
次から次へと穴を登ってきている魔人に向かって半ばがむしゃらに魔法を乱発する。魔人には魔法が効かないことは分かっているが、魔法が当たったときのその衝撃は消せるわけではないだろう。その証拠に、ほら、再び底に落ちていった。
その間に僕はどうやってこの魔人を倒そうかと考える。
このまま魔人が登ってきたところを狙って、魔法を乱発するか? いやでもそれだと僕の魔力が先に尽きるかもしれないから無しだな。だって魔力が尽きれば確実に死ぬもん。
どうする? どうする? どうする?
早く決めないといつこの状況がひっくり返るか分からない。
どうする?
……いや、まずは落ち着こう。
どうやら僕は予想外の展開に動揺しているらしい。一度深く深呼吸をして、再度頭を回転させる。
よく考えてみればこの状況をひっくり返せる要素はどこにもない。穴の中にいる魔人は這い出そうとしても僕が魔法を放てば下に落っこちるし、周りを見ても魔物の姿はもちろん、脅威になりそうな動物や虫もいない。それに魔人は魔法を使わないらしいからそれも問題ない。
つまり今のこの状況は魔人の生殺与奪は僕が握っている。そして深い穴の底にいる魔人を倒すにはいくらでも手がある。例えばーー
「[アイアンボール]」
ーー大きな鉄球を穴の上から下に向かって落下させる、とか。
「ガアァ!?」
鉄球を落下させた穴の底から魔人の苦しげな声が聞こえてきた。それを無視してさらに僕は追加の鉄球を落とす。
「[アイアンボール]」
「ガアァァ!?」
再び聞こえる魔人の苦しげな声と鉄球同士がぶつかり合う音が穴の底から聞こえてくる。……ふむ。まだ耐えるか。それなら今度は手を変えよう。
「[ウォーター]」
僕の手のひらから穴の直径と殆ど変わらない水柱が放出される。それはもちろん穴の底に流れこんで行き、魔人の顔の高さまで浸かる。
上から抑えつけてくる鉄球に、息を止めんとする水。
これだけあれば十分だろう。
たが、奴の息の根はまだ止まっていない。ここで魔人を確実に倒すために、さらなる追撃を加えることにする。
……いや、まて。素材が傷ついたりしたら、もしかすると魔道具を作る際に何か困ることがあるかも知れない。それを考えればあまりやりすぎない方がいいのでは? 
いやしかし、いつ何が起こってこの状況がひっくり返るか分からない。もしかしたら今は周りにいないけど、魔物が襲ってくるかもしれない。そしたらこの状況がひっくり返る可能性がある。だからやはりここはすぐにトドメを刺すべきじゃないか?
そうやって悩むこと約一分。僕は決断した。弱い攻撃をちょくちょく当てよう、と。優柔不断の妥協案だが気にしない。
ちなみに魔人は未だにしぶとく生き残っている。息もできない状況で、さらに大きな鉄球を二つも支えているのに、なんてタフさなんだ。
内心で魔人のそのタフさに驚くが、僕は容赦なくその魔人に攻撃を当てる。
「[雷撃]」
出力の弱い[雷撃]を鉄球に向かって撃つ。すると鉄球に流れた電流はもう一つの鉄球を伝い、魔人の体へと流れ込んで行く。そうして電流は容赦なく魔人の体全体を痺れさせる。
「カボッゴボッ」
すると穴の底からそんな音が聞こえてきた。どうやら上手く電流が穴の底まで流れたらしい。まぁ、魔力操作で二つの鉄球を穴の側面に触れさせないようにしているから魔人までに電流が流れるのは当然なのだが。
そうしてしばらくの間、僕は弱い出力で[雷撃]を何度も何度も打ち続けた。すると僕の魔力探知から魔人の反応が完全に消えた。念のため片目ゴーグル型眼帯を[魔力源探知]に切り替え穴の底を覗く。すると僕の魔力探知と同じように魔人の体がある場所からは魔力が出ていなかった。これは魔人が死んだ証拠だ。
それを確認して僕は魔力で作り出した鉄球と水を霧散させ、穴の底に降り立った。
そして魔人を[ストレージ]に入れる。
「うわ、堅!」
魔人の体を持ち上げ[ストレージ]に入れる際、皮膚を触ったのだが、これが予想以上に堅い。体は人型をしているのに、まるで昆虫の外骨格のみたいだ。
そしてついでに角も触ってみた。その角は予想外にもツルツルしていた。もっとザラザラしているものかと思ってたんだけどな。あ、でも角の先端は恐ろしく鋭かった。軽く触っただけなのに指から血が出てきたから、どれだけこの角が鋭いのか分かろうものである。
これは……いい素材を手に入れてしまったな。つい、ウヘヘ、とだらしなく口を歪めてしまった。この魔人の素材でどんな魔道具を作ろうかなー。
《ネイ、聞こえる?》
《聞こえるわよ》
そして僕は冒険者ギルドと図書館に行き、ネイと[念話]のリストバンドで会話した。なんと驚いたことに、このブラックウルフから作られたリストバンドは[念話]を使っても殆どラグが無いのである。これにはさすがに僕も驚いた。
《じゃあ僕は図書館に寄ってから帰るよ》
《りょーかい。あたしはここで勉強しておくわ》
そんなやりとりをし、僕は図書館に入る。魔人について詳しい資料があるか確かめるためである。ちなみに冒険者ギルドでも少し魔人について調べた。が、残念ながら過去に魔人が王都を襲ったのは数回らしく、それも数の暴力で魔人に勝った戦いが殆どらしいので今回の戦いでは一切参考になりそうに無かった。
そうして僕は二時間程図書館で魔人について調べた。しかし僕が望むような資料は残念なことに存在しなかった。せめて弱点とかが分かれば良かったんだけど……。ま、無いものねだりをしてもしょうがない。諦めるか。
時刻は詳しく分からないけどお月様が空に昇っている。夜だ。とうとう僕は魔人狩りにでかける。
紅眼モードになり、王都の外壁をコッソリと飛び出す。そしてスルーカメレオンのマントとミッドナイトオウルの靴に魔力を注いで魔物が跋扈している草原を何者にも見つかることなく突っ切る。ホントに便利だな、これ。
そんなことを思いながら走っているとシンリョクの森の手前まできた。ここらへんにとある罠を仕掛ける。この罠に上手く魔人がハマれば確実にしとめることができるはずだ。
「[風撃]」
罠を仕掛け終わった後、僕は[風撃]を使い空を飛んで外壁の上に降り立った。後はここで魔人が森の中から出てくるのを待つだけである。
魔人がシンリョクの森から出てくるまでの間退屈だったので、眼下にいる魔物たちの弱肉強食の世界を見ていると不意に叫び声が聞こえた。
「ガアアアアアアアア!」
背筋が一瞬にして凍りつくこの感じ。まさしく魔人以外の何物でも無い。
そう確信して僕は[視覚強化]を使いシンリョクの森の方を見る。するとそのシンリョクの森の中からたくさんの小型の魔物が出てきているところだった。きっと魔人の声を聞いて逃げ出したんだろう。
そんな事を考えながら僕はシンリョクの森の様子を観察する。
しばらくそのままシンリョクの森の様子を観察していると今度は中層域に生息している魔物たちが外に出てきた。この間と同じならもうそろそろ魔人が現れても良いはず……。
すると黒い肌に真っ赤な目、そして特徴的な真っ黒な角が生えた人型の何かが森の中から現れた。とうとうその魔人が姿を現したのだ。
「やっと出てきたか。待ちくたびれたよ」
思わずそんな独り言が口からでる。
そんな僕の心情などつゆ知らず、その魔人はシンリョクの森の中層域に生息する魔物たちを追っている。
「さてと。そろそろ行きますか」
立ち上がって一度延びをし、そう呟く。
ちゃんとした作戦を建ててきたからだろうか。この間見たときはあれだけ怖かった魔人が、今はただの魔物と同じように対峙できる自信がある。いや、それ以上に戦って勝つこともできる気がする。
まぁ実際にそんなことをすれば損害が山ほどでるだろうし、調子に乗ったりなんかすると負ける可能性が大いにあるのでそんなことはやらないが。
ともかく今回考えてきた魔人討伐の作戦は、決まれば確実に魔人を倒すことができるだろう。
「[風撃]」
そう確信して僕は透明マントで姿を隠し、[風撃]で空を飛ぶ。ちなみに透明マントの中から外は見えないので、目から上だけを外にだして飛んでいる。
あ、今回はナイトキャットが捕まってる。
まぁ、今ナイトキャットを捉えて補食している事については僕にとって都合がいい。そのまま夢中で食べてておくれ。
そんなことを考えながら僕は魔人から少し離れた場所に着地する。着地するときの音は靴底に張ってあるミッドナイトオウルの革に魔力を通したおかげで音が一切でない。
そして僕は魔人が夢中になってナイトキャットを食べているのを良いことに、罠がある場所と魔人の延長線上に位置取りをする。
そうして位置取りを終えると、僕はいまだにそれを貪る事に夢中になっている魔人に向かって右手を突き出す。
「[空砲]」
食事中の魔人に向かって僕は全力で[空砲]を放つ。そうして放たれた空気の巨大な圧縮弾はその魔人を僕が仕掛けた罠の方へ吹き飛ばした。
突然のことに何が起こったのか分からない。そんな顔をしている魔人は見事に僕が作った罠にはまった。
ナイスショット!
僕が作った罠。
それは蟻地獄を参考にした円錐形の窪みだ。そしてその窪みの中央には縦に巨大な落とし穴がある。なお、ここは砂漠ではないので容易に抜け出すことができる。が、そこは一工夫を入れた。円錐の側面にこれでもかと言うほどの魔物から取れた油を塗りたくったのだ。
これによって摩擦力が減り、魔人は上手く立ち上がることすらできずに、中央の落とし穴へと滑りながら落ちていく。ちなみにそうやって穴に落ちるまでの魔人の反応はなかなか面白かった。
そうして縦に巨大な落とし穴へと落ちていった魔人。あの見た目と足音からして相当な重量を持っているだろうから、落下による運動エネルギーによって死んでるはず……。
そう思い僕は透明マントを外し、[風撃]で空を飛びながら穴の中を覗いた。しかしその中は真っ暗で見えなかった。当たり前か。僕は片目ゴーグル型眼帯を暗視モードに切り替え、改めてその穴の底を見る。
「……まじかよ」
すると穴の底で蠢く影があった。
いや、あれは影じゃない。魔人の肌の色だ。
なんと魔人は生きていた。魔人がこの間十メートル以上ジャンプしていたのを見たから穴の深さは軽く十メートルを越えるようにしている。それにも関わらず魔人はまだ息をして動いている。それだけではない。魔人はロッククライミングをするように穴の側面に手足をつけて登り、穴から脱出しようとしている。
やばい、どうしよう……。
これだけの高さから落っこちたら、いくら魔人と言えども絶対に倒せると思ったんだけどな……。
そんなことを考えている間にも魔人は穴の側面に手足をかけて登ってきている。早くどうにかしなければ。
……取りあえず魔法を連打して魔人が穴の中から出ないようにするか。
「[風撃]! [炎弾]! [空砲]!」
次から次へと穴を登ってきている魔人に向かって半ばがむしゃらに魔法を乱発する。魔人には魔法が効かないことは分かっているが、魔法が当たったときのその衝撃は消せるわけではないだろう。その証拠に、ほら、再び底に落ちていった。
その間に僕はどうやってこの魔人を倒そうかと考える。
このまま魔人が登ってきたところを狙って、魔法を乱発するか? いやでもそれだと僕の魔力が先に尽きるかもしれないから無しだな。だって魔力が尽きれば確実に死ぬもん。
どうする? どうする? どうする?
早く決めないといつこの状況がひっくり返るか分からない。
どうする?
……いや、まずは落ち着こう。
どうやら僕は予想外の展開に動揺しているらしい。一度深く深呼吸をして、再度頭を回転させる。
よく考えてみればこの状況をひっくり返せる要素はどこにもない。穴の中にいる魔人は這い出そうとしても僕が魔法を放てば下に落っこちるし、周りを見ても魔物の姿はもちろん、脅威になりそうな動物や虫もいない。それに魔人は魔法を使わないらしいからそれも問題ない。
つまり今のこの状況は魔人の生殺与奪は僕が握っている。そして深い穴の底にいる魔人を倒すにはいくらでも手がある。例えばーー
「[アイアンボール]」
ーー大きな鉄球を穴の上から下に向かって落下させる、とか。
「ガアァ!?」
鉄球を落下させた穴の底から魔人の苦しげな声が聞こえてきた。それを無視してさらに僕は追加の鉄球を落とす。
「[アイアンボール]」
「ガアァァ!?」
再び聞こえる魔人の苦しげな声と鉄球同士がぶつかり合う音が穴の底から聞こえてくる。……ふむ。まだ耐えるか。それなら今度は手を変えよう。
「[ウォーター]」
僕の手のひらから穴の直径と殆ど変わらない水柱が放出される。それはもちろん穴の底に流れこんで行き、魔人の顔の高さまで浸かる。
上から抑えつけてくる鉄球に、息を止めんとする水。
これだけあれば十分だろう。
たが、奴の息の根はまだ止まっていない。ここで魔人を確実に倒すために、さらなる追撃を加えることにする。
……いや、まて。素材が傷ついたりしたら、もしかすると魔道具を作る際に何か困ることがあるかも知れない。それを考えればあまりやりすぎない方がいいのでは? 
いやしかし、いつ何が起こってこの状況がひっくり返るか分からない。もしかしたら今は周りにいないけど、魔物が襲ってくるかもしれない。そしたらこの状況がひっくり返る可能性がある。だからやはりここはすぐにトドメを刺すべきじゃないか?
そうやって悩むこと約一分。僕は決断した。弱い攻撃をちょくちょく当てよう、と。優柔不断の妥協案だが気にしない。
ちなみに魔人は未だにしぶとく生き残っている。息もできない状況で、さらに大きな鉄球を二つも支えているのに、なんてタフさなんだ。
内心で魔人のそのタフさに驚くが、僕は容赦なくその魔人に攻撃を当てる。
「[雷撃]」
出力の弱い[雷撃]を鉄球に向かって撃つ。すると鉄球に流れた電流はもう一つの鉄球を伝い、魔人の体へと流れ込んで行く。そうして電流は容赦なく魔人の体全体を痺れさせる。
「カボッゴボッ」
すると穴の底からそんな音が聞こえてきた。どうやら上手く電流が穴の底まで流れたらしい。まぁ、魔力操作で二つの鉄球を穴の側面に触れさせないようにしているから魔人までに電流が流れるのは当然なのだが。
そうしてしばらくの間、僕は弱い出力で[雷撃]を何度も何度も打ち続けた。すると僕の魔力探知から魔人の反応が完全に消えた。念のため片目ゴーグル型眼帯を[魔力源探知]に切り替え穴の底を覗く。すると僕の魔力探知と同じように魔人の体がある場所からは魔力が出ていなかった。これは魔人が死んだ証拠だ。
それを確認して僕は魔力で作り出した鉄球と水を霧散させ、穴の底に降り立った。
そして魔人を[ストレージ]に入れる。
「うわ、堅!」
魔人の体を持ち上げ[ストレージ]に入れる際、皮膚を触ったのだが、これが予想以上に堅い。体は人型をしているのに、まるで昆虫の外骨格のみたいだ。
そしてついでに角も触ってみた。その角は予想外にもツルツルしていた。もっとザラザラしているものかと思ってたんだけどな。あ、でも角の先端は恐ろしく鋭かった。軽く触っただけなのに指から血が出てきたから、どれだけこの角が鋭いのか分かろうものである。
これは……いい素材を手に入れてしまったな。つい、ウヘヘ、とだらしなく口を歪めてしまった。この魔人の素材でどんな魔道具を作ろうかなー。
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